決戦は金曜日




ある日の閻魔庁。
定時を過ぎているというのに玄関ホールには大勢の職員が溜まっていた。
誰もが帰ろうとして玄関を一歩踏み出した途端、踵を返して戻ってきたのだった。
「あれ、皆どうしたの?」
階段の上からかけられた声に皆が一斉に振り返る。
「都筑さんっ!」
その場にいた全員が絶望の中唯一の希望を見つけたかのような表情になった。
一番近くにいた女性職員が階段を駆け上がり声の主、都筑の腕を引っ張る。
「都筑さん、あの人たち何とかしてください。でないと私たち帰れないんです。」
「え?え?」
都筑は訳の分からないまま玄関まで連れてこられた。
「あの人たちを何とかできるのは都筑さんだけです。お願いします!」
その言葉と同時に数人の手で玄関から押し出された。
途端にピリピリと痛いような緊迫感を孕んだ空気に包まれる。
都筑は覚えのありすぎるその空気にため息をついた。
できることなら引き返したかったが背中に突き刺さるたくさんの視線がそれを許さなかった。
仕方なくゆっくりと歩を進める。
やがて見えてきた茶と白の人影に都筑は足を止めた。
茶と白、言うまでもなく巽と邑輝である。
二人の背後にそれぞれ青と銀の炎が見えるのは幻覚だろうか。
都筑は大きなため息をつくと再び歩き始めた。






ここで少し時間を遡る。
ことの起こりは先週の土曜日のことだった。
都筑の誕生日プレゼントを買いに街に出た巽と邑輝はばったり鉢合わせしたのだった。
「これは秘書殿、お久しぶりですね。」
「本当にお久しぶりですね。できるなら二度と会いたくありませんでしたが。」
「相変わらずキツイ方だ。今日はお買い物ですか?」
「ええ、まあ。」
「都筑さんへの誕生日プレゼント・・ですね。何を買われたんです?」
「答える義務はありませんよ。あなたも同じ用だったようですね。」
「ええ。何を買ったかお教えしましょうか?私はあなたと違って心が広いですから。」
「結構です。どうせ金をかけただけのくだらない物でしょうから。」
「あなたこそケチって値切り倒したんじゃないですか?」
見えない火花を撒き散らす二人に誰も近づけない。
歩行者は向かい側の歩道を通り、店の前でケンカを始められた店主は営業妨害だと泣いた。
しかし二人はそんな周りのことなど全く眼中になかった。
「ドクター、あなたのことだから当日はホテルを予約してるんでしょうがはっきり言って無駄です。都筑さんは私の家に泊まるんですから。」
「そんなこと言ってもまだ都筑さんと約束したわけじゃないんでしょう?」
「確かにまだです。しかし都筑さんが私の誘いを断るはずがありませんよ。例え当日になってから言ったとしてもね。」
「随分自信がおありのようですがそれは秘書殿の思い込みじゃないんですか?私とあなた、同時に誘ったら都筑さんはどちらを選ぶでしょうね?」
「私に決まっていますよ。でもいいでしょう。そこまで仰るなら勝負しましょう。」
「勝負・・・ですか?」
「誕生日当日、同時に都筑さんを誘うんです。時間は定時過ぎの5時半、場所は閻魔庁の桜並木を抜けたところです。」
「いいでしょう。その勝負受けてたちます。」






こうして現在の状況になった訳である。
お互いを横目でけん制しあっていた二人は都筑を見つけ同時に声を上げる。
「「都筑さんっ。」」
「巽、邑輝、こんなとこでなにやってんだよ。皆が帰れなくて迷惑してるぞ。」
「都筑さん、今夜は私と過ごしてください。一流シェフのスペシャルディナーと一流ホテルのスイートルームを予約してあるんです。」
「都筑さん、今夜は私の家にいらっしゃい。腕によりをかけてあなた好みの料理を作りますから。」
都筑の言葉を無視して二本の腕が差し出された。



