| TK作戦 「「「暑〜〜い…!!」」」 夏、真っ盛り。猛暑である地上の影響は冥府にも及び、ここ閻魔庁も例年になく暑さに悩まされていた。その中でも、エリートの集団であるところの召喚課は他の部署に比べて体感温度が常に8度は高い。それは閻魔庁の敏腕秘書、巽征一郎の涙ぐましい節約の賜物だった。 だが。現在召喚課に所属する職員にとっては、それは迷惑以外のなにものでもなく、その証拠に室内でデスクワークに勤しんでいた都筑、密、亘理の3人は揃って悲鳴を上げていた。 「それにしても暑ッいなぁ…巽の奴、節約節約てエエ加減にせえっちゅーねん…」 「そうだよね…いくらなんでも、これじゃ外にいるのと同じだよ…」 「…俺……もう、溶けそうです…」 額に玉のような汗をかき、パタパタと団扇で扇ぎながら今は不在の巽に愚痴を言ってみる。尤も、言ったところでどうにもならない事は過去の経験上嫌と言う程解ってはいるのだが、人間言わなきゃやってられない時だってあるのだ。 「何とか巽にもう少しクーラー強くしてもらう方法、ないかなぁ。このままじゃ密が倒れちゃうよ」 心配そうな都筑の声に、都筑の隣に座っていた密を見ると既に目が虚ろになっている。今はまだ午前だからいいようなものの、午後になれば暑さもピークに達するだろう。 「うーん、せやなぁ…」 腕を組んで考え込んだ亘理を、少しでも良い考えが浮かぶようにと都筑が団扇で扇いでやる。パタパタと扇ぎ続けること数分間、唐突に亘理が大声を上げて立ち上がった。 「せや!エエ事思いついたで!名付けて『大陽と北風作戦』、略して『TK作戦』や!!」 本当に大丈夫なのかと怪訝そうな視線を向ける都筑と密に、亘理は自信たっぷりに胸を張る。 「大丈夫や!これなら間違いナシや!せやから黙って俺の言う通りにしたらエエねん。エエか…」 誰かに聞かれたら大変とばかりに亘理が2人にこそこそと耳打ちをする。だが、得意げな亘理の説明が終わらないうちに、都筑から抗議の声が上がった。 「えーーッ!ヤだよぅ、何で俺がそんな事しなくちゃいけないんだよー!」 「何言うとんねん!俺や坊じゃ期待通りの結果は出ェへんのや!」 「えーー…でもさぁ…」 尚も渋る都筑に、精神感応力で亘理が敢えて口に出さなかった事まで感じ取った密が、重い溜息と共におもむろに口を開く。 「都筑。成功したら好きなだけビール飲ませてやる」 真夏のビールの効果は偉大だ。甘党であると同時に『ウワバミ』『ザル』の異名を持つ都筑にとって、「ビール飲み放題」の言葉は亘理の計画を聞いた時の衝撃など軽く吹っ飛ぶ程、魅惑的な言葉であった。 途端に瞳を輝かせ今にもちぎれんばかりにしっぽを振る都筑に、密が煩そうに手を振る。 「いいか、勘違いするなよ?成功しなかったら報酬はナシだからな、覚えとけよ?」 密の声が聞こえているのかいないのか、既に夢見心地の都筑を後目に亘理が待ちきれないかのように意気揚揚と声を上げた。 「ほな、TK作戦スタートや〜〜!!」 「失礼します、巽さんいます…か…!?///」 コンコンと軽くノックをして入って来た男が視線をさっと室内に走らせて、惚けたようにある一点でぴたりと動きを止めた。 「げっ」 その男を見た都筑が、小さく嫌そうな声を上げる。それもその筈、その男は都筑が職務という名の破壊活動をする度に、召喚課に怒鳴り込んで来る『経理の若造(巽・談)』だったのだ。自分の後ろに隠れようとする都筑に苦笑しながら亘理が対応する。 「スマンなぁ〜、巽の奴、今課長の代理で会議に出とんねん。何か用なら巽に伝えとくで?」 「そ、そうですか…」 経理の男は返事をしながらも、心ここにあらずといった風情で都筑を見詰めている。