日常 2



「運転?」

亘理と密が同時に聞き返す。

「うん!」

とにこにこと頷く都筑の顔を見て・・・・巽を見た。

巽は軽く首を振っている。

言外に

・・・・関わるな・・・・

と、言っているのは誰の目にも明らかだった。

それでも亘理は聞き返す。

「なんでまた急に・・・」

「え? 急じゃないよ? 俺前から言っていたもん、ねえ巽?」

「・・・・・・」

巽は興味なさそうに手元の書類を開く。

その様子にちょっとムッとした都筑が亘理に向き直った。

「前から言ってたんだよ! でも巽がずっと無視してさ!」

「無視ねえ・・・・」

亘理が腕を組む。

密が静かに立ち上がった。

「密?」

本を片手にドアの方に向かった密を都筑が呼び止めた。

「俺、図書館へ行って来ます・・・・」

「えー? 話聞いてよ!」

「・・・・・・聞きたくない」

「そんなあ」

「黒崎君、いい選択です。さ、亘理さんもさっさとレポートあげちゃってくださいね!」

と、巽も場を解散させて課長室に戻ろうとする。

「ちょっと、ちょっと待ってよ! 俺の話がまだじゃん!」

「もう耳が腐るほど聞きました・・・・」

「でも返事くれないじゃん!!!!」

その言葉に巽が深い溜息をつく・・・・・・

「聞いたでしょう? この1週間ずっとその話ばかりじゃないですか。そのたびに私はちゃんと説明しているのにあなたが聞かないから・・・」

「だって・・・・」

「ちょっっーーーと、待ち!」

何か知らないが泥沼化しそうな雰囲気に亘理が叫ぶ。そして密にも此処に残るように声をかけた。

亘理の呼びかけに密はすごく嫌そうな表情をしたが、もう諦めているのか特に反論もなく椅子に座り込む。

そして巽や都筑にもそこら辺に座るように言う。

どうやら此処は自分が仕切らなければ!と思ったらしい・・・・いつものことだった。

4人が座り込むと同時に、パラパラと他の職員が席を立ち始めた。

・・・・これもいつものこと。

気になっていた都筑のおねだりが分かった時点で、みんな席を立つタイミングを計っていた。

そう、これ以上関わるとろくな事はないのだ。

経験上そのことをよく知っている職員達は、音もなく、そして言葉を交わすこともなく・・・・みんな席を立っていった。

・・・・・・残ったのは4人だけだった。

その様子を見ながら、密は大きな溜息をつく・・・。そういつもこうやって巻き込まれる。

イヤだイヤだと思っているのに・・・・・。



「さて、順番に話を聞こうやないか」

「聞かなくて良いです・・・・」

「巽は黙っときや・・・都筑に聞くんやから」

ムッと睨み付ける巽の視線を軽くかわすと亘理は都筑に笑いかけた。

「で、どうして運転なんや?」

「あのね・・・・」

都筑は巽をちらっと見ながら話し出した。

話はこうだ・・・・1週間前に深夜につけたテレビで流れていたカーレースの番組を見た都筑は何となく見ていたレースに夢中になった。

あんな風に自由に車を操ってみたい、いつも助手席で見る景色ときっと違うんじゃないんだろうか!そう思ってついつい最後まで見入ってしまった。

それに仕事で使うことも出来るかも知れないし、出来ないよりも出来る方が良いに決まっている! いつも巽の操作を見ているけど、そんなに難しい感じはしない。自分も少し練習すれば大丈夫じゃないか・・・・と思いはじめて・・・・。

