「内緒のお願い」
「ねえ、巽。」
のんびりした口調で棚の向こうから都筑が呼びかける。
「何です?」
自分の分の資料を出してしまった巽は椅子に腰掛けファイルをめくっている。
「今度食事行かない?」
顔を上げると棚の隙間から問いかけている都筑と、目があった。
「あなたそんなお金あるんですか?給料日前でしょう?」
「えっ?ああ、あ、あるよ、それぐらい・・・」
「・・・・あんた・・・まさか奢らせようと思ったとか?」
へらっと笑ったまま都筑は固まっている。
「あは、そんなぁ〜やだなあ、そんなつもりはないよ。」
力無く笑う都筑に、巽はため息をつく。
そこで何となく終わってしまった会話。
またぺらぺらとファイルをめくる音だけが資料室に響いた。
パタンっと自分の仕事を終えた巽はファイルを閉じた。
書類を片付けつつ奥を見ると、都筑がまだ棚の前で難しい顔をしながらファイルをめくっている。
少し考えて巽はドアの方へ向かう足を止めた。
「都筑さん、あさっての土曜日うちにいらっしゃい。何か作りますよ。」
言い終えた途端、都筑が棚から飛び出してくる。
「ホント? いいの?」
「ええ、大したものは作れませんが、それでいいのなら。」
「いい、いい、それで充分!」
首が取れるのではないかと言うほど縦に振る。
その様が可愛くて、つい頭に手をやる。
「じゃあ、早くその報告書を提出してくださいね。」
「うん!」
ぽんぽんと頭を叩き上機嫌に返事をする都筑を残し資料室を出ようとノブに手をかけた。
「あ、巽。」
「はい?」
「約束のしるし、ちょうだい。」
「はあ?・・・・しるし?・・・・指切りとか?」
そんなことしなくても大丈夫ですよ、と巽は笑った。
まったく子供なんですから・・・と。
「違うよ!」
都筑は一瞬目を逸らす。
「何です?」
意を決したように顔を上げた都筑は自分の唇に指を当てる。
「ここに・・・」
彼の言わんとすることが分かった巽は顔が火照るの感じた。
「なっ、何を言っているのですかあなたは、ここは職場っ・・・」
それ以上は言葉が出ない。
都筑に背を向け出ていこうとする。
「巽!」
肩に手がかけられた。
それだけでもう巽は動けない。
「だめ?誰もいない・・・よ。」
「たつみ・・・」
都筑の甘いささやきが耳をくすぐる。
ため息と共にゆっくりと振り向くと、上目遣いで見つめてくる。
心なしか目が潤んでいる。
さっきまであんなに子供っぽかったのに、今はもう、その面影もない。
・・・反則だ、いつもこの瞳には逆らえない。
「仕方ないですね・・・」
最後の言い訳。
巽は都筑の頬に手を添える。
約束しましょう・・・・二人だけの約束です。
★お粗末様でした・・・・(^^;)