彼が水着に着替えたら




「今度プールにでも行きましょうか?」

8月ももう終わりを告げる、ある日の午後。
いつものように庭を眺めながらお茶の時間を楽しんでいる時に発せられた邑輝の言葉に、
都筑は口にあてたカップからお茶を吹き出しそうになった。
けほっ!ごほ、ごほ・・・っ!
「大丈夫ですか?」
急に目の前で咳き込む都筑に邑輝が声を掛ける。
「お、おまえが・・・けほっ、・・・変なこと言うから・・・あ、苦し・・・。」
「変な事って・・・プールがですか?」
都筑ははあ〜っと大きく息を吐き出して、呼吸を取り戻しながら
「そうだよ! 夏ももう終わるんだよ、何言ってんだよ。」
まったく・・・と、カップに残った紅茶を一気にあおる。
「別に関係ないじゃないですか。」
「プールだろ? もうどこのプールももう終わるし。」
「・・・・あなたの話しているのは屋外の・・・でしょうか?」
「・・・・他にあるのか?」
「ホテルとか、屋内型のレジャータイプの所も最近増えてるじゃないですか。
ま、私はホテルの会員制のしか利用したことはないですが。こういうところなら季節は関係ないでしょう?」
なに言ってるんですか、と半分呆れながら邑輝もカップに口を付ける。
「・・・・・」
言われてみれば、その通りだ。
でも普段から「泳ぐ」ということに無縁な都筑の頭の中には『プール=夏』という図式が出来上がっていた。

「で、でもどうして急にそんなこと言い出すんだよ!」
嫌な予感に襲われつつ強気に出る。
「別に急にというわけではないですよ。」
カチャ、とカップを置いて邑輝は組んだ足を入れ替える。
「前から考えていたんですが、なかなか時間が無かったですし・・・・あなたの水着姿というのも魅力的かと思ったもので。」
「ば、ばか! なに言ってんだよ!」
「おや? おかしいですか? 何を着ても似合うあなたですからね、きっと水着姿も・・・。」
ふっと、何を想像したのか口元に笑みを浮かべている邑輝に、もう都筑は固まるだけだ。
「勿論一番綺麗なのは何も纏わない姿でしょうが、小さい布を一枚つけたあなたというのも、これまた」
「た、頼むから、それ以上言わないでくれ! 見ろ、鳥肌が・・・・!」
自分の腕を見せながら、都筑がようやく言葉を口にする。
その様子に、ふふふっと笑いながらまたカップに口を付ける邑輝。
「おかしな人ですね。もう何もかも知り合っている仲なのに・・・。」
「・・・・もう言うなって・・・・マジで寒気がする。」
うんざりだという都筑を微笑みながら邑輝は見つめていた。




「来週末でもどうですか? ちょうど仕事が一段落しますし・・・。」
「何が・・・?」
真っ白いシーツに身体を投げ出し、ようやく息が整ってきた都筑の身体を邑輝は引き寄せながら問いかける。
怠くて眠ってしまいそうな都筑は、夢うつつに答えた。
「プールですよ、泳ぎに行きましょう。」
その言葉に、都筑は内心げっ・・・と呟く。
終わったはずの会話なのにまた蒸し返されてしまう。
「しつこいな・・・おまえも。」
「そうですか? 気持ちいいですよ、泳ぐと。」
「・・・あ〜、そうですか。」
「ええ。」
「じゃあ、一人で行けば?」
「あなたと行きたいから、誘っているんじゃないですか。」
「・・・・・俺はいいよ。」
「どうして?」
「どうしてって・・・・気が乗らないし・・・。」
目を瞑ったまま無愛想に答える都筑を、邑輝は面白そうに見つめる。
「・・・・泳げないからですか?」
「!」
都筑は驚いて目を開ける。
「私が知らないとでも? あなたのことで知らないことなんてありませんよ。」
「・・・・おまえ・・・知ってて言ってたのか。本当に性格が悪いな、今更だけど・・・。」
ばつの悪そうな顔をして、ふいっと横を向く。
「そうですねえ、今更ですね。」
くすくすと笑う声が、腹立たしい。
「ほら、こっちを向いてください。拗ねた顔も可愛くていいですが。」
横を向いた都筑の顔を自分の方に向ける。
「・・・だから、言うなって、そういうこと。」
「思ったことは口に出して伝えないと。・・・・それに良いじゃないですか、泳がなくてもプールに浸かっているだけでも。」
「温泉じゃあるまいし・・・・恥ずかしいよ。」
「誰に?」
「誰にって・・・・」
「プールは勿論貸しきりです、他の誰も入れませんよ。」
「は?」
「あなたの素敵な身体を他の人に見せる必要はないでしょう? 私が見れば充分です。」

・・・・じゃあ、広いホテルのプールにふたりっきり?・・・・

「なんか・・・・それもちょっと寒々しくないか?」
「そうですか?」
「そう思わない?って思わないから言ってるんだよな・・・・。」
都筑は、はあ〜っと深い溜息をつく。
「・・・・おまえは泳げるんだよな? やっぱり。」
「ええ、スポーツは一通りこなせますから。もし都筑さんが溺れても、大丈夫。私がしっかり救助して人工呼吸でもなんでもやりますよ、そればかりか・・・」
「ああ、もういい! わかった、わかったよ・・・行くよ、行く。好きなようにしろよ。」
「ありがとうございます。召喚課の皆さんがもう見ているのに、私だけが見ていないのもしゃくですからね。」
少し間が空く。
「へ? 何を?」
「水着姿ですよ。」
「ないよ。」
あっさりと都筑は答えた。
「え?」
邑輝が身体を起こした。
「ないよ、だって俺、泳げないことみんな知っているし、みんなで海とか行っても水の中入らないし。」
「じゃあ、誰も?」
心なしか声が嬉しそうだ。
「うん、巽も密も亘理も誰にも見せたことないし・・って、わっ!」
何すんだよ、と言う言葉は邑輝に吸い込まれてしまった。
「ん・・・んっ、ちょ・・・ん。」
息が出来なくなる程に、口づけられ、都筑は邑輝の背中を叩く。
長く長く深い・・・・・。

ひとしきり都筑を味わってから邑輝はようやく唇を解放した。
「・・・・なんだよ、いきなり・・・。」
「すみません、つい・・・。誰よりも先にその姿を見せて貰えるのかと思うと嬉しくて。」
邑輝は都筑の髪をかき上げ、都筑が笑った。
「馬鹿だな・・・おまえ。」
「あなたの前だけですから・・・。」
そしてもう一度軽く口づけた。
「でも、そんなおまえもたまにはいいかも。」
「お気に召して貰えて何よりです。約束ですよ・・・私にだけ見せてください。」
「ああ、いいよ。」

その夜、恋人達の語らいは何時までも終わることはなかった。








その1週間後・・・・・用意された水着を見た都筑は激しい後悔襲われたらしい。
どんな水着を用意したのかそれは秘密のお話・・・・・。

2002・8・30
M・Hinase

★シリアスな邑都でなくて、これまた申し訳ないです。なんだこのふたりは・・・・! 妙に慣れ親しんだふたりとなってしまいました・・・・; それにしてもどんな水着を用意したのでしょう。あなたはどう思いましたか?(笑)
そして貸し切りのプールで、一体何を・・・・。
やりたい放題の邑輝ですわv