それに気付いた亘理が、意味ありげな笑みを浮かべて楽しそうに口を開いた。 「あ、コレか?ホレ、うちって余所の部署に比べて暑いやん?あんまり暑いんで、都筑の奴上だけ脱ぎよってん。ま、服装に規定もないさかい、問題あらへんやろ」 そう。男の視線の先には、上半身裸の都筑が立っていた。つまり、亘理の計画とは『都筑が暑さを理由に上半身裸でいれば、服装に煩い巽がそれを止めさせようとして服を着せる為にクーラーを強くしてくれるだろう』という、いわば童話「大陽と北風」の応用ともいえるものだったのだ。 だが。巽の前に彼が来た事で、事態は少々違う方向へと動きだそうとしていた。 「それはそうですが…」 亘理の言葉に相槌を打ちながら、男の視線は都筑から離れない。艶やかな黒髪、しっとりと汗ばんだ滑らかな肌、引き締まった腹筋、綺麗な窪みを形作る鎖骨…徐々に頬に赤味が増す男の視線が、都筑の綺麗な桜色をした胸の飾りへと止まった瞬間。 「ま、また後で来ます!!」 と慌てて部屋を飛び出していた。 「何や、あれ?」 都筑と亘理が急いでドアから顔を出し、男の姿を探すと丁度彼が物凄い勢いでトイレへ駆け込んで行く所だった。 「そんなに漏れそうだったのかなぁ?」 首を傾げて戻って来る都筑に、密がうんざりしたような視線を向ける。密には、男の感情が全て流れ込んでいたのだ。その所為で密の頬も赤くなっている。 「バカ。あいつ、お前に欲情してたんだよ!…ッたく、お前の所為で気持ち悪いモン見ちまったじゃねーか!!」 「そーいう事やったんか〜。あいつが都筑にようつっかるんは、『好きな子は苛めたい』っちゅう心理やったんやな」 複雑な表情を浮かべる2人を、ぽかんとして交互に見ていた都筑がその言葉の意味を理解して、嫌そうな顔をする。 「まさか…じゃあトイレに入って行ったのは…」 「出すモン出さな、仕事も手につかんちゅー事やな」 ハッキリと言ってのけた亘理に、都筑は恨めしそうな視線を向ける。 「げっ…これからどんな顔してあいつに会えばいいんだよ〜…」 「知るか。向こうが勝手に好きなんだから、無視してりゃいいだろ」 「そんなぁ〜…って、あれ?密、どこ行くの?」 思わず涙目になった都筑を後目に立ち上がった密を、都筑が椅子に座ったまま見上げる。 「書庫室だ。あそこならクーラーが効いてるからな。最初ッからそうしてりゃ良かったんだよな…」 クーラーと聞いて目を輝かせた立ち上がった都筑を、亘理が慌てて止める。 「ちょい待ち!お前が書庫室に行ってもうたら作戦成功せんやないか!俺も一緒に居てやるさかい、もう少し我慢せえって!!」 密も、その通りだとばかりに強く頷く。2人の迫力に押されて、都筑は文句を言いながらも仕方なく自分の席に腰を下ろした。それを見て、ようやく密がドアへと足を向ける。その途中。 「亘理さん、色々と邪な事を考えてるみたいですけど、都筑に手ェ出したら酷い目にあいますよ?」 釘を刺しておく事も忘れずに。言われた亘理はと言うと、傍目からもはっきりとわかる程顔色を変え、慌てて取り繕うような笑みを浮かべた。 「い、嫌やなぁ、ちょっと想像してみただけやんか…本気にしたらアカンで坊〜」 わはは、と白々しく笑う亘理を疑わしそうに見詰めながら、密は溜息をついた。 「…なら良いですけど。俺、とばっちり食うのは嫌ですからね」 言いたい事だけ言うと、密はくるりと背を向けた。冷たいなァ、という亘理の声を背後に聞きながら召喚課を後にする。書庫室へ向かう途中、鼻息も荒く競うようにして走って行く数人の男性職員と擦れ違ったが、さして気にもせず通り過ぎる。だが、それがとんでもない事態を招いていた事など、密はその時は知る由も無かった。 