「ねえ、巽」
「はい?」
「豆・・・年の数だけ食べるんだよね」
「そう言われてますけどね」
「なんか・・・・こういうのって、ああ年取ったなあ〜って感じちゃうよね」
「そりゃあまあ貴方の年ぐらいになればね。でもその年になっても何一つ成長してないところが、情けない気もしますね」
「(ちょっとムッ)巽だって結構な爺だろう!」
「少なくとも貴方より若いつもりです。それに確実に貴方より色々学んでいますからね」
「くはあ〜やな言い方! 見た目は俺の方が若いのにさ」
「何か言いましたか?」
「いいえ!何も!・・・・あ、そうだ、巻きずしは?」
「ああ、なんか最近そういうのが流行っているそうですね」
「流行っているっていうのかなあ・・・で、今年はどっちを向いてだって?」
「東北東だと先ほど聞きましたが・・・巻きずしなんて用意していませんよ?」
「えー? なんで!!」
「豆を蒔けば済むでしょう。子供じゃあるまいし」
「だって大切な行事だよ?」
「だから豆を蒔いておけば十分だと・・・それに・・・」
「それに?」
「・・・・・いえ何でも」
「何だよ? 言いかけて止めるなよ、気持ち悪いじゃん!」
「まあ・・・・後で分かりますよ」
「はあ??」
「ほらいいから、外に向かってこれを蒔きなさい」
「何だよ一体・・・・・」


その夜、都筑さんはしっかりと巽にかぶりつかれたとさ・・・。



「面白かったねv」
「そうですね」
「やっぱ話題の映画だけあるよ〜」
「まあ見ておいて損はないでしょうね」
「そうそう、なんかありがとね」
「どうしたんです?急に」
「だってここのところ週末はいつも映画に誘って貰うし・・・」
「構いませんよ、券もあることだし。1人で見てもつまらないでしょう?」
「でもいっつも2人分じゃあ・・・」
「いいんですよ、もらい物ですから」
「え?」
「優待券ありますからね、期限内に使わないと」
「もらったの?誰に?」
「そりゃあ色々と・・・・」
「・・・・・・あのさ・・・ちょっと聞くけど、映画の後いつも食事をするあの店のも・・・・もしかして」
「ええ、そこの券も貰っていますから」
「・・・・・それって業者?」
「ま、色々です」
「課長・・・知ってんの?」
「いいえ、あの人は映画館にはあまり行かないでしょうし、外食も良くないですからね」
「・・・・・巽」
「世の中には知らない方が良いことも沢山あるんですよ? 都筑さん」
「巽・・・・」

今日も楽しいデートは続く・・・。



「おい・・・・何かあったのか?」
本当は聞かない方がいいのだと思う。どうせあの人とのケンカが原因だろうし、それも8割方つまらないことが原因だろうし・・・。まじでやばい原因の時はこんなむくれ方はしないことも学習している・・・8割どころではないだろう、たぶん10割、そう100%つまらないことに違いないのだ。
・・・なのに、少しだけその原因が知りたいと思ってしまうことに密は涙が出てきそうだった・・・。
染まらないように、流されないように過ごしていても、好奇心旺盛な人の影響はどうしても身体に入り込んでいるようで・・・。
それに、目の前で、ずっとふて腐れているパートナーは鬱陶しい。
解決してやろうとは思わないが、何があったのかだけ聞いてやろうかと思った。
テレビでつまらないバラエティー番組を見ると思えば・・・・。
密は自分の好奇心のせいだと認めたくないままに、都筑に問うたのだった。

「聞いてくれる?」
「聞くだけはな」
「あのね・・・カレンダーのことなんだけど」
「・・・は?」
「カレンダーだよ」
「・・・・」
もう2月も半ばになって何を言っているのだと思ったが、密はあえて黙る。
「巽がこれを使いなさいって渡してくれたのって・・・全部企業名が入っているんだよ! 何とか商店とか酒店とか」
「ああ粗品だな」
「俺はね、可愛い犬とか猫とか、綺麗な花畑とか・・・そんなのが欲しいんだよ! ああいうのを飾りたいんだよ、壁に! なのにさ、巽ったら手元にいっぱいあるから使いなさい!って言ってさ、味気ない数字と企業名のばっかり渡すんだ・・・」
「別にいいじゃないか、数字が見やすい方がいいだろう」
そういう密は100均で売っていた、大きな数字のみのものだ。
実用的で安くって重宝している。
「でもでも!! それじゃあ部屋が淋しいじゃん!! それに・・・さ」
「まだあるのか」
「タオル!タオルもそんなのばっかなんだよ〜」
「・・・・ああ、まあそうだろうなあ」

