星に願うは・・・







シンと静まり返った夜の閻魔庁。
そのほとんどが夜の帳に包まれている中、召喚課の課長室にはまだ明かりが点いてた。



「うぅ〜〜〜っ、巽ぃ〜、もう限界だよ〜〜。」
課長の机に突っ伏して泣き言を言っているのは都筑。
課長が出張している今日は朝からここで缶詰になっていた。





今朝、都筑がいつものごとく遅刻して登庁し席に着いた途端、課長室から巽が現れた。
「都筑さん、溜まっている書類を全部持って今すぐ課長室に来なさい。」
それだけ言うとくるりと踵を返し課長室に戻っていった。
有無を言わさぬ口調に都筑は慌てて机の上や引き出しの書類を掻き集める。
よくそれだけ溜め込んだものだと誰もが感心する量をを抱えてよろよろと課長室に向かう。
「巽〜開けて〜、手が塞がってるんだ。」
素早く扉が開き都筑は中に吸い込まれた。
自業自得とは言えご愁傷様と皆が心の中で手を合わせる。
しかしその中の一人がふと気づいた事を口にした。
「俺たちならあんなに溜め込んだらいやあの半分溜め込んだら間違いなくクビだよな。」
皆大きく頷いて課長室の扉に目を向けた。



それから都筑は一歩も外に出してもらえなかった。
唯一トイレだけは許されたがそれも巽の影の監視付だった。
休憩はお昼に三十分と十時と三時に十分ずつ。
おやつとお昼のお弁当は巽のお手製だった。
おやつ付の休憩なんて甘やかしともとれるがこれは巽なりの考えがあっての事。
休憩を許さずに仕事を強いても能率は下がるばかりだからだ。
要は飴と鞭である。
その成果か都筑は巽の予想以上のペースで書類を仕上げていった。
この機会を無駄にしてなるものかと巽は夕食を餌に残業を言い渡した。
都筑は「え〜〜っ!」と言いはしたもののあっさりと残業を了承した。
巽お手製の晩ご飯と冷房の効いた部屋に魅かれたというのも勿論あるだろう。
しかし都筑自身も次はいつこんな仕事モードになれるか分からないから少しでも仕上げておきたい気持ちもあったのだろう。
無論、巽が夕食を作りに帰宅している間は影の見張りがついていた。
夕食によほど満足したのかその後も都筑の仕事モードは結構長く続き冒頭の台詞になるのである。





都筑の声に巽が時計を見るともう十一時をとっくに過ぎていた。
「ああ、もうこんな時間でしたか。都筑さんがもくもくと書類を仕上げてくれるので時計を見るのを忘れていました。」
巽は自分の仕事をしながらも都筑の書類が仕上がる端からチェックしていたのだ。
「じゃあ今日はここまでにしましょう。都筑さんよく頑張りましたね。」
「頑張りすぎて頭痛いよ〜。」
「こんな事したくなかったら書類を溜め込まないようにするんですね。そのためにも残りの書類も早く提出してくださいね。」
「うぅ〜。」
返ってきたのは歯切れの悪い言葉だったが巽は苦笑いしただけだった。



