It's O
| 彼の頬を、一滴の涙が伝った。 いや。 幾筋もの涙が、菫色の眸から零れ落ちていく。 羞じるように俯いた彼は、空いた左手で目を擦る。 けれど、それは逆効果で。 新たな涙を生み出していく。 ネクタイを緩め。 ワイシャツのボタンを2、3個外したためにのぞく、彼の白い胸元は。 ほんのりと色付いていて。 彼の後ろから、腰に手を回して抱き締めた男が、僅かに濡れた眸で囁く。 「無理なのでは?」 ぽろぽろと涙を零し続ける彼が、小さく笑った。 目を閉じて、男の方に頬を寄せた彼が呟く。 「途中で、止めろなんて言わないよね?」 「そうは言いましても…」 邑輝もまた、微笑んで……いや、苦笑して目頭を押さえた。 そうしている間にも、都筑の手元はゆるゆると動いている。 何かに気をとられてでもいるように、どこか虚ろな声音で彼が答える。 「…なに」 「流石に……痛いんですが」 邑輝が都筑の手元に目をやる。 小さく、彼の腕の中で身じろぎした都筑が吐息をついた。 「俺の方が痛いよ」 そう。 会話の中でも、休むことのなかった彼の手。 都筑の、しなやかな指に包まれたソレ、は。 「嫌だったら、離れれば?」 「酷いことを言いますねぇ」 手の中で、少しずつ形を変えていく。 彼の眸から、また一滴の涙が零れた。 「……どこが酷いのさ」 「さあ」 「なにそれ」 そう。 艶やかに、しっとりと濡れたソレは。 「…もう…やりにくいじゃないか」 「ゆっくりすればいいんです」 ソレは。 「…………」 …ソレは。 「……腐っちゃうよ」 「腐りませんよ」 イット・イズ・ア・たまねぎ 「ついでだから言っとくけどさ」 玉ねぎが沁みる目で。 悪戯を続ける邑輝を肩越しに睨み付けた都筑が、幾分大きな声で言った。 「何なりとどうぞ」 にっこりと。 手が勝手に動いているんです、とでも言いそうな表情で。 微笑みかけた邑輝に、彼もまた微笑んだ。 「邪魔」 都筑がその言葉を発した瞬間に、邑輝は芝居がかった動きでよろめく。 「え」 不意に体が自由になって、思わず振り向いた都筑はひょんな声を発して。 そして、脱力した。 「都筑さん…っ」 「……なに…」 「何という、悲しいことを言うんです」 左手を額に当てて、実にわざとらしい哀しみの表情を浮かべた邑輝は。 右手で都筑が玉ねぎを持つ右手を掴んだ。 意地でも剥くつもりなのか。それとも、持っていることすら忘れているのか。 固く、握られていたソレが床に落ちる。 「…と、言うわけでv」 仮面を剥ぐように。 哀しみから、よろしくない笑みへと表情を変えた邑輝に。 都筑も、諦めたように左手の包丁を置いて。 その手を、邑輝の腰に回した。 「仕方ないなぁ」 くすくすと笑いながら、彼の胸に頬を寄せる。 そうすると、頬を伝って彼の笑いが伝わってくる。 「貴方が悪いんですよ?」 「お前ってさ…」 「?」 「盛りのついた猫みたいだよな」 「うーん…座布団一枚な感じですねぇ」 そのまま、彼の躯はシステムキッチンの壁面に押さえつけられた。 後には、剥きかけの玉ねぎがコロリv |
END
(C)上善若水、珠 2002-05-12
| ★珠様のサイト「上善若水」でキリ番を踏んで書いていただいたSSですv 「泣き笑い」という訳の分らないリクエストがこんなお茶目なドクターと都筑さんに変身してきました〜♪ ツボです、このドクター!個人的にはとても好きなドクターです。ああ、いいわ〜!こんなラブラブなふたりというのも好きなんですよね。 珠様、本当に素敵なお話ありがとうございますv この後は言うまでもないですよね・・・・この人達(笑)。 |