出入りの業者から、巽が何だかんだと粗品系を受け取っているのはよく見かける光景だ。それも実用的な物ばかり・・・・大概の物はそれで済ませているようだ。
自分たちが使うこの部屋の消耗品は全てそういう物でまかなわれていると言っても過言ではなかった。

「タオルはさ、こうふかふかして柔らかくて・・・それに顔を寄せると幸せで・・・なのに巽のくれる物っていっつもごわごわしてて、固くって!!!」
「じゃあ、使わなければいいじゃないか」
「・・・・だって柔らかいのって・・・高いもん」
「・・・・・じゃあ、仕方ないだろう、それを使うしか」
そろそろ会話を打ち切りたくなってきた。
「巽に文句言ったら、じゃあご自分で何でも買えばいいでしょうとか怒られてさ!! ひどいだろう!!?」
「・・・・・」
やっぱりつまらないことだった。
「まあ・・・・がんばれ」
力無く言う。心は全然籠もってない。
「なあなあ、密、もうすぐ俺の誕生日なんだけど・・・」
「めでたいな」
「密〜!!」
「巽さんに祝って貰え!」
「えー!? だって・・・・こんな調子だと何処かの貰い物のケーキとか出そうだよ・・・」
いっつも手作りの物を食べさせて貰っているくせに何を言ってるんだか・・・
「ま、何処かの粗品の飴ぐらいならやるよ」
「密〜ひどい!!」
「話を聞いてやってその態度か、てめえ!」
「だって、だって!!」
「いつまでもむくれてろ、バカ」
勢いよく立ち上がった、道場で一汗かいてきたいところだ。
自分の名前を呼ぶ都筑をそのままに密は部屋を出た。
好奇心を出して聞くもんじゃない。
「あ、黒崎君」
しばらく行った廊下で呼び止められた。巽だった。
「何処に?」
「道場にちょっと」
「ああ、そうですか・・・じゃあこれを」
差し出された白い物。
「汗をかくでしょうから、その後シャワーでもしてきたらいいですよ。先ほど多めに手に入ったのでどうぞ」
○○文具店の名前入りのタオル。
「・・・・・ありがとうございます」
さっきの今で少し複雑だ。
「都筑さんは部屋にいます?」
「ええ、じぶんの席でふて腐れていますよ」
「・・・ったく、あの人は!」
仕方ないですね・・・・と小さく息を吐きながら、それじゃあと部屋に向かった。
その後ろ姿を見ながら・・・
「お似合い・・・・」
そう呟いた。

手にしたタオルをそっと頬にあてると・・・・ガサガサして固かった。



「わあ、華やかだねえ」
「もうすぐですからね」
デパートの売り場に並ぶ雛壇の前を歩きながら都筑は声を上げる。
「少しずつ違うんだね・・・人形も」
「まあ、地域によっても色々ですからね。そういうのばかりを展示をしている所もあるそうですよ」
「ふーん・・・」
「・・・欲しいですか?」
「・・・は?」
「雛人形」
「・・・え?人形?・・・・」
見つめ返すと巽の顔は大真面目で。
「・・・え、いや・・・俺、男だし別に・・・」
「ああ・・・」
「ああ・・・って、おまえなあ」
まるで忘れていたかのように言われ、ちょっとムッとする。
「でも雛あられやケーキは好きですよね」
「それは・・食べ物だし!」
「食べ物といえば・・・閂さん達がひな祭りのパーティやることを、あなたに伝えてくれって言ってましたよ。3日の夜あけておいて欲しいそうですよ」
「わーい、パーティー呼んでくれるのかなあv」
「主賓だそうです」
「・・・・え?」
「みんなであなたを囲んで愛でたいそうです」
「・・・・は?」


男としての意地をとるか、食べ物をとるか・・・複雑な都筑だった・・・・。



「わああ、ありがとう!!」
「おめでとv」
「開けていい??」

・・・・2月24日、今日は召還課への人の出入りが1年で一番多くなる日だ。
始業前からひっきりなしに人が入ってくる。
ある者は花束を
ある者はお菓子を
そしてある者はケーキを・・・
あっという間に元々物で溢れかえっている都筑の机の上は綺麗なラッピングもので埋まっていく。


