満月の夜に・・・

ふと微かな物音で巽は目が覚めた。
・・・都筑さん?・・・
少しだけ首を傾けると
都筑が宙に手を伸ばしているのが見えた。
掌を閉じたり開いたりしている。
「都筑さん?」
どうしたんですか?と続ける代わりに巽はその手に自分の手を伸ばした。
「え?・・・あ、巽」
伸びてきた手にびっくりしたように都筑が振り返った。
そこには眉を顰めた巽の顔があった。

「あ・・・なんでもないよ。ただほら、月がさ今夜はすごく明るいんだよね。それで目が覚めて・・・じっと見ていたらなんか掴めそうな気が・・・・って、なんだよ、その目!巽、俺のこと馬鹿だと思ってるだろう!」
「・・・今更ですからね・・・慣れていますよ」
ため息と共に呟くと
「ったくもう!本当に掴めるなんて思ってないよ!」
そう言うと、都筑は拗ねたように身体を横向きにして、縁側の満月の方を向いてしまった。
その様子に巽は苦笑してしまう。
いつまでも子供のような仕草が抜けない人だといつも思う・・・自分よりも長い年月を生きているというのに。


しばらくふたりとも黙ったままだった。
目が変に冴えてしまったのか、巽も眠る気にはならず・・・時折り障子の隙間から見える月を見ながら、そして都筑の肩、首筋を眺め、そして天井へと目を移す・・・そんな動作を繰り返していた。


「・・・寝ちゃった?・・・」
小さい声に巽は瞑っていた目を開けた。
「いえ」
「・・・・」
都筑が軽く息を吐くのが分かった。
そっとその髪に手を伸ばすと、少しだけ肩が揺れ・・・そして肩に手を置いて引き寄せると難無く巽の腕の中に身体がおさまってきた。
「早く寝ないと、朝起きれなくなりますよ」
「うん・・・」
「寝付けませんか?」
「・・・・・」
「都筑さん?」
「眠たい気もするけど・・・光が強くて・・・」
巽は少し身体を起こし改めて月を見る。
満月の今日はひときわ光輝いている。
少しの間見つめてはいたが、何を思ったのか腕の中を都筑をいったん離し、手を伸ばして開いていた障子を閉めた。
「巽?」
「・・・もう充分見たでしょう? さ、こちらを向いて」
そう言いながら都筑の身体の向きを変えてしまう。
「うん・・・」
小さく頷いて都筑もされるがままに再びその腕の中におさまった。
ポンポンと軽く背中を叩くと、ふっと身体の力が抜ける。
「・・・大丈夫ですよ」
「うん・・・そうだね、寝ないと」
「そうですよ」
まだ眠ることが怖いと思っているのだろうか・・・・。
でも自分がこうやって抱いていれば、少しは安らかに眠れると思いたい。
そうであって欲しいと巽は願っていた。




「・・・ね、巽」
少し間を置いて都筑が口を開く。
「はい?」
まだ寝ていなかったのかと思いながらも返事をした。
「お月見団子ってしないの?」
「・・・・中秋の名月は来月ですよ・・・」
巽は全身の力が抜けるような気がした。
「あ、まだなんだ?」
毎年繰り返される問答だ。
「・・・とにかく食欲ありきなんですね、あなたは」
「食欲の秋じゃないか」
「たまには読書の秋とか、芸術の秋とか」
「だって食べ物美味しいもん」
「もんって・・・」
この歳でこんな考えでいいのか・・・・良いわけがない!
そう思ったらふつふつと色んな事が浮かんできた。
「少しは文字でも読みなさい、黒崎君を見なさい、毎日ちゃんと・・・」
「密は読みすぎなの!」
「じゃあ、あなたは読みなさ過ぎです!大体ですね、普段から・・・」
等々・・・・

こんな話が明け方まで続いた。
いつもは巽の文句を聞き流して寝てしまう都筑も何となく目が冴えて口ごたえをするので、ますます止まらなかった・・・。
そしてその朝はしっかり二人して遅刻して、妙な噂がその日のうちに閻魔庁を駆けめぐったとかどうとか。


「もう!巽が寝かせないからこんな事になったんじゃないか!」
「誤解させるような言い方やめなさい!」
「だって、俺が寝る寝るって言うのに、巽やめないんだもん」
「それはアンタが・・・・・」

廊下の片隅で言い合うふたりの会話を聞いた職員がいたせいで、これまたあっという間に色んな噂が庁内を飛び回り・・・しばらくはふたりの顔を見れば、ぷっと吹き出したり、妙な物を見る目をする職員が後を断たなかったという・・・・。





ちょっとおどけてみましたが・・・いかがでしょう
でもまあ・・・やることはやっていると思います
(そんな身も蓋もない・・・・;)
2006・9・12

日生 舞