※今回は多少長いために行間を空けずに書いておりますv
| 日常4 「黒崎君!」 廊下を走って(普段は絶対しないのだが緊急事態だ)角を曲がると、砂埃の舞う現場が見えてきた。 少し離れたところに密の姿を見つけた巽は叫んで走り寄った。 「あ、巽さん」 「どうしたんです、一体!?」 大体の予想はつくが一応確認をとる。 「・・・・都筑が事故を起こしました・・・」 ぽつりと発せられた言葉に巽は大きく息を吐く。 「やっぱり・・・・」 後ろから足音が聞こえてきた。 「わちゃーこれまた派手に・・・って、な、なんやねん!?」 遅れてきた亘理の顔を睨み付けた。 「アンタの責任でしょうが」 「事故起こしたんは都筑やろ、都筑!!」 「アンタが余計なことをしなければこんなことには・・・」 「余計な事ってなんやねん! さっきお前も納得したやないか!」 「納得なんてしてませんよ、仕方ないかな・・・・・とちょっと思っただけで・・・そもそもですね・・・」 ・・・・そんな場合じゃないと思うけど・・・・ ぎゃあぎゃあ・・・と言い合いが始まるのを聞きながら密が、少し煙の収まった現場へ近づく。 まあ、誰が原因というのは明らかなんだから、ここでするべきことは一応、運転手の安否ではないだろうか。 とりあえず見た時には壁にぶつかっただけに思えたので他の人は巻き込んでいないはずだ。 そんなことを考えながら壁に突っ込んでいる車を覗き込んだ。 「おい、大丈夫か?」 見ると、ちょうど壁が人の字のように支え合って車の上に屋根を作っている状態だった。 「あ、密! うん、大丈夫」 ごそごそとベルトをいじっていた都筑が振り向く。 「あ、じゃねえよ。お前何してるんだ、試運転は夕方とか言ってなかったか?」 「うん、そのつもりだったんだけどね〜ちょっと色々あってさ」 「色々・・・? 色々って何だよ」 「それはね・・・あれ?」 「都筑さん!」 「都筑!」 密の後ろから顔を出した2人に気付いて都筑が手を振る。 「・・・・・何やってるんですか、アンタは!」 暢気に手を振る都筑に巽の眉間に皺が寄った。 「お前、なに勝手に・・・・練習は後でっていう話やったやないか」 「えーっと・・・・」 相次ぐ質問攻め、都筑が言葉を詰まらせる。 「巽さん、亘理さん・・・それよりもまずこの状況をどうにかしないと・・・」 密が呆れ気味に声をかける。 車は前半分が見事に玄関横の壁に突っ込んでいる状態で・・・ 周囲にもこの騒ぎを聞きつけた職員が集まってきている。 「あ、まあ・・・・そうですね」 巽が咳払いをして、周囲を見渡した。 確かに今やらなければならないことは、この場の速やかなる収拾だ。 これ以上騒ぎを大きくしては体裁が悪い。都筑へのお灸はそれからで充分だろう。 「どうしましょうかね・・・・都筑さん出られますか?」 「・・・・それが・・・・」 「どっか挟んだんか!」 亘理も覗き込む。 「ううん、身体は平気。でもねえ・・・・ベルトがね取れないんだ」 「は?」 3人同時に聞き返す。 「取れないって・・・」 「壊れちゃったのかなあ〜」 またごそごそと都筑はベルトをいじる。 どうやら容易には取れないらしい。 「とりあえず車出さないとな・・・・」 「あ、そうだね」 密の呟きに都筑が頷く。 「出せますか? バックで出ないと・・・」 「ん、分かってる・・・えっと・・・・バックで出たいんだけど」 都筑がハンドルに向かって話しかけている。 「・・・・・・・・」 3人は都筑を見た。 「おい、都筑?」 「ちょっと何してるんですか!?」 「あ、その前にエンジンだね、エンジン始動v」 「は?」 そう聞き返した途端、ぶるるるる・・・・と車のエンジンがかかる。 ・・・・おいおい;;・・・・ 3人の頭の中に同じ言葉が浮かんだ。 「亘理さん・・・あなたは何作ったんです?」 一段と低くなった巽の声が響いた。 「あ? オレは知らん!知らん! そんな機能つけんわ、俺はゴーカートのようにしただけやって」 「じゃあ、これは何です!!」 エンジンが鳴り響く車を指す。 当の都筑はハンドル中央の小さな画面をみつめている。 「だから知らんって言ってるやろ!」 「えっと・・・じゃあ、次はバックだね!・・・あ、速度?」 そんな言い合いも耳に入らない都筑がハンドルの中央にある画面を見ながら話している。 密は嫌な予感がしてきた。 「巽さん、亘理さん、あいつの指示で車が動いていますよね」 目が離せないまま、2人に伝える。 「・・・・・そやな」 「それは一体・・・」 んーっと、都筑が考えている。 密ははっとした。 「ちょっと待て都筑、何でもかんでも口に出して・・・」 遅かった・・・・・ 「えっと・・・80K?」 「馬鹿っ、なんでそうなる!」 