空に舞う願い


「なあなあ 密ぁ〜」
「何だよ!煩いな」
「なんて書いた??」
「ああ? お前に関係ないだろう!」
「いいじゃん、どうせ飾れば見られるんだから」
「それでも今はダメだ、お前は自分の書けよ!」
「密のケ〜チ!」
「なんだと!!」
・・・・・


課室の片隅でわいわい聞こえる声に耳を傾けつつ、目の前の書類を捲る。
”・・・今年も大丈夫そうです・・・ね”
そう思いながらも都筑の言葉に敏感に反応しそうで、そんな自分にちょっとため息をついた。
明日は七夕だ。


「なんや お前にしては進んでないな」
と、突然、後から覗き込まれた。
「同じ所何度も・・・そんなに気になるんなら、お前も加わってくればいいやないか」
「・・・別に・・・」
気になるわけではありませんよ・・・と続けようと思ったが、言葉に出来なかった。
代わりにふう・・・と息を軽く吐く。
その間も都筑と密の会話は続いていた。


「今年も大丈夫やろ?」
いいと、言ってもないのに隣の席へ座り込む。
「お前、気にしすぎや」
過保護もいい加減にせんと・・・と呆れたように言われた。
「別に・・・過保護にしているつもりはありませんよ」
そう答えて、目を通した書類をファイルに戻す。
確かに効率が悪い。この倍は済ませるつもりだったのに・・・。
初めから課長室ですれば良かったと今更ながら思わされた。


「軽く流すとこやろ。あいつだって子供やないんやし」
「・・・」
「お前が心配性なのは分かってるけどな」
そう言って、亘理が微笑むのを見て・・・そして都筑の方を見た。
・・・確かに心配しすぎなのかも知れない・・・。
わあわわと騒ぐ姿を見つつ、遠い目をした。



”俺の願い事なんて・・・・巽知ってるじゃん・・・”



遠い昔に言われたことがある。
あれはどの場面での言葉だったのか・・・この時期だったと言うことは覚えている。
何も書いていない短冊を手に少し笑ったような、そして泣きそうな顔で言われた。
あの時の彼の表情がいつでも頭の隅に残っている。
いつでもそれに怯えている自分がいるのだ。


「ああ、もう!ほら巽!!」
急に腕を掴まれて立たされる。
「なんですか!!」
突然のことに声をあげてしまう。
「うだうだ考えてないで、側に行っとけや!」
そしてポンと背中を押されてしまった。
その勢いで2,3歩都筑達の方へ歩いてしまう。
「どうしたの?」
二人の声で都筑がこっちを見ている。
慌てて亘理を振り返るが、にやにやしているだけで知らない振りだ。
「あ、そうだ!」
その声に前を向くと、首を傾げる彼がいた。
密は紙に向かったままペンを銜えている。
「巽も書く?」
そう言って手元にあった紙をひらひらと振る。
少しの間その様子を見つめて、ふっと笑うと、その倍の微笑みで返された。

”・・・そう・・・もう前を向い行くと決めたのだ”
前とは違うのだ。


「あなたなら一杯書くことあるでしょう」
近づきながら敢えてそう言ってみる。
「紙が足りますか?」
笑いながら言うと
「こいつ馬鹿なことばっかり書いていますよ」
と密が顔を上げて答えた。

そこには・・・
『美味しいケーキを食べたい』
『もっとお菓子を作らせて!』
『借金をなかったことに・・・』云々・・・
それを手に取り、都筑を見た。
「あなたにとっては大切なことなんでしょうけどね」
と、ちょっと呆れたように言うと
「とっても大切だよ!」と言い返された。
腰に手をあて、とっても偉そうに。
密の「ば〜か」が聞こえた。


”・・・大丈夫、あなたも私も笑える・・・”


その姿に密と一緒にため息と共に首を振りながらも、まだ何も書いていない短冊に手を伸ばした。
また都筑が何かを書いて、密が文句を言っている。
「亘理も書こうよ!」と彼が声をかけた。
そのうち他の職員も混ざって、大騒ぎになることだろう。
彼の周りはいつも賑やかだ。


せっかくだから自分もこのイベントに加わろう。
色んな各種手当てなどの賃金のアップや仕事のこと・・・と、どうせなら書いておこう。 秘書として言いたいことは山のようにあるのだ。




でも
今年も本当の願い事はただひとつ。
短冊に書かない願いはいつも心の中で舞っている・・・・。



■2006・7・7■
日生 舞