celebrate






「静かじゃな。」
「そうですね。」
昼下がり、課長室には巽がキーボードを叩く音と課長が書類を捲る音だけがして
いた。
扉の向こうの召喚課の課室はここ数日シンとしていた。
いつもなら賑やかなメンバーが揃っているにも拘らず。



「ああ、もう3時を過ぎてるんですね。今お茶を煎れますね。」
仕事が一区切りついたところで時計を見た巽は立ち上がり給湯スペースへ向かった。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
課長はお茶を一口啜り、茶菓子を食べようとしたが手を止めて課室に続く扉を見た。
「都筑のやつ、やはり来んな。」
「そうですね。」
巽も扉を見やって小さくため息をついた。
いつも3時になるとおやつとお茶を目当てにやってくる都筑がここ数日は来ていな
かった。
それどころか休憩もせずに黙々と仕事をしているようだった。
召喚課が静かなのもそのためだった。
毎年、自分の誕生日が近づくこの時期、都筑は沈み込む。
自分は生まれるべきではなかったという思いが一層強くなるからだった。
召喚課の誰もがそれを分かっていながら何もできないことを悔しく思っていた。



「出張が入らなくてまだよかった。」
この時期に召喚に行くと都筑はいつも以上に精神的に傷つく。
「ただ誕生日に独りになるのが心配じゃ。今年は土曜日じゃからな。」
「・・・・・・・・大丈夫です、独りにはさせませんから。」
「巽?」
「覚悟を決めました。もう都筑さんにあんな顔をさせたくありません。」
「お前大丈夫なのか?もしまた・・・・・・そうなったら都筑は・・・・」
課長の言いたいことを察した巽は自嘲気味に笑った。
「情けないことに都筑さんを支えられる自信はありません。でも何があっても逃
げ出すことだけは絶対にしません。二度と都筑さんを独りにはしない。」
まっすぐ向けられた瞳の奥に巽の深い決意を読み取って課長もまっすぐに目を向
けた。
「信じていいんだな?」
「はい。」
「よろしく頼む。」
「はい。」




誕生日前日の金曜日、巽は都筑を夕食に誘った。
いつもなら二つ返事で飛びつくのに遠慮するのを半ば強引に自宅に連れ帰った。
「すぐに作りますからお菓子でも摘んで待っていてください。」
都筑を茶の間に通し巽は台所に立った。
途中ちらりと見やれば都筑は大人しく待っていた。
しかしお菓子は口にせず指先で弄んでいるだけだった。



「お待たせしました。」
「わー美味しそう、さすが巽。」
料理が並べられると都筑はいつもどおりはしゃいで見せる。
「いっただきまーす。」
「どうぞ。」
「うん、美味しい〜。」
しかし表情と言葉とは裏腹にいつもの半分程度しか箸がすすまなかった。



「都筑さん今夜はうちに泊まってくださいね。」
デザートを出しながら巽が言うと都筑は驚きを浮かべた。
「え・・・何で?俺帰るよ。」
「明日の昼、うちであなたのバースデーパーティーをするんです。」
「え・・・・・?」
「あなた家に帰ったら明日一日中寝てるでしょ?起こしに行くのは面倒ですから
泊まってもらうんです。」
「そんなパーティーなんて、俺いいよ。だから帰る。」
立ち上がろうとする都筑の肩を押し留める。
「ダメです。こんな時間になってから中止になんてできませんよ。皆それぞれに
準備してくれているはずですから。」
「でも・・・」
「でもじゃありません。ほらさっさとデザートを食べなさい、片付けられないで
しょ。私はその間にお風呂の用意をしてきますから。」




風呂から上がった都筑を巽は自分の寝室へ連れて行った。
「え・・ここ?」
「ええ、夜中に逃げ出されると困りますから。」
「・・・・・巽、やっぱり・・」
「いいから寝なさい、寝不足だって顔に書いてありますよ。どうせここのとこあ
まりよく眠れてないんでしょ。」
都筑は諦めたように小さく息をついて布団に入った。
その目を巽が優しく手で覆う。
「さ、目を閉じて。おやすみなさい。」



夜中、空気が動くのを感じて巽が目を覚ますと都筑が起き上がっていた。
「どうしました?」
巽も身体を起こして声をかける。
「巽・・・・・明日はただの食事会にしろよ。俺は朝帰るよ。」
「ふーっ。あなたも往生際が悪いですね。皆がやりたいって言ってるんだから素
直に祝われておけばいいじゃないですか?」
「俺は生まれてきちゃいけなかったんだ。俺の存在そのものが罪なんだ。だから
俺の誕生日は祝っちゃいけないんだ。」
俯き声を震わせる都筑を巽はそっと抱き寄せる。
「馬鹿ですねぇ、いつどこにどんな風に生まれるかなんて誰も何一つ自分では決
められないんですよ。偶然、必然、神、言い方は色々ですが命は与えられるもの
なんです。だから生まれてはいけなかった命なんてありはしないんです。」
「そうだとしても俺は・・・・幸せになっちゃいけないんだ。皆に誕生日を祝っ
て貰うなんて幸せは俺には許されない。」
「あなたの生前に何があったのかは知りません。でも私も生前に大きな過ちを犯
して数え切れないほどの人の命を奪いました。こんな私も幸せになってはいけな
いんですか?」
「ううん、ううん、巽はそんなことない。幸せになって欲しいよ。」
都筑はふるふると首を振った。
「では、あなたに幸せになってもらわないとね。」
「え・・・?」
巽は都筑の肩に手を掛け身体を離して視線を合わせた。
「前に言ったでしょう、あなたの幸せが私の幸せだと。だから私の幸せを望んで
くれるならあなたも幸せになってください。」
「・・・・・・・・」
「情けないことに私にはまだあなたを支えられる自信がありません。それでもも
う絶対にあなたを独りにはしない。都筑さん、愛しています。一緒に幸せになり
ましょう。」
「・・・・・巽・・・」
都筑の目が驚きに見開かれる。
「ああ、もう日付が変わってますね。都筑さんお誕生日おめでとうございます。
あなたに出会えたことを本当に幸せに思っています。生まれてきてくださってあ
りがとうございます。」
驚きに見開かれたままの都筑の瞳から大粒の涙が溢れ出す。
「巽・・・本当にそう思ってくれるのか?」
「ええ。」
「巽、巽・・・」
都筑は巽の胸に顔を埋めた。巽もそっと腕を回し漆黒の髪をあやすように優しく
すいた。
「きっと皆もそう思ってますよ。だから祝いたいんです。祝わせてくれますね?」
コクリと頷いた都筑の髪に巽がそっとキスを落とした。


暫くすると都筑はそのままの体勢で眠ってしまった。
やはり数日間は十分に眠れていなかったのだろう。
巽は都筑を抱きかかえたまま布団に入る。
少し微笑んだようなその寝顔を見て巽も微笑む。
「明日は・・もう今日ですね。楽しいパーティーになりそうですね。」
そう呟いて巽も眠りについた。




END

'07.2.21 グレペン






グレペンさんからの贈り物ですv
嬉しいです!
前にも申しましたが、グレペンさんの書かれる巽はとっても強くて格好良くて・・・
大好きなんですv
一本筋が通っているような!
ああ、都筑さんをお願いね!と課長ならずとも言ってしまいそうな感じです。
彼にとって誕生日が素敵な日とはなかなかなりにくいでしょうが
それでもあなたと出会えて良かったと思える人がたくさんいるということを
感じて欲しいな〜と思っています
都筑さん、本当におめでとうございますv
そしてグレペンさん、本当にありがとうございますm(_ _)m