ふたりのゆくえ

―――――――人ははなぜ同じ過ちを繰り返すのだろう・・・・・・。




告白をしたあの日から都筑は幸せだった。
仕事ではこれまでと同じような距離を保って巽に接してきた。
もちろん当然のことながら巽の態度は全く今まで通りに変わらなかった。
お決まりである召喚課の朝の光景も。
「都筑さんっ、あんたって人はどうして学習しないんですか!」
「ごっ、ごめんなさい・・・・。・・・ひぃっく・・・・。」


しかし休日の二人はこの上なく甘い時間を過ごしていた。
お互いに手を伸ばせば触れることのできる距離で。
目が合えば巽が都筑のまぶたや頬に口付けを落としてくる。
それをくすぐったそうに受け止める都筑。
いきなり甘えて抱きついてくる都筑を巽が優しく抱き締める。
(巽に抱かれているとなんかすごく安心する・・・・・・。)



――――――そんな都筑が不安に怯えていた。

今回の仕事は18歳の青年の魂を召喚することだった。
幼いころより彼はすべてを母親に囚われた人生を送っていた。
身も心も異常しくなってしまいそうなほどに。
だが15歳になった時、母親の急死により彼は解放された。
運命だったのか18歳で寿命のつきた彼が鬼籍に名前が載っているにも拘わらず
現世にとどまったままであった。
・・・・・理由は・・・。
彼は母親の面差しに良く似た女性に心惹かれ再び囚われ、その女性の傍を離れられずに
ずっと寄り添っていたのであった。
都筑と密が彼のもとにやって来ると何の抵抗もせず冥府に連行されていった。
ただ一言を残して。
「どうしてまた同じ過ちを繰り返してしまったのだろう・・・・。」


その日を境に都筑は少しづつ塞ぎ込んでいった。
密が都筑の異変に気づき話しかける。
「おい都筑、何かあったのか。」
「心配してくれてありがとう・・・密。でも俺・・・大丈夫だから。」
無理して笑ってみせる都筑は、心の中を密に読ませないように隠していた。


巽は自分の姿と母親の姿を重ね合わせているのではないだろうか。
どこか似ているところがあるといつか巽は云っていた。
そのせいで巽は苦しくなり自分から離れていってしまったことがあった・・・。
もし今もそうならば・・・・いつかまたこの関係は壊れてしまう。
あの青年の残した言葉が都筑の中にある不安を呼び起こしていた。


そんなある日の夕方、課長室に入ってきた都筑をふわりと巽が抱き締めた。
「・・・・たつみ・・・!?」
「都筑さん、私に何か隠していませんか?」
「えっ、なんで。そんな事ないよ・・・。」
不安に揺れている紫の瞳を見た巽はさらに腕に力を込めて都筑を抱き締めた。
「巽、誰かに見られたら・・・・・。」
「大丈夫ですよ。ここには私とあなたしかいません。・・・・愛しています。」
「俺も愛してるよ。巽・・・。」



翌日。
ひとりだけロウソクの館にお茶会に呼ばれた都筑は用意されたケーキをパクついていた。
伯爵は頬杖をついてうっとりと都筑を見つめていた。
「私の愛しい都筑〜。少しは元気になったかい?」
都筑はケーキを食べる手を止め、黙ったまま俯いてた。
「わかっているよ都筑。おまえが何に怯えているか。・・・巽とのことも知っている。」
ハッとして顔を上げる都筑。
「巽が離れていってしまうのが怖いんだろう?また同じ過ちを繰り返すんじゃないかって。」
「俺だってそんなことはしたくないんだ。でも・・・人間だから、また同じ失敗をする・・・・。」
「都筑。おまえはなんで死神になったんだ?死んでもなお強い思いがあったからではないのか?
 自分なりの新しい未来を作り出そうという思いも込められているのだろう。」
「・・・すごく怖いんだ・・・。もう一人は嫌なんだ・・・。」
両手で顔を覆い苦しそうな都筑を伯爵は優しく抱き締めた。
「人間だからこそ自分の中の闇に悩み迷い引きずられることもある。いいんだよ。それで。
 何もあせったりする必要はないんだ。でも人間だからこそ新たな一歩を踏み出すことも
 できるんだよ。」
「・・・・・伯爵・・・・。」
「大丈夫。おまえはちゃんとわかっているから。」
その言葉を聞きながら都筑は心が軽くなっていくのを感じていた。



「都筑さん!伯爵様に何もされなかったんでしょうねっ!」
自分がひとりでロウソクの館に行ったことを知った巽はものすごく不機嫌であった。
嫉妬としか思えない感情をあらわにする巽を見つめながら都筑は思った。
(あの時と同じじゃない・・・・・少しずつ変わってきているのかもしれない・・・。)
都筑はいきなり巽を抱き寄せると唇を奪った。愛していると云う代わりに。


【終わり】



★杜若様の巽都ですv
先日いただいた「紫陽花」の続編にあたるということです。
不安に揺れ動く都筑とそれを見守る伯爵(伯爵ってツボですよね!)、そして巽・・・・心から都筑が笑顔を見せてくれるのはいつでしょう・・・・。
なおもう1編いただいています。そちらもお楽しみくださいv