| 君がいるから 「ねぇねぇ、密ぁ。密さぁ、アメリカに生まれてたら良かったのにね」 「…は?」 何いきなりワケのわかんねぇ事ぬかしてやがる、と心の中で毒づきながら密はのろのろと顔を上げた。今は仕事の真っ最中。連日の出張で、溜まりに溜まった報告書やら何やらを提出しなければいけないのに、その書類の上で肘をつきながらのほほんと笑う都筑の、この余裕は一体どこから来るのだろう。 「寝惚けてねぇで、手ぇ動かせよ。お前が終わらなくても、俺は一切手伝わないからな」 密が普段は大きな眸を威嚇するように細めて都筑を睨む。美人なだけに、その迫力はかなりのもので普通の人間なら即座にごめんなさいをして後は黙々と手を動かしただろう。だが、流石に都筑はもう慣れていて『冷たいなぁ』などと言いながら口を尖らせている。だが、都筑の中に静かだが強く密を想う気持ちがあるのを感じて、密は溜息をついてペンを置いた。 「…で?急にそんな事を言い出した原因は何なんだよ?」 仕方なく聞いてやる、といった態度を崩さずに密は先を促す。無視されるだろうと思っていたのに思いがけず話に乗ってきた密に、都筑は柔らかく、だがどこか寂しげな笑みを浮かべた。 「うん…昨日テレビ観ててそう思ったんだ。超能力捜査官がアメリカから来て、未解決事件を追うって番組だったんだけどね」 ああ、あれか、と密も頷く。その番組なら密も観た。自分と同じような特殊な能力を持った人間がどういう人物なのか、興味があったから。ついつい、彼等に自分を重ねて見ていたのかも知れない。だが、そこに映し出されていたのは、蔑まれる事も疎まれる事もなく、胸を張って警察に協力する姿だった。そして彼等は皆、人々に感謝されていた。自分には覚えのない経験。密は自嘲気味に微笑んだ。そんな密に、俯いたままの都筑は気付かない。 「それ観てたら、密はアメリカに生まれてたら幸せになれたんじゃないか、って思ってさ。能力を使えば感謝されるし、人の役にも立つし。そしたら、皆密を好きになると思うんだ」 ゆっくりと一言一言、言葉を選びながら話す都筑に、密の胸に暖かいものが生まれる。都筑もまた、彼等に密を重ね合わせて見ていたのだ。超能力捜査官が社会的に認められているアメリカなら、密が疎まれ孤独に襲われる事はなかっただろうと。その能力を最大限に生かし、人々に感謝され、幸せな一生を送れたかも知れないと。 そんな都筑の気持ちを、密は素直に嬉しいと思った。だが。 こいつ、肝心な事に気付いていないのな。 そんな都筑だから惹かれるのだろうけれど。でも大事な事に気付かない都筑に、つい意地悪をしてみたくなる。 「バーカ。ただでさえ力を使うと体力消耗しちまうってのに、そんな凶悪事件にばかり関わっていられるかよ。取り込む思念が多過ぎてしょっちゅうオーバーロードでブッ倒れちまうぜ。お前、俺を早死にさせたいのかよ」 とっくに死んでいるのに『早死にさせたいのか』も何もないのだが、密はわざと呆れたような声を上げる。 「あ…そ、そっか。ごめんね密…俺、そこまで考えてなかった」 考えてねーのはそれだけじゃねぇだろうが。 心の中でツッコミを入れながら、都筑のネクタイを掴んでぐい、と自分の方に引寄せる。そして、突然の事に目を瞬かせて密を見詰める都筑の耳元に唇を寄せて、小さく囁いた。 「それに…お前がいない所で、俺が幸せになんてなれるわけないだろう?」 不貞腐れたようにネクタイから手を離し、自席にすとんと腰を下ろして赤くなった顔を背けてしまった密を、都筑がぽかんと見詰める。 「…密、それって…」 言いかけた都筑を、密がじろりと睨む。 「…何度も言わせんなよ。…わかってんだろ?」 照れたように睨んでくる密に、都筑は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。 「…うん…」 その花のような笑みに一瞬見惚れていた密が、慌てて厳しい顔を作る。 「わかったら、さっさと片付けろよ。何度も言うけど、俺は手伝わないからな」 えー、と不満の声を上げる都筑を呆れたように見詰めながら、それでも眸の奥に愛しさを滲ませて溜息をつく。 「当たり前だろう?…その代わり、お前が終わるまで待っててやるから。晩メシ、一緒に食いに行こうぜ」 密の言葉に嬉しそうに頷いて、都筑は手元の書類にペンを走らせ始めた。そんな都筑を見て、密も再び書類へと視線を落す。 どうせ手伝う事になるんだろうしな…俺の分だけでもさっさと終わらせちまうか。 その日、珍しく提出期限に間に合った九州担当の2人の書類を前に、召喚課の有能秘書である巽が本気で天変地異を心配していた事など、当の本人達の耳に入る事はなかった。 |
| END 02.09.15 真織 |
| ★いつもお世話になっている真織さんのサイトで2周年記念、お持ち帰りフリーの小説ですv 密都です。 そう、そうなんですよねv 密と都筑の関係・・・・こういう感じで大好きなんです! 無愛想でいて誰よりも都筑のことを気にかけて・・・・うっかりしちゃう都筑も彼らしくて頷くことしきりv お互いに足りないものを補うことのできる素敵なコンビです♪ 読んでいると幸せな気持ちになります(*^_^*)。 真織さん、ありがとうございます! 大切にしますねv そして・・・2周年、おめでとうございます。 |