「青い花 紫の花」

温めていたカップをテーブルに並べる
お湯がそろそろ沸く頃だ 巽はいつもの紅茶の缶に手を伸ばした
いつも紅茶は数種類常備してあるが 今日の客はこれがお気に入りらしい
甘い香りのするキャラメルティー お湯を注ぐと香りが部屋中に広がった

「さて・・・と、そろそろ声をかけましょうかね」庭に面したテラスへ向かう
おや? さっきまで作業していた場所にその姿はなく 巽は庭を見渡した
あんなところに・・・庭の隅で何かを一生懸命見ている
「お茶がはいりましたよ! ちょっと一息入れてください」
「んー・・・」
動く様子がない
「都筑さん!? おやつも用意してますよ、食べないのですか?」
「食べるよ!」あわてて振り向く様が可愛い
「じゃあ、早くいらっしゃい」
パンパンと土を払いそのまま上がろうとする
「ああ、そこの水道で洗って! さっき掃除したばかりなので土を入れないでくださいね」
「は〜い」



「わっ、サンドイッチだぁ! おいしそう」
「昨日おいしいパンをいただいたので軽くトーストしてみたんですよ 中身を多めにはさんだので こぼさないように・・・ってほら、言ってるそばから!」
話しも聞かず ぼろぼろとパンのくずや中身を落とす都筑を注意する 
やっぱりまた掃除をし直すことになりそうだ サンドイッチにしたのが間違いでした・・・
巽はため息をついた


「作業は片づきましたか?」食事も一息つき、紅茶のお代わりを入れながらたずねた
「うーん、あと少しかな 咲いた時のこと考えて間隔を開けといてやらないとね 大きくならないし 
土を掘り返すので結構時間かかっちゃったよ 草抜きからやったからさあ」
普段から草くらい抜いててよとぷっと頬をふくらませる
「このところ仕事が立て込んでいて それどころじゃなかったんですよ 誰かさんのおかげで処理する書類も3倍ほど増えましたしね」
それに・・・と言葉を続ける
「今日はあんたが押しかけてきて勝手にやっているんですからね! 久しぶりに本でも読んで過ごそうと思っていたのに・・・別に頼んだ訳じゃないでしょう?」
「そりゃそうだけどさあ・・・でも でも俺は巽のためを思ってさあ 普段迷惑掛けてると思ってるから少しでも心が安まるようにって・・・」
「はいはい・・・ わかりましたよ・・・」こういう会話は早めに切り上げるに限る
「で さっきは何をあんなに見ていたんです?」
「さっき?」
「ほら 声をかけた時ですよ 何か見つけたんですか?」
「ああ、花が咲いてたんだよ 赤いナデシコが。 去年なかったのにさあ 種がどこからか飛んで来たんだね 強いよねえ植物って」
柔らかく笑う表情が綺麗だと思う
「じゃあ、それも今手を入れている所に植え替えるのですね、あんな所じゃ日当たりもあまり良くないでしょう?」
「んーそうなんだけど・・・あのままにしておこうかなあとも思うんだ けっこうナデシコって強いしさ それに色がね・・・」
「色?」
「うん、色がさ混じっちゃうの 今植えている花の色と違うから」ほんのり顔を赤くして俯く
「何色を植えるんです?」そういえば彼が何の苗を持ってきたのか聞いてなかった
目の前にあるティーカップを見つめながら都筑はゆっくりと話す
「青だよ・・・綺麗な青い色・・・ヒヤシンスやブルーデージーやムスカリとか
いっせいに咲いたらきれいだよね あの庭の一画が真っ青に染まるんだよ・・・」

        
        さっき巽言ったのは全部本当じゃない 巽にあの花を見て安らいで欲しいのはホントだけど
        それだけじゃない
        ここに来た時にどこを見ても巽に包まれていたいから・・・それは自分のため・・・
        側にいても 自分を見てくれていても もっともっとと思ってしまう 貪欲な自分
        いつでも巽を感じたいから
 深いその瞳の色に


「紫の花はないのですか?」
「・・・!?」えっ、と顔を上げた都筑の瞳をまっすぐみつめる
「青もいいですけど・・・私は紫の花を見たいですね」
(あなたをいつも感じられるように)
「たつみ・・・それって・・・」
(どうして自分だけって思うのでしょうね この人は・・・)
席をたって都筑の側に立つ
頭を胸に抱え込んだ 
「植えて欲しいのですけど・・・ダメですか?」
都筑が顔を上げる
「青い花の横に・・・植えてもいいの?」
「ええ、そうしてください」いつでも一緒にいられるように・・・たとえ離れていても側にいるのだと思い上がれるように
「ありがとう・・・たつみ」
しっとりと唇を重ねる


あなたを 

おまえを 

いつも感じていたいから・・・


2001・6・9
M・Hinase

★初巽都です。もっと甘々にしたかったのです・・・個人的には。でも恥ずかしくなってやめた。
 私が抱いている彼らの印象はもっと複雑なものなので せめてこういう場では甘くいて欲しかっただけ・・