その瞬間、ものすごい勢いで車がバックし始める。 「ええええーっ!!!」 都筑の絶叫付きだ・・・・・。 「どわあああ〜」 車は猛スピードで暴走し始めた。それも後ろ向きで・・・・。 巽や亘理はすんでの所で車の脇へ飛んだが、事情の分からない周囲の職員達はそうもいかない。突然突進してきた車に追い回される。 「なんだ、なんだ」 ぶぉぉぉぉぉーーー 「きゃあ、こっちに来る〜!!」 がががががっ!! 「いやあああ〜」 ・・・・・大パニックの阿鼻叫喚の図であった。 「みなさん、この場から離れてください!! 早く!!」 「都筑ぃー!! 早く止めろー!!」 「この馬鹿! 止めろって!!」 いち早く空中に浮かび上がった3人が声をかける。 「そ、そんなこと言ったって、ゆ、揺れが大き・・・・くっ・・・痛っ」 「都筑さん・・・・・?」 口元を抑えた都筑が上を見上げた。 「舌・・・・かんら・・・・」 涙目の男を載せながら暴走する車を上空から眺める3人にもう言葉はなかった・・・・。 なるようになれ・・・・走り回る車と、逃げまどう人々がコマ割りのように動いていた。 亘理と密は懸命に都筑に声をかけていたが・・・巽は空を見上げた。 空が高い。 秋の休暇は取れないかも知れない・・・・巽はそんなことを考えていた。 このまま何処かに飛んでいけたら・・・・ふとそんな思いが頭をよぎった。 「おい、巽! 何、ぼおおーっとしてんねん!!」 亘理の声も虚しく響いていた。 そしてもう1人・・・・・・・ワクワクしながら庁の上層からこの光景を見ている者もいたのだが、そんなことには誰も気づきはしなかった。 「ごめんなさい・・・・」 がっくりと頭を垂れている都筑を見て・・・・巽は目の前の書類を一部手に取った。 先日の暴走車による庁舎破壊の苦情及び被害額、そして車に当てられた者の被害状況が書かれてあった。 その他の書類も似たり寄ったりの内容だ。 ここの職員ならさっさと逃げなさい、トロイくせに! ・・・・と舌打ちをする。 来月に控えている全体会議でのいい攻め材料が出来たと、きっと各課は息巻いているに違いなかった。頭が痛い。 あの後、暴走車を何とか影で押さえ込み、嵌ったまま取れなかったベルトを切って都筑を引っ張り出した。彼に怪我はなく、ようやく動きの止まった車は大きな鉄くずになっていて・・・。 敷地内のあっちこっちではうめき声を上げる職員が倒れていた。 ・・・・・悲惨だった。 巽はパサッとそれを机の端に放った。 「・・・・つまり、ああいう風に車を改造した者がいるってことですか」 「そうやろう、それしかないわ」 亘理は組んでいた脚を組み替える。 「でも・・・・・誰がそんなことをするんですか」 項垂れる都筑の横から密が言った。 「そうですよね・・・・・何のメリットが・・・でもあんな改造はこの人には出来ないし」 この機械音痴にそんな芸当は無理だ。 「だから! いたんだって!! エンジニアの人が!」 「ちょうど坊くらいの背格好で格好いい感じの男かあ・・・・そんな奴はなあ・・・・」 「ホントだってば! 車見てたらさ、これ乗るの?って話しかけてきたんだよ!だからそうって答えたら、じゃあ、運転しやすくしてあげるとか言ってさ・・・ちょいちょいって」 「ちょいちょいねえ・・・」 「まったくもって信じられない話ですね」 溜息と共に密がこぼした。 「密ぁ〜!!」 「音声で動かせるようにするなんてそう簡単にはなあ・・・・30分もかからなかったわけやし・・・・」 「でも本当なんだって!」 都筑が亘理を振り返る。 「まあ・・・・・実際車はそう動いていたわけですからねえ・・・・でも不可解な事ですよね」 「・・・・・どう考えても思いあたらんわ、そんな奴・・・」 巽も亘理も首をひねるばかりだ。 「まさか・・・・霊体とか?」 ぼそっと密が呟く。 「ああ!そうかも知れない!きっとそうだよ〜エンジニアの霊がさあ〜」 都筑がそうだそうだと頷く。 「霊・・・・ねえ・・・・」 「なんか納得いかんけどなあ・・・・」 う〜ん、と考え込む2人。 「そうだって! きっとさ! そうだとしたらさ、やっとこれで成仏出来たかも、その人! 車に触りたかったんだよ〜」 「・・・・・・でも都筑さん、ここは基本的に成仏した魂がくるのですよ? そういう話はあまり・・・」 「でも他に説明出来ないじゃん!」 「謎や・・・閻魔庁の七不思議やな!」 「じゃあ、俺珍しい体験しちゃったんだ!!痛っ」 ワクワクする都筑の頭を密が叩く。 「馬鹿! あんな騒ぎ起こしてどうすんだ! 課長なんかあの日から各課を回りっぱなしだぞ!」 「う・・・・・だって」 「そうですよ、黒崎君の言うとおりです。