Sweet heart  巽都編



・・・・おかしい。

巽は課長室に戻る足を止めた。
さり気ない振りで都筑を見る。
遅刻してきたのはいつものことだが、今日は珍しく机を離れずにPCに向かっている。
その表情はとても真剣で無駄口もない。
いつもなら振り払っても振り払ってもまとわりつき、
午前のおやつだ、お昼だ、午後のおやつだと巽の仕事の邪魔ばかりするのに今日はまだ一度も課長室へ入ってこなかった。
あまりのことに一度お茶を・・・と思って呼びに来たのだが、言葉少なに断られ、今書類を渡したときも、
「わかった・・・」
と一言だけ。

・・・・なにかあったのだろうか・・・・
巽はここ2,3日の自分たちの会話を思い出す。
一昨日の土曜日の午前中までは普通だった。特に変わったこともなかったはずだ。
その日の午後から巽は昨日いっぱい会議室に詰めていたため、都筑に何があったのかはわからない。でも日曜日の夜に電話をしたときは、特に何が・・・ということもなかった。
『昼まで寝ちゃった!』と言う彼にため息をついたことぐらいだ。
その日も特に外出はしてないようだから、地上で何かあった・・・ということは考えにくかった。
なのに・・・・。
自分の席に戻りながら巽は時計を見た。後30分で5時。
この調子では都筑はここに顔を出さずに帰る可能性もある。その前に呼び止めて何があったか聞き出した方がいいかもしれない。
そう決心した巽は仕事を片づけるべく机の上に広がった書類に手を伸ばした。


コンコン。
控えめなノックではっと顔を上げる。
5時には・・・と思っていたのに、やり始めるとつい夢中になってしまった。
時計はすでに5時をすぎていた。
巽はちいさく舌打ちをしながら
「どうぞ」
と声をかける。
ゆっくりと開いたドアのから都筑が顔を出した。
「都筑さん。」
もう帰ったかと思っていた巽は驚いて声を上げる。
その様子に少し首をかしげながら、少しだけ微笑んだ顔で都筑が手にしていた書類を差し出す。
「これ、遅くなってごめん。」
手元を見るとそれは提出を急がしたもの。
「ああ、・・・・はい。お疲れ様です。」
都筑から受け取り、脇に置く。
「じゃあ、俺帰るから。」
片手をあげて体の向きを変えた都筑の手を巽がとらえた。
「?」
「待ってください。・・・・なにがあったんですか?」
「え?」
「何かあったんでしょう?・・・いつものあなたと違いますよ。」
「何って・・・別に・・・」
「都筑さん、一人で抱え込まないでと言ったはずですよ、何があったのか話してください。」
「たつみ・・・・」
「・・・・・それとも私には話せないこと・・・・ですか?」
「何言って・・・」
首をかしげて戸惑っている都筑を抱き寄せると、たつみ・・・と都筑が小さくつぶやくのが聞こえた。
そしてふうっと息を吐いて巽の背に手を回し、ぽんぽんと叩く。
「巽・・・何もないって・・・」
「都筑さんまだそんなことを!今日のあなたはおかしいですよ、まじめに仕事はするし、おやつはねだらないし・・・・」
「・・・なんか馬鹿にされているようにも・・・」
「だからいつもと違うんです、おかしいですよ。」
巽は抱きしめた腕に力を込める。

「ふう・・・わかったよ、あのね・・・・俺、風邪ひいたみたいなんだ。」
「・・・え?」
「喉がね、すごく痛いんだよ・・・だからしゃべれなくて・・・」
痛そうに喉を手でさすりながら都筑が言った。
「じゃあ・・・無口だったのも?」
「うん。」
「おやつを食べなかったのも?」
「うん・・・熱い飲み物とかしみるんだ、痛くて・・・」
困ったもんだよね・・・と笑う都筑を見て巽は体の力が抜けていくのを感じた。
「いつからです?」
めまいが起こりそうな脱力感でいっぱいになりながら巽が呟く。
「日曜日から少しずつ・・・でもひどくなったのは今朝から。もう痛くて痛くて・・・ってどうしたの?」
机に手をついてどっと疲れた様子の巽に都筑は声をかける。
「・・・・いえ」
あらゆることを考えて過ごした時間はいったい何だったんだ・・・巽は今日一日の時間を返して欲しいと思った。今自分がこんなに疲れている理由など都筑には分からないのだろう、そういつもそうなのだ・・・いつもいつも自分だけが空回りして・・・・。
「大丈夫?」
その声に顔を上げる。心配そうにのぞき込む顔を見た。
ずっと見ていると・・・・・なんとなく笑いがこぼれてきた。
くすくす・・と笑い出した巽に都筑が驚く。
「な、何?」
「・・・・いえ何でも・・・まったくあなたにはかないませんよ。」
「はあ?」
何でもないですよ、と都筑の髪に手を当ててクシャクシャとする。
「た、たつみ?」
「帰りましょうか、今日はうちにいらっしゃい。何か身体に良いもの作りますよ。」
「え?いいの?」
ぱあっと明るい表情になる都筑を見つめる。
「アンタ、食事管理が悪いんですよ、すぐ風邪ひくでしょう。」
「うっ・・・ごめんなさい。」
「まあ、しばらくは面倒みましょう、悪化して熱を出されては仕事にも支障が出ますからね・・・。」
そう言って、都筑を先に部屋から出しながら巽は夕飯のメニューを考える。
喉に負担のないもの・・・栄養があるもの・・・あれこれ考えながら、でも少しだけため息をつく。
口で何を言っても、結局は都筑が一番だ、彼の世話をやくのが楽しいだなんて・・・自分でも呆れますね・・・・と、巽は鞄とコートを持って苦笑した。
さ、早く帰らないと・・・。
自分を慰めるように息を吐くと、巽は都筑の待つ部屋へと足を向けた。



