「おい、何処に行くんだよ?」
何度目かの問いかけ。
休日の昼下がり、のんびりゆっくり過ごしていたところを呼び出された。
待ち合わせの場所に車で乗り付けてきた邑輝は都筑を車に押し込んだ。
それから既に1時間・・・・行き先を告げない邑輝に都筑は苛立ってくる。
「おいってば。」
「行けば分かると言っているでしょう?」
「何で言わないんだよ。」
とそれには答えず、何事もない顔でハンドルを握ている。
・・・いつもこれだ・・・まったく自分勝手な奴・・・
はあ〜とため息をついて窓の外の流れる景色に目をやった。



「着きましたよ。」
「ん・・・」
身体を揺さぶられうっすらと目を開けると、目前に邑輝の顔をがあった。
「わああ・・・!」
あまりの驚きように邑輝も驚いて顔を離す。
「都筑さん・・・そんなに驚かれるとさすがに私でも傷つきますよ。」
「お、おまえがそんなに顔を近づけているからだろ! ああ、びっくりした。」
「なかなか起きないのでキスでもしようかと思ったのですが。」
都筑は胸に手を置き深く息をする。
「ああまだ胸がドキドキしてる・・・・ったくいい加減に・・・・あれ?」
潮の香り・・・
都筑は窓の外に目を向けた。
「海だ!」
邑輝を振り返る。
「ええ、そうですよ。」
邑輝は都筑の手を取った。
「降りてみますか?」



ごつごつした岩肌に波が打ち寄せては砕けていく・・・。
邑輝が連れてきたのは砂浜の続く海岸ではなく、岩場。
それも波の荒い海岸・・・この夏の時期にでも人が泳ぎに来ないような場所だった。
二人は突き出た岩の先端近くに立ち無言で海を眺めた。
海風が全身を包む。
何故邑輝が此処に来たかったのかは分からない。
でも自分も海を見たいと思っていた。
だからそれだけでいい。
打ち寄せる波の音が響く。
「・・・・都筑さん、海は好きですか?」
沈黙を破ったのは邑輝だった。
「え? ああ、嫌いじゃないよ。おまえはどうなんだ、海ってイメージじゃないけどな。」
「波の音は好きです。」
その間にも絶え間なく波は岩にぶつかっていく。
「特にこんな荒々しい波の音は・・・」
そっかあ〜・・・都筑は再び海へと視線を移した。


波の音に混じって、くすくす笑う声が聞こえる。
波に魅入っていた邑輝は、その声にふと横の都筑を見る。
「都筑さん?」
面白そうな表情で都筑は邑輝を見た。
「あ、ごめん。」そしてまたくすくす笑う。
「どうしたんです?」
訳の分からない邑輝は首を傾げるばかりだ。
「あのさあ、俺と一緒だったから・・・・好きなものが。」
「え?」
「だからあ、俺もね、こういう荒々しいの好きなんだよ。
浜辺にうち寄せるのもいいけど、こんな波も情熱的でさ。
邑輝と同じものが好きだなんて・・・・なんだかちょっと照れくさくって、
・・・・嬉しかったんだ。」
頬をちょっと赤らめて話す都筑に邑輝は手を伸ばす。
「私もあなたと好きなものが同じで光栄ですよ。でも・・・・」
抱き寄せた肩をぐっと引き寄せる。
「む、むらき?」
胸に顔を押しつける格好になった都筑は見上げた邑輝の顔が微笑んでいるのを見た。
「でも、他にも共通の好きなものはあるでしょう?」
「他にも?」
「ええ・・・例えばあなたが可愛い声でないてくれる、ああいうこととか・・・」
「ばっ、何言ってるんだよ!」
「おや、違うのですか? てっきり私はあなたも好きだと。だってあんな・・・」
「ああ、もう黙れってば! 何恥ずかしいこと言ってんだ、おまえは!
もう、俺帰る!」
邑輝の手をふりほどいて都筑は車へと向かった。

真っ赤な顔をして戻っていく都筑の後ろ姿を見ながら
「素直じゃありませんね。」と呟く。
そしてもう一度邑輝は海を見た。
砕かれた波も、また海へ戻っていく・・・・。

邑輝は軽くため息をつく。
今は戻りましょう・・・例えそこがかりそめの場所だとしても。
今はそれでいい。

2001・8・23
M・Hinase

★・・・・・(^_^;)。この中途半端さは何? そしてなんで暗くなるの? 甘い話は何処に?
闇末夏祭りがこのSSで最後になるだろうに・・・・何でこうなんだか・・・・・。夏祭り企画第4作目。