十五夜
| 「萩にキキョウにススキ・・・・と♪」 適当な節を付けながら、鼻歌交じりに草花を花瓶に挿していく。 楽しそうに飾り付けをしていく都筑を見ながら、巽は少し遅めの朝食を用意する。 日曜日の午前中。 週末に残業が入り、今日一日はゆっくり休日を・・・と思っていた巽は、 何回も鳴らされる玄関のベルの音で、自分の計画が早くも崩れたことを悟った。 ドアを開けると案の定、そこには都筑がいて・・・・。 ただ両手いっぱいの草花は予想外だったが。 「ね、どう?」 飾り付けが終わったのか都筑が声を掛けた。 見ると秋の七草が上品に生けられている。 普段は物事に雑な都筑だが、こういった事に関してはセンスは悪くないように巽は思う。 「綺麗ですね。」 並べていた食器を置き、彼が敷物を広げ陣取っていたリビングへ向かう。 「それにしてもよく揃えましたね。」 生けられた花にそっと手を添え巽が微笑む。 褒められたことが嬉しいのか、都筑の顔が益々緩む。 「うん、育てていたのもあったけど大家さんにも少しもらったり、野原で採ってきたりして、ちょっと頑張ったんだ。」 えへっ、と笑う。 「あとは・・・団子を作るだけ!」 笑顔が可愛らしくて、巽が頭に伸ばそうとした手を止める。 「えっ?」 「だ・ん・ご! お月見には欠かせないじゃん!」 「・・・・作るんですか?」 巽は都筑を見下ろす。 「うん。」 笑顔で答える。 「あの・・・・誰が?」 声が震えているかもしれない。 「うん?俺だよ。」 「・・・・・・・」 巽の微笑みはそのまま固まってしまった・・・・。 「・・・・都筑さん・・・」 上機嫌で袋から材料を取り出す都筑に、やっとのことで考えがまとまった巽は声を掛けた。 都筑が手にした材料に、心が決まる。 「何?」 「団子はもう私が作っていますから・・・」 「えー!本当に?」 大きな目を見開いて聞き返してくる。 「ええ。」 仕上げは残っていますが・・・と付け加える。 ちぇっ、つまんないの〜と頬をふくらませて椅子に座り込む。 その拗ねた様子を見ながら 「後で手伝ってもらいますから・・・・。さ、食事にしましょうね。」 巽は都筑の頭をぽんぽんと軽く叩いて、台所へ向かった。 食事が済んで・・・・ 都筑のために日頃から用意してあるデザートを奮発して、 日当たりの良い窓際へ、クッションを置いて、 そこで食べるようにセッティングしてやり都筑を促した。 いつにない巽のサービスに首を傾げながらも、目の前の甘い物に心をとらわれ都筑は素直にそれに応じる。甘やかされているようで、とっても嬉しかった。 巽が食事の片づけをする音を聞きながら、口に広がる巽特製の菓子を味わいながら いつしか都筑は眠りの世界へと旅立っていた・・・・。 静かになった・・・・ 巽はすっかり寝込んでしまった都筑を見てホッと溜息をつく。 暖かい日射しに、お腹がいっぱい・・・・眠気を誘うにはもってこいのシチュエーション。 ・・・・まったく、この人がお子さま体質で良かったですよ・・・・ と、クッションを抱え込んで幸せそうに眠る都筑を見下ろす。 「さて、これからがひと仕事ですね!」 台所に戻った巽は大急ぎで団子を作り出す。 都筑に言った作業までは何としても終わらせておかなければならない。 それも都筑が目ざめる時間までにだ。 仕上げ直前までもっていけば、あとは手伝ってもらっても大丈夫だろう。 餡は幸いにも作り置きがあるし、味付けが出来ない過程まで到達しておけばまず心配はない。 都筑を騙すようで多少気が引けるが、こればかりは譲れない。 彼のことだ、多めに作ってきっと明日召還課に持っていくと言い出すに決まっている。 そうなれば被害は甚大だ。 それだけは避けなくてはいけない事態だった。 巽は手際の良く作業を進めていった。 「ふーっ」 ようやくひととおりの目途がつき、巽は一息入れた。 リビングを見ると、まだ眠り込んでいる黒い塊。 秋の七草を揃えるのに、朝から頑張ったというのは本当だろう。 いつもより長い昼寝になっている。 時々何か言っているようだが聞き取れない。 でも穏やかな寝顔から悪夢を見ていないことだけは分かるので、 もう少し寝かせてやろうと、巽は思う。 ・・・・つくづく甘いですね、私も・・・・ もう2時。朝早くから予定を狂わされて、 思いもかけない団子作りまでする羽目になって・・・・。 当の本人は、何も知らずに夢の世界。 ・・・・けれど 巽は明日が十五夜なんて、仕事に追われてすっかり忘れてしまっていた。 イベント事が好きな(見かけのわりに風流な事が好きな)都筑のおかげで こうやって季節を紡いでいるのも確かだった。 その人間らしい振る舞いに知らずに支えられているのかもしれない。 「ありがとうございます・・・・都筑さん・・・・」 面と向かっては言わないけれど、こうやって呟いて気持ちを言葉にする。 それは幸せな瞬間を自分に許すこと。 紅茶を飲み終えた巽は立ち上がり都筑を起こしに向かった。 私が動いた分、今度はたくさん働いてもらいますよ! そう心で宣言し巽はにへら〜と笑い顔を浮かべ寝ている、都筑の頬を思いっきり引っ張る。 「起きなさい!都筑さん!いつまで寝てるつもりですか、ささっと手伝いなさい!」 ふぇ〜と言う声が巽の家から聞こえてきたのは、その間もなくのこと・・・・。 明日は十五夜、中秋の名月。 |
2001・9・30
M・Hinase
| ★タイトルとはちょっと受ける印象の違う内容になりましたが・・・・いかがでしょう。 こういう二人の関係は好きです。昨日あげる予定でした・・・・申し訳ないです。 都筑さんの買ってきた材料に、唐辛子やわさびが混ざっていたことは、ここだけの裏話・・・・(笑)。 |