一度そう思い始めると、もう止まらない。自分が運転出来たらこうしたい、ああしたい!という楽しいことばかりが頭をよぎる。

嬉々として楽しそうに語る都筑に、亘理は一言も口を挟めずにいた。密はそっぽを向いて欠伸をし・・・・・・そして巽は・・・・・静かに目を瞑っていた。



「・・・・っていう訳なんだ!」

と、何故か自信満々の都筑の話が終わった。

「・・・・・ああ、そう・・・・」

話の大半は見た番組のレースの話・・・・ただそれを見てただ闇雲に、そう闇雲に運転がしたいと思ったらしい・・・・・それだけは分かった。

「まあ、とにかく都筑はあの爽快感が味わいたいと・・・」

「そうそう」

「・・・ちなみに運転もどきはしたことは? 真似事でも・・・」

「ないよ」

「全然?」

「うん」

「・・・・・巽に教えてもらうとかなかったんかい、あれだけよくあっちこっち行ってる割に」

「ない」

ふん、と巽が小さく息を吐いて書類のチェックをしている。あくまでも無関係を決め込んでいるようだ。

「・・・・・話が戻るけど・・・何で深夜にテレビなんて見たん?」

「え? ああ、あの日? だって汗かいたし・・・・気持ち悪かったからシャワー浴びたりしてたらさ目が覚めちゃって」

「深夜に・・・・・汗?」

亘理が聞き返す。密は面倒くさそうに首を回した。

「都筑さん!」

今まで無視を決め込んでいた巽が突然都筑の頭を持っていた書類で叩いた。

「痛あ〜! なんだよ!もう!」

「なんだじゃありませんよ、さ、もう仕事に戻りましょう。これ以上は無駄です」

「何が無駄なんだよ!」

「無駄です、大体助手席ナビとしても全然役立たずなのに、自分で運転なんかしたら!」

「そんなの関係ないよ! 巽の意地悪!」

・・・・関係なくはないぞ、都筑・・・・・巽もそんなに役立たずって言うなら連れてまわるのやめればいいやんか・・・・

自分の問いは見事に後ろに流された気がする亘理は、心の中で2人の会話に突っ込みを入れながら・・・・またもや繰り返される言い合いの中、椅子の背に身体を預けた。

・・・・要するに都筑は単純に運転がしたいと・・・・まあ、教えて出来ないことはないとは思うが・・・・でもなあ、巽が乗り気でないものやってもなあ・・・・資金が出らんし・・・・巽がもう実質自家用車にしている庁の公用車を練習用に出すわけもない・・・・・

亘理は巽を見る。

全部というわけではないだろうが、燃料の大半を経費としておとし公用車を使いまくる男・・・・その車で都筑と旅行にも出かけたりしているのは公然の秘密。

まったく・・・・周りのものには厳しいこというくせに、結構自分には甘いというか、そういうところはあるようだ。

今度のことも、費用とかどうするんだ!というのに加えて、まあ都筑自身が運転することによって、自分と別行動を取ることが増えることを、何となく嫌がっている・・・・というのも反対の一因だろう。

まだつまらない言い合いを繰り返している2人をぼんやり眺める。

・・・なんかアホらしいわ・・・

今回のことも面白そうかなあ・・・・・と思ったが、なんかどうでもいいと思うように・・・・いつもの痴話喧嘩?以下かもしれないと思うと、急にやる気が失せてきた。

けれど話をした以上、都筑がこれからも煩く言うのは必須で・・・・。

・・・・・でもなあ・・・どうするか・・・・・あっ!

つらつらと色んな事を考えているうちに、亘理はあることを思い出した。

そうや、アレを改良すれば!

そう・・・・・あるものを思い出した。もう使うことはないだろうと放っておいたものがあった。

あれなら使える!

「都筑!」

まだぎゃあぎゃあ言い合っていた2人は、その声に同時に亘理を振り向いた。

「まかしとき、都筑! お前でも運転出来るものを作ったるわ!」

「え? ホント!!」

「亘理さん・・・あんた・・・・」

なんということを・・・・と巽が呟く。

都筑がわーいと歓声を上げる中

やっぱりこういう展開になるのか・・・・と密は立ち上がって、窓から庁を眺めた・・・。


此処もようやく秋の気配が漂ってきた。

この部屋の喧噪と比べてなんて外は静かなんだろう。

あの木の下で昼寝をすると、どれだけ気持ちがいいだろうか・・・・・・

そんなことを考えながら密はうーんと背伸びをした。部屋には都筑の喜ぶ声が響いていた。




数日後・・・・・亘理が倉庫から引っ張り出してきた車に改造を加えて・・・・都筑が練習をすることになる。

そしてそれは後に「車大騒動」として語り継がれる出来事の幕開けとなった・・・・・。

2003・9・16
M・Hinase

★まだもう少し続くようです・・・・

はてさて都筑さんは無事に運転出来るのか!?
そして亘理が改造した車とは!?
その時巽は・・・そして閻魔庁の運命はいかに!?

期待せずにお待ちくださいませ・・・・・・(^^;)