一方、その頃玄関ホールでは。
「おっ、おもろいことになったなあ。都筑どっち選ぶんやろ。」
足止めを喰らっていた職員たちが仮設のスクリーンに注目していた。
亘理が飛ばした高性能超小型カメラを搭載したメカから送られてくる映像が映し出されているのだ。
「どっちも譲られへんよな。今日金曜やからお持ち帰りできたら日曜までやりたい放題やし。」
皆が固唾を飲んで見つめているスクリーンの前を小柄な人影が横切った。
「あっ、坊。坊は見んでもええんか?丁度おもろいことになっとるんやで。」
「別に興味ありませんから。」
密はチラッとスクリーンを一瞥しただけで歩き出す。
「坊、今外に出ん方がええ。巻き添え喰らうかもしれへんからな。」
「なんであんな変態医者のために俺が足止めされなきゃいけないんです?それに俺用事があるんです。皆さんお先に失礼します。」
密は皆にペコッと頭を下げると玄関から出て行ってしまった。
亘理は心配ではあったが追いかける勇気は無かった。



都筑は差し出された二本の腕を見て目を瞬かせる。
「もしかして二人とも俺の誕生日を祝ってくれるつもりなの?」
「そうです。」
「さあ都筑さん、私か秘書殿か選んでください。」
二人に一歩踏み出され都筑は困った顔になる。
「えっと・・・あの・・ゴメン。どっちも選べないよ。」
「都筑さん、気遣いは無用です。あなたが一緒にいたいと思う方を選んでください。」
「そうです。選ばれなかった方は今日は素直に引き下がりますから。」
「いや・・あの・・・そうじゃなくて・・・・・」
「都筑、待たせたな。」
背後からかけられた声に都筑はほっとしたように振り向く。
「密。」
「黒崎君。」
「坊や。」
「巽、邑輝ごめん。俺今日は密のとこに行くんだ。」
都筑は顔の前でパンと手を合わせて頭を下げた。
その後ろから密はほんの一瞬勝ち誇ったような視線を送った。
邑輝と巽は内心の悔しさを顔に出さず平静を装う。
「密が一緒に料理を作ろうって言ってくれてさ。日曜日に本買ってきてもうメニューも決めてあるんだ。」
「ッ料理・・・ですか?」
((なんてチャレンジャーな。))
「都筑、もう一度言っておくがレシピの材料以外の物入れたら即行で追い出すからな。あくまでレシピどおりに作るんだぞ。」
「分かってるよ〜。」
((その手がありましたか。))
盲点を突かれた二人は愕然とする。
密は巽に軽く会釈をするとその脇をすり抜けた。
「都筑、材料買いに行くぞ。」
「うん。あ、ねぇ巽、邑輝それもしかして俺へのプレゼント?」
都筑は二人が手にしている紙袋を指差す。
「ええ。」
「はい。」
「じゃ、それ貰ってもいいかな?」
「ああ、はい。」
「どうぞ。」
二人が差し出した紙袋を都筑は嬉しそうに受け取った。
「ありがとう。今日はせっかく誘ってくれたのに行けなくてごめんね。」
「都筑ー、何やってんだ。置いてくぞ。」
「ごめん密、今行くー。巽、邑輝、本当ににごめんね。プレゼントありがとう。じゃあね。」
都筑は二人に軽く手を振ると密のところに走って行き並んで帰って行ってしまった。





「まさか黒崎君にしてやられるとは。」
「坊やもなかなか侮れなくなりましたね。」
二人はどうしようもない敗北感に苛まれていた。
そんな二人の横を足止めされていた職員たちが帰って行く。
その職員たちからチラチラと向けられる哀れみの視線にも気づかず二人は立ち尽くしていた。



終わり

'06.2.25  グレペン



密、最強!(^o^) 素敵ですわ〜v
そうそうこうでないと(笑)
本人達は嫌がるけれど、絶対似ているふたりです
いがみ合っているうちに・・・というのは好きなパターンですわv
この後ふたりでパーティーやっていたら、やな図だな(笑)・・・

都筑さんのBD用に書かれていた物をいただいちゃいましたv
グレペンさん、本当にありがとうございますv
グレペンさんの書かれる巽・・・好きですわ〜
無邪気な都筑さん・・・罪な人です(爆)