不機嫌な理由


「あ、これ美味しいね。」
「・・・・・ええ。」
「・・・この酢の物、俺好きだなあ。」
「・・・それは、良かった。」
続かない会話。
都筑は小さい溜息をつきながら箸を銜えた。
いつもなら、その行為も
「行儀が悪いですよ!」
と、たしなめられるのに・・・・
まるで目の前にいる都筑が見えないかのように巽は食事を続けていた。


巽の不機嫌の原因・・・・それはたぶん仕事をさぼってサッカーの観戦をしていたからだ、と都筑は思う。
今地上はワールドカップが開催されていて、その熱気は冥府にも伝わってくる。
それに今年は日本が開催国の一つだった。
本当は地上に行ってスタジアムで応援したいところだが、流石に仕事をため込んでいる身。
ましてやこういう存在の自分たちがそうそう行く訳にもいかない。

でも・・・見たい。どうしても見たかった。

今回の大会は日本の代表チームが大活躍だ、せめて応援だけでも・・・・と思って、都筑は巽の目を盗み、部屋を抜け出しテレビのある閻魔庁職員の休憩室にこっそり行って。
で、見ていたら次々と他の課の者も集まってきて・・・盛り上がり、白熱して!
気づいたらみんなで肩を組んだり、抱き合ったりしての応援となっていた。
楽しくって、夢中になって・・・・日本が勝利を収めたときはもう舞い上がって・・・

と、いう時に巽がドアを開けて入ってきた。
巽が入ってきたことにより部屋の熱気が急速に覚めていくことに都筑が気づいた時はもう遅く・・・。
日の丸をしっかりとペイントされたお祭り顔を巽の眼前にさらす羽目に。
・・・・そして他の職員に目もくれず、無言で都筑を連れ出し、そのまま帰宅ということになってしまった。



都筑は上目遣いで何度も巽を見るのだが、巽は都筑を見ようともせず黙々と食事を続けていた。

「巽・・・・その、ごめん。」
「・・・・・」
「仕事・・・さぼっちゃって、ごめん。」
ガタッと椅子から立ち上がって、食器を片づける巽は何も言わない。
「巽!」
思わず都筑も立ち上がる。
もう帰宅してからずっとこうなのだ。怒っているのは確かなのに、文句を言う訳ではなく、とにかく会話が無くて・・・。
あってもほとんど話してくれなくて・・・。

自分の分だけを洗った巽が都筑の方を振り向きもせず、部屋に行こうと都筑の横を通り抜ける。
「ちょっと待って!」
都筑はその腕を掴んだ。
「巽、ごめん。謝るから・・・・だから話してよ、文句でも良いからお説教でもいいからさ。」
「・・・・・」
「・・・こんなの嫌だよ。・・・・ねえ・・っ。」
掴んだ腕をそのままに顔を背中に押しつけた。涙が出てきた。
そして・・・巽は歩みを止めた。



「都筑さん。」
しばらくの沈黙の後、都筑のすすり泣きがおさまった頃、巽が口を開いた。
「・・・・な、何・・・」
くすんと鼻をならしながら、都筑は答える。
巽が行ってしまわないようにギュッと掴んだままだった。
その手に巽の手が触れた。と同時にすうっと息を吸う音が聞こえた様な気がした。
「それでは・・・・言わせて貰います。」
くるっと巽は振り返る。
「いいですか、都筑さん! あなたサッカーに興味があるなんて一言も言わなかったじゃないですか。私が話題を振っても話に乗って来ないで。なのになんで、今日あそこで観戦していたんですか?」
「あ、あの・・・」
「それに!なんで見たいのなら見たいと私に言わないのですか、あんな所であんな人たちと・・・・!」
「え? あんなって・・・」
「姿が見えないと思って探して、奇声が休憩室から聞こえてくるので、もしやと思い行ってみたら・・・」
巽はその時の事を思い出しているのか、わなわなと拳を震わせている。
「巽・・・・?」
「抱き合ったり、肩を組んだり、挙げ句の果ては顔にペイントまで!」
いつまで描いているんですか!っと都筑は頬を摘まれて引っ張られる。顔を洗うのをうっかり忘れていたようだ。
「い、痛てっ! いたいよ〜。」
「これ、あいつらに描かせたのでしょう! あなた、頬を触らせたんですか?」
「う、うん、だって応援にはこれが必要って言われたし・・・・って、摘むなよっ、痛い巽!」
「ふん! こんな不細工なペイントっ。私ならもっと綺麗に描いてあげるのに! それに変な塗料で肌が荒れたらどうするんですか!」
「そ、そんな女じゃないし・・・肌荒れなんて。」
「何ですって?」
ギロっと睨まれた都筑は言葉を飲み込む。
「まったく・・・目を離すと・・・」
ぶつぶつ言っている巽を都筑は恐る恐る見上げる。
・・・・もしかして・・・・拗ねてるの?・・・・
仕事さぼった事じゃなくて・・・・

「たつみ・・・?」
「何です?」
一通り言いたいことを言ったのかむすっとしている巽の袖を都筑は引っ張った。
「・・・・あの巽が怒ってるのって、俺が仕事さぼったからじゃないの?」
「アンタがさぼるのはいつものことじゃないですか。それも全然無いとは言いませんが・・・」
「え? じゃあ、巽が怒っているのって・・・・何?」
何となく・・・・何となく答えを気にしてしまう自分がいる・・・・都筑は巽を見上げる。
「そ、それは・・・」
少し落ち着いたのか、巽が答えにくそうにしているのが、期待させる。
「・・・・・あなたが私ではなく・・・・他の人とあんな風に感動を分かち合っているのが・・・・ちょっと嫌だったんですよ。」
「・・・・・たつみ・・・・」
「その上抱き合ったり、顔を触らせたり・・・・」
そう言って、もう一度都筑の頬を摘む。
「私以外の誰も・・・・触らせたくないのに。」
そう言いながら両手で都筑の頬を包み込んだ。
その手に都筑は手を重ねる。
「・・・・・独占欲・・・・強いんだ。」
「そうですよ、知らなかったんですか?」
ふっと笑う巽の顔が好きだ。
「うん・・・・知らなかった。」
頬を包み込むぬくもりが嬉しくって・・・・幸せだ。


「でも・・・・巽だけだよ、こんなことするの。」
そう言ってちゅっとキスをすると、巽は都筑の身体を抱き込む。
「当然です。もうあんな場面を見るのはごめんですよ。」
「うん・・・・気を付ける。」
近づいてくる顔にくすくす笑うと、都筑の口に指をそっと当てる。
「笑わないで・・・・」
巽の囁きに都筑は目を瞑った。
そして降りてきたのは、熱い熱い・・・・思い。

こんなに独占されることが嬉しいなんて。
こんなことで拗ねる巽が見られるなんて・・・・そしてそれを幸せだと思える自分がいるのが不思議だ。



「大好き・・・・・」

都筑は巽の耳元でそっと呟いた。

2002・6・17
M・Hinase

★拗ねる巽さんをv
なんだかねえ〜都筑に触る物、者、全てに嫉妬しそうです、この巽。・・・・・いいのか都筑!(笑)
いいんだろうねえ〜;
ということで久しぶりに?バカップル系でした。
もっともっと・・・・というか方はこちらへ→

短い続編ありです・・・・・。
しかしこれ・・・・ほのぼの系か?