桜の夜 後編
| 「んっ・・・やっ・・・やめ・・・たつ・・・・」 与え続けられる快感に身体がついていかない。 都筑は脱衣所のロッカーについた手を震わせた。呼吸が苦しい。 さ、立って・・・・ふらつく身体を巽に支えられて布団から抜け出したのは先刻。 足音を立てずに立ち上がり部屋を出たら、 「お風呂にいきましょう・・・」と一言だけ言われて・・・・。 都筑は布団の中での行動を責める言葉も出ずに先に歩く巽の背中を追った。 風呂場に着く間、巽は何も言わない。 もう隠そうとはしないその苛立ちだけを背中に漂わせていたけれど。 着いた先は桜と同じようにこの旅館の売りでもある24時間解放している露天風呂。 ようやくさっぱりできる、と都筑は開けてもらった戸をくぐり抜けて脱衣所に入った。 「誰も・・・いないねえ。」 ガラス戸で仕切られた奥の露天風呂の方を覗きながら都筑が呟く。 いくら24時間OKだと言っても流石に深夜零時を回った今頃来る客はいないのだろう。 「・・・・」 それには答えずに巽が背後から都筑の腰に手を回してきた。 「な、何?」 てっきりそのまま風呂に向かうのだろうと思っていた都筑は驚く。 「お風呂はもう少し我慢してください。」 「巽、どうしたんだよ。変だよ・・・・何怒ってるんだ。」 「別に・・・」 「嘘つけ、ずっとお前・・・・あっ、いやっ」 下肢に移動した巽の手に体がすくんだ。 「もう・・・やだぁ・・・」 やんわり触れられる場所から消えかかった欲望が立ち上がってくる。 「いやですか?・・・ここはそうは言っていませんよ?」 「なに言って・・・あっ。」 巽は腰を支えていた手を浴衣の合わせ目から胸の突起を探る。 都筑の良いところを知り尽くした手が身体を這い回る。 胸と都筑自身から伝わってくる痺れたような感覚が続ける言葉を失わせた。 「声、もっと出してもいいですよ。」。 息の上がった都筑に比べ両手を使っているだけ巽の声は涼しい。 都筑は首を振る。 部屋と違いここには確かに自分達だけど、いつ誰が入ってくるか分からない。 快感におぼれそうになりながらも、そのことが気になってしまう。 都筑は倒れそうになる身体を両手で支えた。 もうここに来て1回はいかされてしまった・・・・余韻の残る身体はあっという間に駆け上ってしまう。部屋に引き続き巽の手だけの行為だった。 そしてまた巽は都筑の背後に回り手を離さないまま・・・・さっきと違うことと言えばむき出しにした背中に口づけを落とすことだけ。 「うっ・・・ん」 抑えようとしても抑えきれない息が漏れる。 浴衣越しに当たる巽のものが脚にあたった。 「た、たつみ・・・」 都筑は顔だけを何とか後ろに向けようとする。顔が見たい・・・・。 「あっ・・・」 そうはさせまいとするように扱く手が早くなる。 ・・・またいかされるのか・・・ 都筑はぼんやりとした頭で息を荒げる。 ・・・でも、でもこのままじゃあ・・・・ その時、後ろの奥深くに違和感を感じた。 巽の指が少しずつ、少しずつ中を探る。 「やっ・・・」 そしてある箇所をそっと撫でる。 「あああっ・・・」 ゆっくりと動く指は動きを止めない。 声を抑えられない。 ぐっと押された。 「いやあ〜っ!」 ひとたまりもない。都筑は声を上げて崩れ落ちた。 冷たい床の感触が頬に気持ちがいい・・・・ 視界に巽が跪いてくるのが見えた。 ・・・・なんで?・・・・ 都筑は声にならない問いかけをする。 巽、何でだよ・・・・閉じた目から涙がこぼれ落ちた。 パシャ。 温かいものに包まれている・・・・・都筑はうっすらと目を開けた。 目に映ったものは乳白色のお湯と自分の肩にお湯をかけてくる巽の手。 都筑は少しだけ顔を上げた。 「巽・・?」 「・・・気がつきましたか。」 少しだけ困ったように笑うその顔はいつもの巽で・・・・。 一連の行為の間、まともに巽の顔を見たのはこれが最初だと都筑は思った。 お湯の中で横抱きにされた都筑の頬の横には巽の胸があった。 意味もなく都筑はそこに頬をすり寄せる。 立て続けにいかされた身体は妙に気怠くて、眠気がさした。 「ねえ・・・」 力無く都筑が問いかける。 「はい。」 「・・・どうしたの・・・・何かあった?」 お湯をかける動作だけが繰り返される。 「たつみ・・・」 「・・・・なんでもないんですよ。」 「それは嘘だろう?・・・・話してよ。」 再び顔を上げて巽を見た都筑の頬に手を添える。 