春の足音





「ちょっといいですか?」

見せたい物があるんです、と巽に呼ばれて部屋に入ってきた都筑は巽の机の上に小さな紫の花に気付く。

「あ、かわいい! プリムラじゃんこれ、どうしたの?」

「昨日帰る途中で目についたので、買ったんですよ。」

「巽が?珍しいね〜。でも・・・・綺麗だね。」

小さな鉢を手に取り優しい目で花を眺める都筑を巽は見ていた。



鉢一杯に紫の花が咲いている。

何気なく目をやった花屋の店先に並べてあったそれを見た瞬間、巽はこの花が欲しくなった。

それが綺麗なあの瞳を思い起こさせるから・・・・。

店頭には薄い色から濃い色まで各種あったが、悩みに悩んだ末(本当に長時間悩んでいた・・・・)、中間の透明感のある紫を選んだ。

まだ蕾も多いので次から次と咲いていくだろう。

側に置いていつも眺めていたい・・・・それに店員から聞いた花言葉も・・・・。



「これが出るってことは、春近しだね・・・・・」

花の香りをかぎながらうっとりと都筑が呟く。

「まだ雪は降っているんですけどね・・・・」

巽が窓の外に舞う雪を眺めながら言う。朝から降り始めた雪は薄く外の世界を覆い始めていた。

「でもプリムラは早春の花だもん、もうすぐだよ。」

植物は正直だから・・・・と言葉をつなぐ。

そうですね、と巽は相づちを打ちながら振り向いた。

外は雪だけど、部屋の中は温かくて、春の花を持った都筑の姿が部屋の温度を少し上げてくれる気がした。

「お茶でもどうですか?」

そして相変わらず花を眺めている都筑の側に立つ。

「うん、もらう。あ、ココアの方がいいかも・・・・」

上目遣いに見る都筑の様子に巽は溜息混じりに笑って答えた。




「入りましたよ。」

「ありがとう。」

名残惜しそうに鉢をそっと机の上に置くと都筑はソファに座り込む。

テーブルの上のカップに手を伸ばし、ココアの甘い香りを味わう。



「ねえ、巽・・・・」

「はい?」

「その花・・・・プリムラなんだけど・・・・・」

花言葉知ってる?と、都筑はカップの中を見つめながら尋ねる。

それは好きな言葉、憧れる想い・・・・でも同時に怖いこと・・・・。

「・・・・ええ、知っていますよ・・・・」

そのセリフに、はっと都筑は顔を上げ、巽の目を見る。

「大切に、とても大切に育てたいと思っていますけれど、貴方も手伝ってくださいますよね?」

花に詳しいのですから・・・・・と巽が微笑んだ。

この花を育てることがその証となるのなら・・・・・。

「あ、うん・・・・そうだね・・・・育てよう、2人で。」

都筑は熱くなってきた顔を意識しながら、慌ててココアを飲み、そして笑った。



そっと頬に伸びてきた巽の手のひらに顔をすり寄せて都筑は目を瞑る。

交わしたキスは甘い甘いココアの味がした・・・・・。



『永遠に続く愛情』・・・・・・その花言葉を胸に刻む。

春の足音に耳をすませながら。

2002・1・24
M・Hinase

★理由もなく1月25日の花が「プリムラ」だった(紫の花だったので目にとまった・・・・)ので久々に花言葉シリーズをv
甘い甘い雰囲気で書いて見ましたが、伝わりましたか?
プリムラには他に「美の秘密」という花言葉もあります。美の女神の子供の化身とも言われています。
早春の花ですね。
育ててみたい花のひとつです(*^_^*)。