バースデーケーキの罠




4月、閻魔庁でも新年度を迎えたばかりのある日、巽が仕事に励んでいると建物の一角から爆発音が聞こえてきた。
「巽、今のは。」
問題ばかり起こす部下を持った上司の悲哀を漂わせる近衛に巽は軽くため息をついて答える。
「ええ、亘理さんのようですね。まったく新年度早々困ったものです。ちょっと被害状況を確認してきます。」


巽がラボに行ってみると怪しげなガスの発生を恐れたのか野次馬はかなり遠くに数人いただけで廊下には薄くなりかけた煙だけが漂っていた。
爆風で外れたらしい扉を踏みつけ躊躇う事無く中に入る。
「亘理さん、あなたまたなにをやったんです。」
天井と壁の一部が壊れ日差しが差し込む中瓦礫に半分埋もれている亘理に冷ややかに声をかける。
「よ、よう巽。心配して来てくれたんか?大丈夫ちぃーとばかり薬の配合間違えただけや。」
引き攣ったような笑いを浮かべる亘理にちらりと一瞥を送ると巽は改めて部屋の中を見回す。
「誰もあなたの心配なんかしてませんよ。中の備品はもう経費からは出せませんからご自分で買ってくださいね。勿論壁と天井の修理費も給料から引かせていただきますからそのおつもりで。」
事務的な口調でそれだけ告げると巽はもう用はないとばかりにさっさとラボをあとにする。
「亘理さん、あの様子じゃ相変わらずちっとも懲りていませんね。そろそろ一度きっちり心から反省できるようにして差し上げる必要がありそうですね。」
そう呟きながら課長室に戻る巽の顔には悪魔のような微笑が浮かんでいた。


そんな事件から2週間ほど経ったある日、ラボが使用不能な亘理はデスクワークに取り組んでいた。
他に課室にいるのは密と若葉だけだった。
そこに巽が顔を出す。
「皆さん3時になりますしお茶にしませんか?」
皆断る理由もなくぞろぞろと課長室に移動する。
「私たちだけでお茶したなんて知ったら都筑ちゃん怒るんじゃないかしら?」
若葉の問いかけに巽はにっこり笑う。
「大丈夫ですよ。都筑さんなら夕食をえさに私の用事で出掛け貰いましたから。」
至極機嫌のよさそうな巽を見て密はその夕食後に何が行われるかを察した。
多分亘理も若葉もそれを察したのだろうが誰も何も言わなかった…いや言えるはずはなかった。
並んで座る3人の前に薫り高い紅茶とともに美味しそうなお菓子が並べられる。
「閂さん、黒崎君どうぞ。それから亘理さんはこれです。」
若葉と密の前にはシンプルなシフォンケーキを切り分けたものが置かれ亘理の前にはクリームやフルーツで綺麗にデコレーションされた一人サイズのホールケーキが置かれた。
「なんで俺だけ違うんや?」
「バースデーケーキですよ。亘理さんあなた今日誕生日でしょう。」
巽の口から出た意外な言葉に亘理は目を丸くする。
「何や覚えてくれとったんか?」
「当然でしょう。私は召喚課の職員のデータは全て把握していますから。」
愚問だと言わんばかりの巽に皆一抹の不安を感じる。
(全てっていったいどこまでなんだろう?)
「皆さんどうかされましたか?紅茶が冷めないうちにどうぞ。」
3人は先ほどの疑問を口に出せるはずもなく少し引き攣った笑顔を浮かべながらカップに手を伸ばす。
「い、いただきます。」
そして密と若葉が巽お手製のケーキを口にしてその美味しさにほっと口元を緩めた時だった。
カラーンとフォークが落ちる音と同時に「ぐぇっ…」と言う声を発して亘理が床に崩れ落ちた。
「わ、亘理さん!どうしたんですか!?」
密が身体を揺すってみるがピクリとも反応しない。
巽は全く慌てる様子もなくゆっくり近づいてきて倒れている亘理の傍にしゃがんだ。
「ああ、これは仮死状態になってますねぇ。さすが都筑さんのケーキは効き目抜群ですね。亘理さんの変な薬よりよほど確実です。」
なぜか嬉しそうな様子の巽に密は恐る恐る訊ねる。
「あの…巽さん、あのケーキは都筑が作ったんですか?」
「そうですよ。キッチンを貸してあげたら凄く張り切って作ってましたよ。」
にっこりとこともなげに言う巽に恐怖を感じながらも密は勇気を振り絞って更に訊く。
「どうしてそんな危険なものを亘理さんに?」
すると巽は見るものの背筋を凍らせるような悪魔の微笑を浮かべた。
「自業自得ですよ。懲りもせずにくだらない実験を繰り返して今まで何度閻魔庁に損害を与えたか分かりません。そろそろきっちり反省していただこうと思いましてね。」
密も若葉もあまりの恐ろしさに固まってしまっていた。
「さて、こんなところに寝ていられては業務の邪魔ですね。」
巽の足元からシュルシュルと影が立ち上がったかと思うと亘理を包み込み床の中に消えた。
巽は何事もなかったかのように立ち上がると固まっている二人を振り向いた。
「お二人ともお茶を入れなおしますからどうぞ掛けてください。」
巽は手早く亘理の分のカップとケーキを片付け密と若葉に新しい紅茶を注いだ。
巽が穏やかな雰囲気に戻ったことでやっと立ち直った密は躊躇いがちに訊ねる。
「あの…亘理さんは?」
「ラボに放り込んでおきましたよ。大丈夫一応壁も天井も治っていますし3日もすれば回復するでしょうから。」
平然とお茶を飲む巽に密と若葉は顔を見合わせる。
確かに亘理の自業自得のようだし自分たちに危害が及ぶことはなさそうだ。
それならいつまでも気にしていては損なだけだから自分たちは巽お手製の美味しいケーキとお茶を楽しめばいい。
二人は頷き合うとカップに手を伸ばした。
窓から柔らかい陽射しが差し込む中、3人は楽しいティータイムを過ごした。


おわり
                             04.4.12  グレペン


・・・・巽さん、良い性格している(笑)
素敵だわ〜v
本当にグレペンさんの書かれる巽さんが好きです!
で、うっかり忘れそうですが(笑)亘理さん、お誕生日おめでとうございます!
これからも珍妙な研究を続けて下さいね!(笑)

グレペンさん、本当にありがとうございます!