桜紅葉

「うひゃーあんなに町が小さく見える!」
都筑はガードレールから身を乗り出すように覗き込む。
「都筑さん、危ないですよ! まったく子供じゃあるまいし・・・・落ちたらどうするんです。」
巽が都筑の腕を持つ。
「えー大丈夫だよ! それにもし落ちても俺達飛べるじゃん!」
「・・・・そういう問題じゃありません。それにほら、周りをご覧なさい。」
都筑は周囲を見渡す。
休日の午後、一足早い紅葉を見に山の上にある公園へとたくさんの観光客が車でやってきていた。
「ん?人がいっぱいいるけど、それが・・・あっ!」
巽は眼鏡に指を押し当てため息をつく。
「・・・・・分かっていただけましたか? こんな人混みの中でそんな力使ったら大騒ぎですよ。どう説明するんです?それぐらい考えつかないもんですかねえ〜。」
「うっ、ごめん・・・・。」
ま、いつものことですけど・・・・と歩き出す。
「あれ?何処に行くの?」
「この先に綺麗に紅葉している木があるそうですから、そこに行ってみましょう。」
いつの間にそんな情報を仕入れたのか・・・首を傾げながら都筑は巽の後を追った。



「ねえ、まだぁ?」
「もう少しですよ。」
整備された道は途中まで。そこからは人一人がやっと通れるようなけもの道が続く。
四方八方から生えているツルに何回足を取られてこけそうになったか・・・・
都筑は必死で巽のあとをついていった。
飛んでやろうかとも思ったが、巽の言ったとおり何処で誰に見られるか分からない。
まあ、もっともこんな道に入った時点で人影なんてなかったけれども。
結局歩くしかないのか・・・・自分と違いすいすいと歩いていく巽の背中を見る。
まったく内勤のくせに何でこんなに体力があるんだ?巽って。ほんとタフだよなあ〜
「何してるんです、早くいらっしゃい!」
つい立ち止まってしまい、声がかかる。
「はいはい、行けばいいんでしょ、行けば」
二人は山道を進んだ。


黙々と歩くこと20分・・・・やっと視界が開ける。
「はい、着きましたよ、お疲れさま!」
膝に手をつき、はあはあ言う都筑の前に手が差し出される。
巽の手を取り顔を上げるとそこには一本の木があった。
息を整え木を見上げる。
「この木?」
山の高い所にあるせいか、ついている葉がどれも綺麗に紅葉していた。
木の下にも落ち葉が舞っている。
「先ほど下の売店の方に教えてもらったんですよ。めったに人は見に行かないけれど綺麗ですよと。」
「へえ〜」
都筑は見事に色づいた木の下へと行き、上を見上げる。
紅葉した葉の間からこぼれる陽の光・・・・。


「俺、紅葉してるって言うからもみじかと思った。」
上を向いたまま都筑が言った。
「もみじですよ、これは。」
横に来て巽が答える。
「えっ? だってこれ・・・・桜の木だよね。」
都筑は足元に落ちていたまだ新しい落ち葉を手に取る。
その葉は確かに桜の葉だ。
「桜紅葉・・・・秋になって桜の花が紅葉したものを、そう呼ぶんですよ。」
巽は眩しそうに上を見上げている。
「桜紅葉かあ・・・・」
春のような秋のような言葉。優しい響き。
「桜だけど・・・もみじなんだ・・・」

都筑は隣の巽の横顔を見つめる。
きつい目に遭わされたけど、木漏れ日に当たっているこんなに綺麗な巽の顔を見られたから、
ま、いいかという気になる。
つくづくげんきんな奴、俺って・・・・そう思うとくすっと笑ってしまった。
「何です?」
その声に気づいて巽が振り返る。
「んーん、何でもないよ!」
都筑は巽の腕に自分の腕を絡めた。


「ねえ、巽、来年春が来て桜が咲く頃になったら、もう一度ここに来よう。」
都筑は甘えるように巽の肩に頭を乗せる。
「いいですよ・・・今度は息があがらないようにしっかり運動しておきましょうね。」
からかうように言われて、さっきの情けない自分の姿を思い浮かべる。
「・・・・努力します・・・・」
そのままの姿勢で小さく呟いた都筑の額に巽は軽く口づけを落とした。


風に吹かれて枝から離れた葉が二人の上に舞っていた。
桜紅葉の木の下の恋人達を彩るために。

2001・9・10
M・Hinase

★サイト名「桜紅葉」で書いてみました。どのカップリングで書くか悩んだのですが、巽都が一番しっくり来たので今回はこの人達で。書いてみたかったタイトルでした・・・・あしからず(^_^;)。