「花の海」
| 「今日 会いたいのですが・・・」突然の連絡 出張から帰った翌日 朝一番に鳴った携帯 寝ぼけて朦朧とする頭に流れるようなあいつの声が響いた 「えー?今日? 昨日帰ってきたばかりだよ、夜遅かったしさあ 明日かあさってじゃダメ?」 「今日でないと困ります もうホテルの予約も入れてますし」 おいおい それじゃあ俺の返事必要ないじゃん まったく・・・・ 「7時にいつものロビーで・・・ お待ちしていますよ」 「ちょ、ちょっと待てよ、7時って、それは無理かも」 「とにかく7時ですので」 「待てって・・・あ、きりやがった・・・」いっぺんに目が覚めた いつもこうだ!人の都合なんて考えやしない! 出張の翌日は山のように渡される書類に埋もれて大変だっていつも言ってあるだろうに 意地悪をするかのように いや、絶対に意地悪なんだけど・・・翌日に誘ってくる 自分と会うために必死に書類を片づける俺を想像して楽しんでいるのか 本当に趣味が悪い! おかげで遅刻はしないですみそうだけどさあ 今日は思った以上に大変だった 巽から凍り付くような笑顔で渡された書類は それはもう半端な数でなく 一緒に行った密の3倍はあった・・・なんで? そりゃあちょっと物壊したかもしれないけどさあ ひどいよ!巽もあいつも意地悪だ! 書けない〜と文句を言う俺に密も「自業自得だろ」と一言 亘理は研究所にこもってここにはこないしさあ まあいても手伝ってくれないけど・・・ 「大変ね」と労ってくれたのは若葉ちゃんくらいだもん やっぱり女の子は優しいよねえ でも俺頑張ったんだよ 今日は 3分の1も出来なかったけど・・・ 「こんなに残っているのに帰るんですか いいご身分ですねえ」とか 「あなたを見ていると秘書ではなく保父になったような気がします 私は」とか さんざん嫌味を言われた それもこれも全部おまえのせいだからな! 鼻息も荒く 今日1日どれだけ此処に来るのに苦労したか話す俺 それなのに 涼しげにワイン傾けて 「それは 大変でしたねえ」と一言 なんかのれんに腕押し状態?これって・・・ 「でも お仕事なのでしょう? 私だって暇なわけではありませんよ」 「誰もおまえが暇だとは思ってないよ 忙しいことぐらい分かってるさ」 ふんと顔を背けると くすっと笑う気配 俺はとりあえず目の前の食事を片づけていく 「今日はお渡ししたい物があるんですよ」 デザートを食べ終わる頃 きりだされた 「なんだよ」 「部屋に用意してあります」 「部屋?」 いきましょう・・・と俺の言葉なんか聞きもしないで立ち上がる こいつのペースですべてが動いていくんだ 「さあ どうぞ」 ドアを開けた途端 何とも言えない香りに包まれる・・・ 「何?この香り・・・花?」 見るとテーブルの上に大きな薔薇の花束 赤くはない・・・ラベンダー色か この香りなんだ・・・花束を手に取り顔を寄せると酔うような強い香りがする 「ムーンシャドウという薔薇です 香りが強くて賞を取ったこともある薔薇です そう手には入らないものなのですが 是非あなたにと思いまして」 「ムーンシャドウっていうんだ 珍しいな・・・紫色なんだ」 「あなたの花ですよ 都筑さん・・・」 後ろから抱き込まれて耳元でこの男の低い声でささやかれると もう動けない 「会いたかった・・・」薔薇の香りに引き込まれそうになる 寝室へと促された俺は目の前の光景に立ちつくした ベッドの上には無数の薔薇の花びら・・・・まるで紫のカバーを掛けたようにちりばめられていて 「なっ なんだよこれ」 「少し多めに買いつけたので こんなのもいいのではないかと・・・素敵でしょう? 綺麗な花びらの中で 綺麗なあなたを見たい・・・」 部屋中の香りの原因はこれか 高価な薔薇だろうに・・・いやそんなことはともかく このために花びらを散りばめていたのか なんかちょっと怖くなる こいつって一体・・・!? 「俺 やっぱ帰る!」 「何を冗談言っているんです」 腕をつかまれベッドに押し倒される 「なっ・・・!?」 薔薇の花びらの中に沈み込む身体 舞い上がる香り 文句を言おうとした口をふさがれる 溺れていく身体・・・与えられる快感にもう何も考えられなくなる こいつは麻薬だ・・・その先にあるものがけして幸せでないことが分かっているのに 逃げられない やめられない 離れられない 花の海を漂いながら 花の海に流されながら 邑輝の背中に手をまわす・・・ 「おまえに溺れてやるよ・・・」 |
2001・6・9
M・Hinase
| ★・・・・脱力です・・・これドクターです・・・そうはとても思えませんが。 拙いところには目をつぶってやってください(>_<)・・・反省です・・・ 薔薇の名前は本当にあるもので香りが強いのも本当です。 |