二人で並んで歩き、庁舎前の桜並木を抜けると一面に星空が広がる。
立ち止まって見上げているとすっと星が流れた。
「あっ、流れ星。願い事しそびれちゃったよ。」
「あなたの願い事なんてどうせ美味しいケーキが食べたいとか休みが欲しいとかでしょう?」
「ぐっ・・・」
図星を突かれ都筑は言葉に詰まる。
そんな二人の頭上をまたひとつそしてまたひとつと続けて星が流れた。
「あっ。あれっまただ。」
「ああ、そう言えば今はペルセウス座流星群が見られる時期ですね。」
「そっか。それでこんなに続けて流れるんだ。」
少し驚いたように星を見上げていた都筑は巽の言葉で得心がいった。
「確か今夜がピークだったと思いますよ。もっと遅い時間になれば一時間に三十個近くは見られるそうですよ。起きてて願い事してみたらどうです。」
からかい半分でそう言った巽に都筑は小さく首を振る。
「止めとくよ。そんな時間まで起きてたら確実に遅刻して巽に起こられるもん。それにそんなにいっぱい流れるんじゃあんまりご利益なさそうだしさ。」
その顔は笑っているのにどこか寂しそうだった。
「遅刻は困りますけど分かりませんよ。逆にたくさん願い事すればひとつくらいは叶うかもしれないじゃないですか。」
それにも都筑は首を横に振った。
「やっぱり止めとくよ。どうせ俺の本当に叶えたい願いは絶対叶わないから。」
「本当に叶えたい願いってなんですか?」
都筑は答える事なくまた首を振った。
「もしかして『皆が幸せになれますように。』ですか?」
ズバリ言い当てられて都筑は驚いたように巽を見る。
「やはりそんな事ですか。」
巽はフレームに手を添えてメガネのずれを直しながらため息をついた。
「都筑さん、どうして皆があなたに幸せになれないって決められなきゃならないんです?」
「だって・・・俺みたいな疫病神が傍にいたら皆幸せになんてなれるわけない。俺が皆を不幸にするんだ。」
「なんでもあなたの尺度で決めないでくれますか。なにが幸せかなんて人それぞれ違うでしょう。それに根本的に間違ってますよ。あなたは疫病神じゃなくて死神でしょう。」
「それはそうかもしれないけど・・・でも・・・・」
まだ言い募ろうとする都筑に巽はまたひとつため息をついた。
「そんなに人を幸せにしたいなら借金の完済でも願ったらどうです。そうすれば誰もあなたに泣きつかれなくてすみますから。」
「え〜、それこそ絶対叶わないに決まってるじゃん。」
「じゃあせめてこれ以上借金が増えないように願いなさい。そうすればそれに比例して増える召喚課の支出も減って予算も少しは潤って皆も幸せになれますから。」
「それもちょっと無理っぽいような。」
都筑の顔からは先程までの悲しそうな影は消えていた。
その都筑の両の頬を巽はぎゅっと摘む。
「あんたどの口でそんな事言うんです?大体ねえ借金を増やさないようになんて努力すればできる事なんですよ。あんたの場合それができないから他力本願でもしてみなさいって言ってるんでしょうが!それを無理っぽいだなんて借金を減らそうと言う気が全然ないって事ですか!?そんなんで人の幸せを願おうなんて図々しいにも程がありますよ!」
一気に捲し立てられ都筑の目に涙が溜まる。
「巽・・酷い。俺今日頑張ったのにそこまで言わなくてもいいじゃん。俺だって好きで借金増やしてるんじゃないのに。」
えぐえぐと泣き始めた都筑に巽は慌てる。
「す、すみません。言い過ぎました。私もさすがに少し疲れていたのでついイライラして。」
「そうだね。俺のせいで巽までこんな時間まで仕事するはめになったんだもんね。怒りたくなるの当たり前だよね。やっぱり俺が皆を不幸にするんだ。」
また話がそこに戻ってしまった事に巽は軽い頭痛を感じた。
泣き続ける都筑の頬に手を添えぐいっと上を向かせる。
「いいですか都筑さん。さっきも言いましたけどあなたの尺度で人の幸不幸を決め付けるのは止めなさい。皆・・・いえこれも推測になってしまいますから止めましょう。少なくとも私はあなたと出会って今こうして傍にいる事を不幸だと思った事は一度もありませんよ。」
「・・・・・うそ。だって・・・」
「・・・・あの時も不幸だとは思ってませんでしたよ。ただ・・・私が弱かっただけです。あなたを支えられる力のない事を思い知らされ続ける事に耐えられなくて逃げ出したんですよ。決して不幸だと思っていたわけではありません。」
「それ・・・・本当?」
都筑は目を潤ませたまま訊ねた。
「ええ、本当ですよ。だからもう泣き止んでください。」
巽はハンカチを取り出すと涙で濡れた都筑の頬を拭ってやる。
「さあ、帰りましょう。今から家に来なさい。頑張ったご褒美に夜食を作ってあげますよ。」
「本当?いいの?」
やっと涙の止まった都筑の頭にそっと手を載せ巽は微笑んだ。
「ええ。それともう遅いですからそのまま泊まっていってください。明日の朝遅刻しないようにちゃんと起こしてあげますから。」
「うん。」
その時一際明るい星がさっと空を流れた。
「赤字解消。赤字解消。赤字解消。」
巽は大きな声で三回繰り返した。
「さっ、これで願い事もバッチリです。」
「今のって省略しすぎじゃないの?」
「召喚課の赤字が解消されますようになんて言ってたらとても三回なんて言えないでしょう。それに今ので分からないような星には願いを叶える力はないからいいんですよ。」
あまりに巽らしい論理に都筑は何も言えなかった。
「そんな事より夜食なにがいいですか?時間が時間ですから手の込んだ物は無理ですけど。」
「うんとねおにぎりがいいな。」
「おにぎりですか?おかかと梅干くらいしか具がないですけどいいですか?」
「うん、それで十分だよ。巽のおにぎり凄く美味しいもん。」
「褒めて頂いて嬉しいですよ。」

甘い会話をしながら帰っていく二人の頭上でまた一つ星が流れた。



おわり



***補足***
巽の願いは叶わず召喚課の赤字が解消される事はなかった。
それが願いを省略しすぎたせいなのか巽の言うとおり星に力がなかったのかは定かではない。
都筑はおそらく前者だろうと思いはしたが当然それを巽に言う事はしなかった。



'05.8.17  グレペン




グレペンさんからのお誕生日のお祝いですv
素敵な巽都話でワクワクですv
なんだかんだいっても甘い2人は大好きです
都筑さんが可愛いし、巽はいつものようだし〜
でもグレペンさんの巽ってとっても優しさが溢れていいんですよね〜v
ちょっぴり切ない雰囲気も・・・いいです!

これから星空が見上げやすくなる季節
私も今度夜空を見上げて2人を思うつもりですv
本当にありがとうございます!
大切に飾らせて貰います(*^_^*)