第3章

「ちょ…ちょっと待て!話が違うじゃないかッ!!」
ソファと邑輝の間で体を捩らせながら、都筑は精一杯の抵抗をみせていた。
邑輝の別宅(らしい)マンションに連れて来られ、部屋に通された途端に体を拘束、ソファに座らされ……今に至っていた。

整えられた室内は当たり前だが人の気配も無く、叫んでも誰も助けには来ないだろう。
それでも必死に体をバタつかせもがく都筑に、邑輝は顔を寄せ耳朶に軽く息を吹きかけた。
一瞬、抵抗を弱め体をビクンと震わせる姿に、更なる欲求が邑輝の心を支配していく。
「話が違う?おかしいですね…私は『誕生日を祝って欲しい』と言った筈ですが」
熱が篭った囁きに、今更ながら邑輝の思惑に嵌められたと都筑は気付いた。
後悔だけが次々と浮かび上がってくる。怒りよりも激しい後悔…それを振り切るように寄せている邑輝の顔に手を上げた。
しかし、寸での所で遮られ、反対に殴りかけた手を後ろに回されてしまった。
「いけませんよ都筑さん。直ぐに暴力に訴える…悪い癖がまだ治っていないようですね」
片手で都筑の両手を握り込み、素早くネクタイを外すと器用に縛り動きを封じた邑輝は、そのまま都筑の衣服を乱していった。
「やめッ…嫌だ!邑輝…離せ!!」
動きの取れない両手の代わりに足を突っ張らせ、激を飛ばす都筑を楽しげに見つめると肌蹴たシャツへ手を滑らせていく。
しっとりと手に吸い付いてくる白い肌を撫でながら邑輝は喉を鳴らし笑い掛けた。

「可愛い人だ…もっと抵抗してください。貴方が嫌がる程、楽しみが増し貴方の体も…ほら」
指先に引っ掛かる桜色に染まった突起をきつく摘む。
「はぁッ…ん…嫌だ…や…め…」
あられもない声を上げながらも虚勢を張る姿に邑輝は背筋がゾクゾクと震えるのを感じ、艶やかな笑みを浮かべ、プツリと尖った突起に舌を這わせた。
「どんなに私を拒否しても、都筑さん…貴方の躯は私を欲しがって求めてくる。嬉しいですよ…貴方の心も体も…総てを理解出来るのは私だと訴えているようで」
「……んッ…あ…ヤダ…や…」
違う…と言いたかった。邑輝の愛撫に何度も嬌声を漏らしながら、都筑は快感に流されていく思考の中で、抗いながらも言えない言葉を心の中で呟いていた。
「巽さんと言いましたっけ?…あの聡明な秘書殿は、貴方をどうやって抱くのでしょうね。こうやって大事に大事に…壊れ物でも扱うように?」
耳朶を噛みながら、散々弄っていた突起から手を離すと下肢へと伸ばし、寛がせたズボンの上から緩く撫で上げる。
「あぅ!…そ…んな事ッ…」
不意に発せられた『巽』という言葉に過敏に反応してしまう。目の前に悲しみと怒りに震える巽の姿が浮かび上がり、知らずに涙が溢れてきた。
体を大きく仰け反らせる都筑の反応が可笑しくてクスリと笑い、邑輝は潤む都筑の紫紺の瞳に口付けを落とした。
「それとも…こんな風に激しく求めてくださるとか?」
下着をズボンごと一気に引き下ろすと、股の間に顔を埋め、直に握り込むと強い愛撫を施していく。
「やぁッ…あ…ッ…む…邑輝ッ…」
「私はね、優しさという偽善的な壁で取り繕って、貴方の…闇の部分を『愛』という取り留めのないもので覆い隠そうとする、高慢な秘書が大嫌いなんですよ。」
濡れた音を響かせながら言葉の暴力を加えていく。
そんな邑輝の態度に居た堪れず、都筑は悲痛な面持ちで邑輝を見つめた。
後ろ手に縛られている手の痛みよりも、肝心な所で焦らされる辛さよりも、邑輝の口から浴びせられる一言一言が何よりも切なかった。
邑輝に体を委ね、その口から巽の事を告げられる痛みは、まるで自分の卑劣さを責められているようだった。
「都筑さん、私だけを見てください…その美しい瞳に私だけを映してください。私なら貴方と闇を分かち合える」
甘い声を響かせ、都筑を真撃な瞳で見つめる。
「邑輝……」
吐息交じりに名を呼ぶと、都筑は不自由な体を動かし邑輝の顔に近付き、そっと唇を重ね合わせた。
誘いに乗るように深くなる口付けの中で『ごめん』と呟いてみる。
ただ、一体何に…誰に対して告げたセリフなのか、都筑にも分からなかった。
「も…言わないで…誕生日なんだろ…俺を……」
「都筑さん」
最後の言葉を飲み込むように唇を貪りながら、邑輝は都筑の体を開いていった-------



「……8時10分前か…」
傍らで眠る都筑の髪を梳きながら、壁に掛かる時計を見上げると邑輝は気だるそうに紫煙を吐き出した。このまま帰さずに縛り付けておく事もできるのだが…
「今日は素直にあの人の元に返して差し上げよう…奪う事はいつでもできる」
煙草を灰皿に押しつけ、不敵な笑みを浮かべた。
今日は少々苛めが過ぎたのかもしれない…普段なら情事の最中に『巽』の事を口に出すことはしない。それが今日は止められなかった。
理由は多分……頭に過ぎる思いに苦笑を浮かべ、その思いを打ち消した。
「愚かですね…」
都筑さん…貴方も、あの秘書殿も。…そして私も…
「さて、そろそろ行きましょうか…ああ、でもその前に」
ゆっくりと首筋に唇を落とし、きつく吸い上げる。朱に染まる痕を指でなぞり、フッと笑みを零すと眠り続ける都筑を抱き上げた。
「貴方がくだらない言い訳を考える必要が無いようにしておきましたよ…」
目を細め寝顔を見つめると、一瞬…都筑の顔が綻んで見えた。気のせいであっても、それが嬉しいと感じる自分の気持ちに戸惑いを覚えながら、邑輝は再び唇を重ねていった。

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