「なんか年々・・・すごくなっていくような気がしますね」
小さい溜息をつきながらわいわいと声が聞こえる方向を見て、巽が呟く。
「前からじゃなかったんですか?」
密もその方を見ていた。
「あることはありましたけどね・・・ただ今よりもずっと不安定な時期が長かったですからね、あの人は・・・。少し敬遠されていたところはあったんじゃないかと思いますよ。最近は少し何か吹っ切れた所が出てきたようですしね」
そう言いながら微かに微笑む。
密は巽の目は何処か遠いところを見ているような気がした。
「・・・・今日は仕事になりませんよ」
「でしょうね・・・・ま、今日は特別です。どうせ言っても聞きやしないんですから、本人も周りも」
「・・・巽さんも何かするんですか?」
「私ですか? ま、食事が一番妥当でしょう。今日は無理ですが週末にでも少し豪華な夕食でも作ろうかと」
仕方ないですからね・・・と、言葉を繋ぎながら、何処か満足そうな表情を見つめた。
「黒崎君は?」
「物をやってもすぐぶっ壊すし、植物系はもう他の人に山のように貰っているから・・・俺は食堂の食券です。スペシャル定食あたりがいいんじゃないかと」
「・・・・・黒崎君」
ポンッと、肩に手を置かれる。
「君があの人のパートナーに来てくれて本当に良かったと思いますよ」
「・・・・はあ」
どう返事をしていいか分からずに曖昧に答えた、密はもう一度都筑を見る。
プレゼントを開いては喜んでいる様子を見る。

密はきっと都筑のこういう姿をみんな見たいんだと・・・・・そう何となく思った。




「お土産」

そう言って机の上に数枚の花びらが置かれた

「これは・・・?」

「もう咲いてたから」

いつもより短めの言葉に

ふと顔を見つめた。

「・・・何?」

それに気付いて・・・微笑む。

「もう春ですね」

そう言うと・・・うん・・・そう短く返ってきた。

そのままふたりして窓の外を桜を見た。

・・・・散ることのない 永遠の桜・・・・

それは鏡のように己を移す・・・



「今度の休みに・・・」

「ん?」

「花見に行きましょうか」

ふたりで・・・

「・・・・そうだね」

流れゆく季節の中で咲く花を見に・・・



目の前に置かれているモノは何だろう・・

亘理は目を細める。

ふと顔を上げると、にっこり笑った同僚がいて・・・。

「あ・・・都筑?」

「何?」

「あの・・・これは?」

再び視線をその物体に戻す。

「え? 何って・・・桜餅だよ?」

「いや・・・それは何となく分かかるんやけど・・・」

「何となく?」

「あ、いや・・・・何でもない」

「亘理さあ関西だからさ、それに合わせたんだ」

そしてまたにっこり。

「あははは・・・」

どうやら道明寺系か長命寺系かの事を言っているらしい。

でも・・・と亘理はしみじみとその物を見る。

ピンクの色が今まで食べたもののどれよりも濃い様な気がするのは・・・気のせいだろうか。

それに見ていると、なんか微かな臭いがする・・・何の臭いなのか?

「食べないの? 俺、亘理の誕生日だからってがんばったんだけど・・・」

「あ? ああ、それはどうも・・・・やけど・・・よう覚えとったなあ・・・」

「うん、ごめんね、昨日まで俺も忘れてたんだけどさ、巽が教えてくれて。相談にも乗ってくれたんだよv」

「相談・・・・?」

「そう、俺さあお金ないから・・・そしたらさ、巽が材料があるからって、珍しく台所貸してくれてね、作ったんだv」

「・・・・・」

嬉しそうに笑う都筑に言葉がない。本当に楽しかったんだろう・・・それはよく分かる。
分かるが・・・・

「作り方は巽に習ったんか?」

「うん? ああ前に1度作ったことはあるから、記憶を頼りにして・・・。でも所々はちゃんと巽に聞いたんだ。っていうか、ずっと側にいたもん」

「ああ・・・・そう」

ということは、あえて巽は都筑の味付けに任せたということらしい。

・・・あいつ・・・

心の中で舌打ちをしつつ、都筑には笑ってしまう自分が悲しい。

「そりゃあ、仲の良いことで」

半分自棄になりながら、ぽつんと呟くと

「ええっ?!」

っと、都筑が真っ赤になる。

「・・・・・・」

・・・・やったんかい、台所で・・・・

ますます脱力してしまう亘理。

「まあ・・・・そのなんだ。ね、美味しいと思うからさ、気持ちは込めたし・・・v」

「・・・・・」

真っ赤になりながらも祝う気持ちを見せる都筑はそれなりに可愛かった。

可愛かったが・・・それとこれは別問題だろう。命がかかっているのだ。

・・・巽・・・ここぞとばかりに嫌がらせを・・・・

張り付いたような笑顔をそのままに亘理はどうやってこの場を凌ぐか・・・そのことばかり考えていた・・・。


・・・巽のどアホ!





「ふっ、そろそろですかね」

都筑がここを出て行ってからの時間を考えて、巽は笑みを浮かべる。

先月、爆発続きの実験の後始末しっかりしていただきましょう・・・

ふふふっ・・・と窓の外を見ながら笑った後ろ姿に、扉を開けた課長が、固まり、その後音もなく扉を閉めたことは、誰も知らない話・・・。


亘理、Happy Birthday☆