今日も大王様の所へ行かれてるんですよ」 「・・・・・うん・・・・」 「ま、事故の張本人には違いないからな〜そいつが限定されない限りは・・・」 「ふーっ・・・・・・今はどうこう言っても始まらないでしょう。このことはまた仕事から戻って来て話し合いましょう」 「仕事?」 都筑と密が同時に聞き返す。 「・・・お仕事です。ま、ちょうどいいタイミングかも・・・ですね。内容からして2,3日の出張でしょうか、もう手配していますから早速向かってください」 そう言いながら書類を密に渡す。横から都筑も覗き込んだ。 「庁内が落ち着くまで、アンタはウロウロしない方が良いでしょうから」 都筑を睨み付ける。密は頷いた。 「そうですね・・・わかりました。行ってきます。おい、都筑、行くぞ!」 ぱしっと書類で都筑を叩いてドアに向かった密に、待ってよ、と声をかけながら都筑が巽を振り返る。 「巽・・・・・その・・・・ごめんね、俺・・・・」 きっとこれから回って来るであろう処理のことを申し訳なく思っているのだろう。 まあ今回のこと、元はと言えば・・・・というのは少しはと巽自身も思っている。 今度の休日でも何処か広い空き地でハンドルくらいは握らせてやろうと考えていた。 巽は苦笑する。 「いいから気をつけて、行ってらっしゃい。その代わり帰ってきたら残業覚悟していてくださいね」 「・・・・・うん、ごめんね」 少しだけ笑って都筑は出ていった。 「まあまあ過保護なことで」 冷めたお茶を啜りながら亘理がへらへらと笑う。 あえてそれが聞こえない振りをする。 「・・・・貴方も報告書出して貰いますからね、関わったのは確かなんですから」 「へーへー。・・・・・・でも本当に何やったんかなあ・・・・そいつ」 うーんと手を伸ばし、ソファにもたれた。 「そうですね・・・・・・お茶、煎れ直しましょうか?」 「ああ、頼むわ・・・・」 そして沈黙。 いつまで考えても答えの出ない2人だった。 「大王様?」 頭上からくすくすと笑う声が聞こえて、近衛は顔を上げた。 「いや、先日の出来事は面白かったと思ってな」 「大王様・・・・おふざけが過ぎるのでは?」 近衛は胃のあたりを押さえながら呟く。 「いやいや、あやつの困った泣き顔も見られたし、楽しかった。人が慌てふためくのを見るのはいい」 「・・・・・・」 まだくすくすと笑い続ける姿に近衛は溜息をつく。 この人の余興に振り回されながら、そしてあの部下達の尻ぬぐいをしながら過ごす日々・・・・・思わず遠い目をしてしまう。 止まらない笑い声に、しばらく胃薬が手放せなくなりそうだ・・・・・と、近衛は思った。 さて、その頃の都筑達は順調に仕事をこなし一軒の店に立ち寄っていた。 「珍しいね、密がこんな所に入るなんて」 都筑は試食で置いてある菓子に手を伸ばす。 そう、ここはある観光地のお土産店。 店に入るなり、密は何かを探しているようで足早にあっちこっち動いていた。 「都筑!」 店の奥から呼ばれ、急いで密の側に行ってみると、ぐっとある置物を目の前に差し出す。 「な、何これ・・・?」 「お金は俺が出す、お前これ巽さんへのお土産に買え!」 「え?」 「巽さんはこういうの好きだと思う」 差し出された物をしげしげと眺める。 「ええっそう? そうかなあ」 「いいから! お前からの土産だったら喜ぶぞ、巽さん」 「う〜ん、でも・・・・」 首を傾げながらも、有無をも言わせない勢いで差し出される物をつい受け取ってしまう。 「書いている字見ろよ、絶対気に入るって!」 「・・・・・かな?」 「ああ、絶対だ!」 「じゃあ・・・・・」 都筑がしみじみとその文字を眺めた後、レジに向かうのを見て、密は満足げに頷いた。 なんだかんだ言っても懐の寂しい都筑が、土産物を買って帰れるのが嬉しいのだろう。 これからの出張がしばらくはこの手でいってやろうと、密は考えていた。 数日後、課長室の巽の机の上に大きな将棋の駒が置かれていた。 書かれている文字は「倹約」。 都筑から笑顔で渡されたために、突っ返すことが出来ず、それでも家に持って帰るのは嫌なので此処に置いてあるのだが・・・・。 まあ、出入りする者への訓辞になるのでは・・・・と必死に自分を納得させる日々が続いているのも確かで。 都筑が買い求めた物ではないことは百も承知だ。 自分への挑戦とみた。 ・・・・侮れませんね・・・・ その置物を見るたびに、気を引き締める課長秘書であった。 そしてまた日常が始まる。 |
2003・10・23
M・hinase
★やっと・・・・やっと終わりました〜;;;
お待たせしまして・・・・(^^ゞ
こんな展開にしてしまい何ともですが
でもまあ、これが彼らの日常っていうことで・・・・
(微妙にいやかも;)
おつきあいありがとうございましたv