「たまに・・・こんな風にあなたをいじめてみたいな・・・と思っただけですよ。」 その答えに都筑は目を大きく開く。 「な、なんとなく・・?」 「ええ。」 「理由もなしに?」 「そうです。」 ふう〜と都筑が息を吐く。 それではあの怒っていたのも気のせいなのか、と考える。でもあれは確かに感じたことで・・・。 「でも怒ってたよ。」 睨みつけると、ふふっと巽が笑う。 「白状しろよ、た・・・」 後の言葉は巽の唇に塞がれる。 「ん・・・・っ」 さっきまでとは違った甘く優しい口づけ。 「ずるいぞ・・・おまえ。」 お湯の温かさと身体の熱の中、都筑が文句を言う。 「そうですか?」 都筑の首筋にキスをしながら巽が答える。 「それよりも・・・・いいですね・・・」 都筑は巽を見つめる。 納得がいかない、すごく納得がいかないが、中途半端に追い上げられた身体は最終的なゴールを目指そうとしている。自分だって巽が欲しいのだ。 都筑は小さく頷いた。 「・・・でも、もうのぼせるかも・・・」 「大丈夫、もう一部屋用意していますから。」 「えっ!?」 にっこり笑う巽に、都筑は言葉を失った。 音のない深夜・・・・誰に遠慮することのない声が部屋に響く。 「あっ、巽・・・」 ようやく抱きしめられた事への喜びを都筑は素直に表していた。 今までの行為を詫びるかのように、優しく優しく抱きしめる。 滑らかな肌を舐めるように移動しながら、巽は自分の身体の下で喘ぐ都筑を見た。 これは明らかな嫉妬だった。 最近仕事が忙しく満足に都筑とともに過ごせなかった。 けれどその間、都筑は亘理たちと飲みに出かけたり、渋る密を買い物に連れ出したり・・・。 仕事が終わって楽しそうに会話しながら帰っていく彼の姿を苦い思いで何度見送っただろう。都筑が亘理たちに友人の域を出ない感情しか持っていないことなんて百も承知なのに、彼が自分以外の人と楽しくしている姿は、見ていて気持ちのいいものではなかった。 そして何よりある瞬間見た亘理の表情。 あの時の彼の挑戦じみた顔を見た時、巽は自分の嫉妬を自覚したのだった。 今回、あえて二人を誘ったのも都筑が誰のものかを思い知らせるため。 部屋でした悪戯も勿論、二人に聞かせるためだ。そうでもしなくては不安でたまらなかった。けれどこんな思いを抱えていることは都筑には言えない、言うつもりもない。 代わりに都筑を貪ることで自分の所有を刻みつけるようにしたのだ・・・・。 いかせて、狂わせて・・・・・・自分しか見ないように・・・・と。 「もう、来て・・・・」 都筑が手を伸ばしてくる。 この愛しい人は誰にも渡さない・・・。 巽は都筑の手に自分の手を絡ませながら、ゆっくりと身を進めていった。 障子を開けた窓からは庭の桜が風に舞うのが見えた。 月の光と桜の花びらが奏でる・・・そして都筑の声が奏でる。 いつまでも・・・・この手の中に・・・・。 巽は都筑を抱きしめながら、ただそれだけを願っていた。 ※ー※ー※ その頃、部屋では・・・・ 「なあ、どう思う?」 「・・・・何がですか。」 二人の行為のために目が覚めたにも関わらず起きることの出来なかった密が不機嫌そうに答える。 「何って・・・巽の考えとること。」 「さあ・・・」 「さあって・・・気にならんかいな、坊。あいつら出て行ったまんま帰ってこんやないか。俺、考えるに・・・今度の旅行な、俺たちへの当てつけと思うで。」 「・・・俺たちって・・・一緒にしないでください・・・」 とにかく今は眠りたい密が答える。 「あん?だって坊も都筑に対して・・・」 「俺は別に。」 「正直やないなあ〜」 と、ぽんぽんと布団を叩かれる。 「もう、俺寝ますからね。おやすみなさい。」 すべてのことが馬鹿らしく思えた・・・・自分の気持ちなんてよく分からない・・・だから今はとにかく眠りたかった。 「俺は負けへんど〜」 天井に向かってカツを入れる亘理の声を聞きながら、密は大きく息を吐く。 都筑に求めるもの・・・それは何だろう。 耳の奥で都筑の声が残っているような気がした。 全てを知るのは桜のみ・・・・・・・。 |
2002・4・18
M・Hinase
| ★後編でございます。 お待たせしましたv 予期せぬトラブルで遅れに遅れたこと申し訳ありません; まだまだ消化不良の所は多々ありますが、とりあえずは書きたいことが書けたかなと。 ご感想いただけると嬉しく思いますv |