いつまでも

「・・・・あの・・・巽?」
巽は渡された書類に目を通しながら、チラッと都筑を見て、また目を戻す。
「・・・どうでしょうか?」
「・・・・まあ、いいでしょう・・・・」
「本当?やったー!」
良かったよーと言いながら、ふらふらと都筑はソファに座り込んだ。
「これでやっと帰れる・・・・」
ふーっと息を吐きながら呟く都筑を見て、巽も溜息をつく。
12月25日、夜7時。
せっかくのクリスマスにもう2時間も巽と都筑は課長室にいた。
他の職員は2度目のパーティーと称して飲みに出掛けてしまっていたというのに・・・。




昨日の召還課のクリスマスパーティーを引きずったまま始まった今日の業務は
まず部屋の掃除から始まり、思う以上にかかった掃除のついでということで
各職員が自分の周りをも片づけ始めた。
都筑も昨夜のお酒が残る頭で当然やり始めたのだが、机の一番下の引き出しの奥を探っていた時、何か紙の束に手が触れた。
瞬間、嫌な予感がするのを感じながら恐る恐る引き出してみると
それは5年前報告書・・・・。
一気に二日酔いが覚めてしまった。
何も見なかったことにしようと戻そうとした都筑の頭上で低い声が響く・・・・。
「それは何ですか?都筑さん・・・・まさかお仕事関係のではないでしょうねえ?」
見上げた都筑の目に映ったものは、全然目の笑っていない巽の笑顔だった。
そして今、2人はここにいる。



「まったく信じられませんね、5年前のものまで未提出だったとは!」
巽は椅子から立ち上がり窓のカーテンをひく。
「ごめん・・・・俺もすっかり忘れてた。」
「ちゃんと期日を守って出していないから分からなくなるんですよ。これに懲りたら少しでもこれからはちゃんとしてくださいね。本当に、もう何と言ったらいいのか・・・。」
「だから、ごめん! これからは気をつけます。」
「先日その書類関係の事尋ねられたんですよね、まさか貴方が出していないとは思わなかったから思いっきり突っ返したのに・・・・はあ、これを渡しに行くのが辛いですよ・・・・。」
「ごめん・・・・・。」
眉間に皺を寄せこめかみの所を押さえている巽に都筑はこれ以外の言葉が言えなくなる。
見つかって、書かされている時は『せっかくのクリスマスなのに』とか『巽の意地悪』とか思っていたのだけど、この遅れに遅れた色の褪せた書類を上に持っていくのは巽なのだ。自分はここで多少巽の文句を受けるだけですむけど、巽は下げたくもない頭を下げなければならないこともあるのだろう・・・・。
今回ばかりは本当に申し訳ないと思う。
「せっかくのクリスマスなのに・・・・ごめんね。」
嫌な思いをさせてしまった・・・・。都筑は俯いてしまう。
他の職員達は今頃何処かのお店で盛り上がっているに違いない・・・。
「本当に・・・・せっかくのクリスマスなのに・・・・。」
呆れたような声色に都筑はギュッと目を瞑る。
・・・・巽だって行きたかっただろうに、残業につき合わせた上にいらない仕事まで増やしてしまった・・・・。

足音が近づいてくるのに気付いて都筑はそっと目を開けた。
俯いた視界に巽の靴が見える。
でも顔は上げられなかった。
と、頭に手が置かれる。
「まったく貴方は人の気も知らないで・・・・」
そう言うと巽の手は柔らかく肌を辿り頬に降りてきた。
軽く力を入れると、都筑の顔を向けさせる。ちょっぴり涙目になっている表情を見て巽はくすっと笑った。
「私の方が泣きたいんですよ?」
「・・・・ごめんね、みんなと飲みにも行けなくて・・・・ごめん。」
その言葉に巽は少し目を見開いた。
「・・・・私は別にみなさんと飲みに行けなかったから文句を言っているのではないのですよ。」
「え?でも・・・・今日はクリスマスだし・・・」
「私が何のために24日に召還課のパーティーをしたと思っているんです?」
「え?それは、休日で人が集まりやすいって・・・・」
「本当に貴方って人は・・・・」
呆れた顔のまま巽は優しく都筑の頭を抱え込む。
「25日に貴方と過ごすために決まっているでしょう?」
「たつみ・・・・?」
「皆さんとのおつき合いは24日に済ませて、今日は定時で仕事を切り上げて、私の家で食事を・・・と思って準備をしていたのに・・・・・。」
巽の腕の中で都筑は静かに巽の言葉を聞く。
「貴方と来たらこんな日に限って、あんな書類を引っ張り出してしまうのですから。見たら私だってほっとけないでしょう・・・・・。」
他の人の手前・・・とつけ加える。
「うん・・・・ごめん。俺・・・・。」
今からじゃ、ダメ? と巽を見上げる。
「遅くなりますよ。」
「いいよ、夜中になっても良い。巽と過ごせるなら、一晩中でも起きていたい。」
その言葉に巽は微笑んだ。
「あらかた準備はしていますが、手伝ってくれますか?」
「うん。ありがとう巽。」
都筑は巽の背中に腕を廻し抱きしめた。


「都筑さん・・・・」
そっと都筑の身体を離しながら巽が耳元で囁く。
「何?」
「食事の後も・・・・つき合ってくださいますね?」
その言葉に都筑は真っ赤になる。
「泊まっていいの?平日だよ。」
「クリスマスですから・・・・特別です。」
「うん・・・・つき合う。」
にっこり笑う都筑に巽は掠めるようなキスをおとす。
「じゃあ、帰りましょう。」
もう一度巽は都筑を抱きしめた。



外に出ると雪が舞っていた。
「わー降ってる!」
「冷えますね。・・・・都筑さん。」
「ん?」
振り返ると巽が手を差し出している。
その様子に都筑も無言でその手を握り返すと、巽はそっと自分のポケットに手を入れる。
「巽・・・・」
普段、外ではめったにしない巽の行動に都筑は戸惑う。
寄り添う形になって歩き出した。
「巽。」
「何です?」
「・・・・・俺、やっぱりクリスマスが好き・・・・」
いつもはなかなか言えない気持ちをクリスマスにかぶせる。
都筑のはにかむような様子に巽も言葉を添えた。
「私も好きですよ・・・・。」
どんなものよりも・・・・・。



いつまでも、いつまでもこんな時間が続けばいいのに・・・・
悲しみも苦しみももういらないから。
お互いの心だけを感じて
愛だけで全てが支えられれば良いのに・・・・。
ポケットの中で巽が都筑の手を握りしめる。
その温かさに都筑は涙が出そうになった。


クリスマスの夜はこれから・・・・メリークリスマス・・・・。

2001・12・25 
M・Hinase

★クリスマスSSですが、こちらにUP。
微妙に企画の「クリスマスケーキ」SSとリンクしています。
ちょっぴり切なくもしてみたけど、やはり甘い巽都でクリスマスはしめくくりましょうということで!(笑)。
イブが過ぎれば、終わったように感じるクリスマス・・・でも25日もやっぱりクリスマスvv