その頃、召喚課では。何人もの男性職員が、途切れる事無く不在の巽を訪ねて押しかけていた。だが、誰もが巽を訪ねて来たと言いながら都筑にばかり視線を向けて行く。それを、都筑は単純に自分が上半身裸という格好でいる所為だと思っていた。しかし、亘理は早い段階で事の真相に気付いていた。 ――何や、コレ全部都筑目当てかい…ホンマ、巽がおらんで良かったわ。せやけど、巽が戻らんうちに何とかせなアカンなぁ…―― どうしたものかと溜息をついた、その時。部屋中に聞く者全てを凍らせるような地の底を這うような声が響き渡った。 「――アンタ達、ここで一体何をしてるんですかッ!!!」 都筑の周りに群がっていた職員が、一斉に首を竦めて声の主を窺う。職員達に囲まれて、困り果てていた都筑が助かったとばかりに安堵の声を上げた。 「た、たつみぃ…この人達、巽に用があるって…」 その言葉に、巽がじろりと職員達を一瞥する。亘理はその様子を見ながら、自分にとって最悪な事態が起きた事をはっきりと悟っていた。都筑の方は知らないが、巽の気持ちは見ていればすぐわかる。巽が想いを寄せている都筑にあんな格好をさせたのが自分だとバレたら、恐らくただでは済まないだろう。亘理はひたすら自分に被害が無いようにと祈りながら、声を顰めて成り行きを見守った。 「ほほう?それはお待たせして申し訳ありませんでした。では、ご用件を伺いましょうか?」 有無を言わせぬ迫力に、その場に居た職員達が沈黙する。そんな彼等から視線を動かさないまま、巽が意地悪く言葉を続ける。 「おや、私に用があったのではないのですか?…そう言えば、今日は保健管理室を鼻血で利用する職員が多かったり、男性用トイレの個室が全部使用中だったりしているようですが…何故でしょうねぇ?」 笑顔で話しているのに、目が全く笑っていない。そんな巽を前にして、逆らえる者など誰もいないだろう。職員達は、一人、また一人と『急用を思い出した』と言ってあたふたと退室して行き、召喚課には巽、都筑、亘理の3人だけが残された。 「それで?何故アンタはそんな格好をしていたんです?」 巽に言われてきっちりとYシャツを着込んだ都筑が、目の前で怒りの形相で見下ろす巽を恐る恐る見上げる。 「だって…暑かったんだもん…」 都筑の言葉に、亘理はこっそりと胸を撫で下ろす。どうやら都筑も気を遣って真相を巽に言いつけるつもりは無いようだ。 ――堪忍な、都筑。この礼は後でしっかりさせてもらうさかい、巽にはバラさんといて―― 亘理の祈りが通じたのか、巽もそれ以上追求する事はしなかった。都筑なら有り得るとでも思ったのだろうか。泣き出しそうな都筑を見て、それまで険しかった表情をふ、と緩める。 「そうですね…確かに節約をしようと少しやり過ぎたかも知れません。貴方にまたあんな格好をされても困りますし…これからはもう少しクーラーを強くしましょうか」 「え、ホント?」 ぱっと顔を輝かせる都筑をにこにこと見詰める表情は、先程までの悪人面とは到底同じ人物とは思えない程甘かった。 それ以降、召喚課では肌寒さを感じる程クーラーがガンガンにかけられたと言う。…但し、それは都筑が居る時だけだったが。 |
END
2002.08.18
真織
| ★真織様のサイトにて、お持ち帰りフリーとなっていた残暑お見舞いのお話ですv 召喚課での巽都話ですね♪ 何だかんだ言っても都筑に甘い巽が何とも。彼にとっては都筑につく虫はどんなものでも許せない訳で; くすくす・・・・巽ったら難儀なことですねえ〜v 都筑さんの上半身裸・・・・・・考えるだけで鼻血物です; 真織様、素敵な巽都話ありがとうございます。 大切にしますね(*^_^*)。 |