「先に風呂に入ってください。その間に食事の用意をしておきますから。」
「は〜い。」
家に戻るなり都筑に声をかける。先程よりかは喉の痛みは減ったのか間延びした返事を返ってくる。
少しけだるそうだ。
元気な振りをしていても、やはり体調が良くないのだろう・・・いつもはさぼることばかり考えているのに、変な所でがんばってしまう都筑にため息をつく。だからこそ、目が離せないのだと。

簡単な下準備が終わった巽は今日のメールチェックをしていなかったことに気づいた。本当に今日一日は都筑の行動にあれやこれや考えて何も出来なかった。
巽はリビングでPCを開いてメールボックスを開いた・・・・

・・・・・なんですか・・・・これは!
そこには30通の新着メールの表示が・・・それも差出人はすべて・・・

2002/×/× 都筑麻斗『おはよう 巽』
2002/×/× 都筑麻斗『あ、送信しちゃった!』
2002/×/× 都筑麻斗『あのね・・・あっ』
・・・・・・この調子延々と意味のないメールが続く・・・・

時間を見ると朝から夕方まで・・・・巽はあまりのことに言葉を失う。
一日中、あの人はこれを打っていたのか・・・それもこんなくだらないことに?


「ああ、良いお湯だった〜あれ?どうしたの?」
温められて少しだけ元の声が戻った都筑がPCの画面を見つめて動かない巽に向かって声をかける。
「・・・・都筑さん・・・あなたあの報告書はいつ書いたんですか。」
「え?あれ?昨日。えらいだろう!家に仕事持って帰るなんて!」
えっへんと都筑が胸を張る。
その様子に巽は乾いた笑いをする・・・・
「ええ、本当に・・・・・で、仕事中ずっとメール打ってたんですか・・・」  
「う、うん・・・」
ちょっと怒気を含んだ声色に都筑が言いよどむ。
「ほお・・・・ずっとねえ。朝から・・・・夕方まで・・・」
「だ、だって巽、メールの出し方くらい早く覚えなさいって言ったじゃん!今日はしゃべれないから良い機会かな・・・とか思ってさ。いいたいこといっぱいあったのに話せないし・・・だからメールで代わりにって・・・あ、ねえ、どうしたんだよ!」
都筑の話も聞かずにスタスタと部屋を出て行く巽に都筑は慌てて声をかける。
「たつみ!」
「・・・あんた夕飯抜きです。」
「な、何言ってんだよ!来いって言ったの、巽じゃん!」
「気が変わったんです。」
「そ、そんなあ〜;」
横暴だとか、酷いとか・・・悲鳴のような都筑の声を背中で聞きながら、巽は大きくため息をついた。
色々と・・・・色々と乗り越えて行かなくてはいけない・・・・遠い目になってしまう。
まったく、どうしてくれましょう・・・・作りかけの鍋を覗き込みながら、おたまを手にする。

「ね、聞いてるの、巽!」
その声に振り向く。
「・・・・ええ、聞いていますよ・・・・この小悪魔・・・」
「え?何?」
「何でもないですよ。」
はあ?という顔をする都筑を見て、巽は再び大きく息を吐いた。



なにはともあれ・・・・・美味しい食事はできあがりそうですv

2002・4・15
M・Hinase

★先日日記に掲載したSSに続きをつけてUPしました。
復活一号です。
これからぼちぼちやっていきますね。
お待たせしました♪

巽を振り回す都筑・・・・ってとこ?(笑)