花明かり



互いの息も穏やかになり・・・睡魔が身体を支配しそうな気怠い時間・・・

言葉だけでなく 身体全体で愛し合った後

時々発するそれぞれの言葉に頷いたり

笑ったり

ちょっとだけ拗ねてみたり

軽く触れてじゃれ合ったり

そんな優しい時間がふたりは好きだ。



-------「ねえ・・・緑の桜って知ってる?」

岩城を後から抱きしめる形で横になったまま香藤が問うてきた。

「緑の桜?・・・・ああ、なんかそういう種類があるというのは聞いたことがあるな」

「見たことはない?」

「・・・ない・・・と思うぞ」

「俺も・・・・どんな風・・・なんだろうね」

見たいなあ・・・と香藤は岩城の肩に軽く口づけを落とす。

「急にどうしたんだ?」

「うん? ああ、それはね、今日スタッフの人が話しているのを聞いてさ・・・へえ〜って」

「そうか・・・」

「でね・・・その桜『御衣黄』っていう名前らしいんだけど・・・・岩城さんだなって思ったんだ」

「・・・・・・」

また始まった・・・と岩城は心の中で苦笑する。

香藤は時々桜や他の花を自分に例えて話をすることがあるのだ。

自分ではそんなことは欠片にも思わないのに・・・・

それでも香藤は岩城を綺麗だ、綺麗だ・・・と抱いている間も口にする。

もうどれだけの言葉を浴びてきただろう。

そしてそのことは否が応でも己の欲情を高めて・・・それは紛れもない事実だった。


------「・・・それで、何が俺だって?」

「うん・・・その桜ね、緑で開くのだけど・・・段々成熟するにつれて赤みがましてきて・・・ピンクの筋とか出てくる時もあるんだって」

話を聞きながら岩城は頭の中でその桜を思い浮かべる・・・。

「そんな風になっていくなんて・・・本当に岩城さんの肌のようで・・・」

勿論、岩城さんの場合は白からピンクなんだけどね、と慌てて言葉を繋ぐ。

その様がおかしくて岩城はちょっと笑ってしまう。

”本当にこいつは-----”

呆れながらも、不快ではないその言葉が程よく疲れた身体に染みこんでいく。

「だから絶対この目で見たいな!とか思ったわけ」

「・・・そうだな・・・珍しい桜みたいだしな」

「今年はもう無理だけど、来年何とか時間見つけて行きたいね」

チュッと今度は首筋にキスをされた。

その感触に少しだけ岩城は身体を動かす。

その様がなんか可愛くて・・・香藤は胸に回していた手を下に動かそうかな・・・

と思った途端

「・・・そう言えば・・・」

と、岩城が言葉を発したので、慌てて

「ん? 何?」

そう香藤が聞き直した。

「今日満開の桜の下で撮影があったんだ・・・」

岩城はゆっくりと話し出した。




------それは少し山奥・・・・・・1本だけ大きな大きな桜があった。

聞けば樹齢600年をゆうに越えるらしい。

もうとうに桜の寿命は越えているのに、毎年多くの花をつけるのだという。

それでも年ごとに波があるらしく・・・

幸いなことに今年は沢山花をつけた年となっていた。

無数の数え切れないほどの淡い色が空に映え

風が吹くたびに舞うそれは雪のように感じられた------


「1本だけなんだね・・・」

感慨深げに香藤が言う。

「ああ。桜並木も見事だとは思うが、ああやって1本だけというのも・・・良い感じだった」



今でも目を瞑ればその見事な姿が目に浮かぶようだ。

四方に広げられた見事な枝・・・そして花・・・・

大きさを感じると共に、見上げる者を包み込むような優しさをも感じた。

人里離れた山の中で重ねた時間が創り上げた美しさがそこにあった。

凛とした厳しさも------

そしてそれを見上げていると・・・



「・・・・お前を思い出したんだ」


「・・・・・え?」


岩城と同じく目を瞑りその様を描いていた香藤は突然の岩城の言葉に目を開いた。

「お、俺?」

目の前の耳は真っ赤だ。

「・・・岩城さん」

自分でも恥ずかしいことを言ったという自覚があるからだろう。

少しだけ身体を縮こませている

「なんで・・・・俺・・・・?」

「なんでって・・・」

もごもご・・・と続く聞き取れない。そのまま言葉を呑み込んでしまう岩城の身体を抱きしめる。

「言って? ねえ・・・・言って?岩城さん」

足もそっと絡める。

岩城の柔らかな身体が香藤自身に触れ・・・少しずつだが堅さを増してきた。

甘い疼きが身体を責める。

でも今は岩城の言葉が聞きたい・・・何故自分を思い浮かべたのか知りたい。

「岩城さん・・・」

もう一度促すように頬を肩に擦りつけた。



「桜の・・・・枝を見て・・・・」

少しの沈黙の後岩城がようやく口を開く。

「その下に立って・・・見上げた時に降りそそぐように花びらが舞ったんだ」



ひらひらと終わりなどないと感じるほどの花の雨・・・・

優しく髪に、肩に、掌に

その時何故か急にその花びら1枚1枚が香藤の心のようだと岩城は感じた。


----立ち止まった時にはそっと肩を抱き寄せてくれるような

----そして涙を流した時にはその胸に自分を包み込んでくれるような愛を思い出したのだ。



「・・・・・その時変な話だが・・・お前に・・・抱かれているような気がした」

そう思った瞬間、周囲のスタッフも機材も全て消え

まるで自分1人がこの桜の前にいるような感覚・・・優しく穏やかなその瞬間。



「岩城さん・・・」

「自分でもびっくりするほどに緊張がとれて・・・いい表情だと褒められたよ」

岩城が笑った。

顔は相変わらず向こうを向いたままだけど。

香藤はその顔が見たくなった。

「岩城さん・・・こっち向いて?」

「・・・・なんだ急に」

「今の岩城さんの顔・・・・見たい」

「・・・・・」

「ねえ・・・・」

再び頬をすり寄せた。




ガサッ。

岩城が向きを変える。

少し照れたような顔で微笑んでいた。

「俺を・・・・・思い出してくれたんだ」

嬉しそうに香藤が言う。

「桜を見て・・・・俺を思ってくれたんだね」

「・・・・ああ」

短く答えた岩城の目をじっと見つめた・・・・自分が映っていた。

「岩城さん!」

そう叫ぶと同時に岩城の唇に吸い付いた。

岩城の腕も香藤の首に回った。



-----もう言葉はいらない

-----今感じたい、感じるのは身体の熱だけでいい

それは互いの心の熱だから



「香っ・・・・・藤」

時折り呼ばれる名前にキスで香藤は返事をする。

言葉を越えた想いを伝える為に・・・・・




今この瞬間、闇の中に舞うのはどちらなのだろう。

桜のように淡く色を変えていくのはどちらなのだろう。

月明かりの中

互いの汗だけが光り・・・そして息づかいだけが部屋に響いた。





------岩城さん・・・・今度はふたりでその桜を見に行こう?

舞い散る花びらの中でキスをしよう?

約束だよ?



2006・5・11
日生 舞



桜ネタでひとつ書いておきたかったので出来はともかく
書けて良かったです
桜と言えば岩城さんって感じですが
逆に香藤君を桜に例えるということを一度やってみたかったのですv

本当は裏のつもりで・・・書き始めたものです(汗)
そして終わりは軽めにギャグまじりで終わらせるつもりでした
それが書いているうちに・・・・あははは;;;;
(笑ってごまかす奴・・・・)

ちなみにモデルの桜の木は実際に存在します
本当に600年以上経っても咲き続けているそうです