喧嘩の後は・・・

「わあ、綺麗だ・・・・・」

思わず声に出してしまう。

目の前に広がる湖に映る山と木々・・・・。

空に浮かぶ雲までがそこにはあった。




誰もいない湖の畔。

夢中で走ってきた・・・・・後ろも振り向かずに・・・・。

追いかけてきてもくれなかった。

文句を言うのは自分ばかりで・・・・しょうがないというようなそぶりで溜息までつかれた。

それが辛くて、悲しくて、怒って飛び出してきた。


そしてたどり着いたこの景色・・・・・。



息を整えて、側の切り株に座り込む。

やっと取れた休日。

もう何日も前から楽しみにしていて

指折り数えて・・・・そのために残業もたくさんして・・・・

そしてやってきた山奥のペンション。

部屋に入ったところまではあんなに幸せだったのに

あんなに楽しかったのに・・・

「何故こうなっちゃったのかなあ・・・・」

ぽつりと呟けば、遠くで鳥の鳴き声がした・・・・・。


「都筑さん!」

ドアを乱暴に開けて走り出した彼にかけた言葉。

でも・・・・・追いかけなかった。

悪いのは私ではない。

我が儘にも程ある、そう思ったからだ。



何が不満があるというのか、わからない。

忙しい仕事を片づけ、何とかとった休暇だった。

あちらこちらで起こる事件や事故のおかげで本当に大忙しだった。

それをなんとかやりくりして、都筑のためにと思い、そして2人でゆっくり出来ればと思った。

彼好みのペンション、彼好みの部屋の作り、そして料理。

忙しい中調べて、下準備をして、そしてやってきたのだ。

それなのに・・・・・。



窓開け、都筑が走っていったはずの森を見た。

さっきまであんなに楽しくそして幸せだったのに・・・・。

ふうっと、溜息をつく。

「どうしてこうなってしまったんでしょうねえ・・・」

そっと呟く。

こんな事を望んではいないはずなのに・・・・。



高い鳴き声を上げながら枝から飛び去った鳥を見た。

僅かな風を拾って自由に飛び回る姿に

少しだけ心が落ち着いてきた。


「ペンションに行きましょうか」

そう言ってくれたのは2週間前。

今年は特に巽の仕事が忙しくて、夏の休みも難しそうだし、遊びに行くなんて絶対無理だと思っていた。

だから、その言葉が嬉しくて、嬉しくって・・・・本当に待ち遠しくて。

なのに・・・・・・


「喧嘩しちゃった・・・・」

足元に咲く小さな花をそっと触った。



喧嘩は些細なこと・・・・・巽の運転する車で此処までやってきた。

着いたペンションはとても自分好みで・・・・花がいっぱいで。

巽がちゃんと自分のことを考えてくれている・・・・そのことが嬉しくて嬉しくて・・・・。はしゃいで・・・・。


・・・・・・そうだよね・・・・・・

それがごく当たり前のように目の前にあるから忘れてしまう。

いつもいつも巽は自分を大事にしてくれる。

いつも自分が喜ぶ顔を見たいからと、笑顔を見たいからと心を配ってくれる。

今回の休暇だってそうだ。

疲れているのに・・・・

休みたいだろうに・・・・

胸が苦しくなって、目を閉じた。

なんて我が儘なんだろう・・・・・。


部屋に入った巽が、少し休みましょう、と言ったのを、なんで素直に聞けなかったのか。

車から見えた景色に心を奪われて、外に遊びに出ることばかり気になっていた自分。

少しくらい休んだって、それらは逃げやしないのに・・・・・なのに文句言って、巽を困らせた。

やっと過ごせる2人だけの時間をただ休むだけに使いたくない・・・・・そんな幼稚な考えで・・・・。


「バカだよね・・・・俺」

そっと目を開けると潤んだ視界に湖が映る。

この景色だって2人で見ればもっと・・・・・もっと・・・・・


思えば・・・・自分もイライラしていたのかも知れない・・・・そう考える。

自分から言い出した休暇ではあったが、その時間をひねり出すために、残業残業の毎日だった。

毎日午前様、一歩手前で帰り着き、貪るように眠る・・・・その繰り返しだった。

それはひとえに都筑のため。

あの人を喜ばせたい

あの人の笑顔を見たい

それだけだった。

それを思えばこそ苦労も苦労とは思えなかったし、楽しみにしていた休暇だったのだ。


荷物を放り投げてあるベッドに腰を下ろした。

都筑の携帯が目に入る。

茶色い熊のついたストラップに思わず微笑んだ。

「いつまでも子供のようですね・・・」

そっとそれを撫でる。

『この色はね、巽を思い出すから!』

そう言っていたことを思い出した。



そうなのだ・・・・・無理をして休暇を取って、此処に来たのは、都筑のためだけではなかった。

自分がしたいからだ、彼の幸せそうな顔を見たいからだ・・・そう思うと、苦笑してしまった。

いつもいつもそう・・・・彼のために・・・・と思っているのに、それが時々足枷の様に自分を縛る。

彼のためだけではない、自分の幸せのためでもあるのに・・・・いつも勘違いをしてしまう。


そして悲しませる・・・・・。


ここのところの忙しさで、電話も出来なければ、ろくに職場でも話が出来なかった。

あんなに普段課長室に入り浸る彼が、気を遣ってか、自分の仕事の邪魔になるようなことをしてこなかった・・・・。

淋しかったはずなのだ・・・・そう思うと、胸が苦しくなった。



「バカなんですよね、私は・・・・」

いつまで経っても繰り返す。

分かってはいたのに・・・・。


巽は顔を上げた。

窓の外の美しい景色。

これを2人で見るためにやってきたのだ。

だから、今2人でいなければ・・・・・。


「会いたい!」

そう思った。

今すぐ顔を見て、抱きしめてぬくもりを感じたいと・・・。


都筑は来た道をまた走って戻る。

巽は立ち上がって部屋を飛び出した。







静かな静かな山奥のペンションでの物語・・・

恋人達の休日が今始まる。



2003・7・10
M・Hinase

★突発的に書いたもの・・・・
何となくねv
たまにはこんなベタなのもいいでしょう(いいのか?)。
先日の七夕さんのお口直しに・・・・v
でも・・・・甘さが足らないかな???