日常 1




「ねえ、ねえ!」

暑かった夏も一息ついた頃。

すたすたと召還課の部屋を右へ左へと動く巽の後をちょこちょことついて回る都筑がいた。

ちょこちょこと表現するには大きな図体だが、醸し出す雰囲気がそんな感じなので、飽きもせず左右に動く姿に部屋中の人間は皆心の中でそう思っていた。

でも口には誰も出さない。一言でも話題にすれば、どんな災難がこっちに降りかかって来るか分からないのだ。

そんなものは見ても、目で追っても・・・・あえて何も言わない限る。

それが此処で平和に過ごす唯一の方法だった。

もうこんな光景を見せつけられて1週間。慣れもした・・・・。



黙って見続けている(諦めているとも言う)自分たちも自分たちとは思うが、

『煩いですよ!』

『何してるんです!』

『早く仕事をしなさい!』

と言いながらも、決定的には追い払わない巽に

そして・・・・

『ねえ、ねえ』

『いいじゃん! ねえ?』

『なんでだよお〜!』

と、おまえはいくつだ、一体! と全員の心の突っ込みを一身に受けている都筑に

遠い目をしてしまう・・・・・。


こんな状況を打破してくれそうな少年は、これまた我関知せずを決め込んでおり、時折自分に話しかけてくる都筑を適当に追い払っているようだった。

そのたびに皆は期待の目を向け・・・・そしてやっぱり・・・・・と、溜息をついていたものだった。





今日も今日とて朝から続いている。

一緒に登庁してきて、いったん課長室に入って(・・・何故?とみんな思うが、聞くのはイヤだ)・・・・そして朝礼ぎりぎりに出てくる。

出てきた時に都筑の顔が赤いとか、そんなことはもう今更だ。

何があったのか・・・・と考える前に思考が停止するような状況で、

『聞いてるんですか? ぼーっとして!』

とか文句を言われる。

・・・・・・正直、たまったもんではない・・・・・



そんなこんなの昼下がり。

今回はかなりしつこい都筑が食い付いている。

主語をはっきりとしないので、何をそんなに・・・・と思っていたのだが、今日はっきりした。

そのきっかけはやはり例の男だった。

やめとけばいいのにいつもいつもちょっかいというか、首を突っ込んでは庁の裏のゴミ置き場に置かれている奴だ。もう何回死んでいるのだろう・・・・・彼を見ていると、死神ってすごいなあ〜とか、頓珍漢で訳の分からない感心がみんなの心に浮かぶのだ。







「おはよーさん!」

この1週間、出張に出ていた亘理は元気に召還課のドアを開けた。

「よう!」

と軽く手を挙げながら挨拶を交わしつつ入ってくる。

「ほれ、坊、お土産!」

と、密の机の上に小さな箱を置いた。どんなに短い出張でも必ず密にはお土産を買ってくる。

それは兄貴が年の離れた弟を構いたくて構いたくて仕方がない・・・・そんな感じだった。

もう開けなくても箱の中身が何か分かっている密は本から顔を上げる。

「いつもありがとうございます・・・・・」

全然嬉しくなさそうに一応礼を言う。

「なあ、これでまた新しい言葉がそろったで!」

「はあ・・・・」

「今度のは何と! 『平和』や! 今の時代にぴったりやろ〜? こんな時やからこそ考えないとな」

「・・・・・・はい」

すごく迷惑そうに包装紙をとると、綺麗な石に『平和』と刻まれた置物が出てきた。

「・・・・・・」

目眩がしそうだ。

「なあ、石も綺麗やろ?」

もう、脱力しきっている密は薄笑いを浮かべている。

・・・・『努力』『根性』『世界』『友情』・・・・・・・

ありとあらゆる言葉が自分の前を通り過ぎたな・・・と呆れつつも、亘理を見上げて顔を引きつらせる密だった。


そんな時、また課長室の扉が開いて巽が出てきた。

勿論その後ろには都筑がいる。

「よう、帰ったで!」

こちらに気付いた巽が近寄ってきた。

亘理は手にした菓子箱を渡す。

「ほい、課長へ」

「ご苦労様です。どうでしたか?」

「何も問題なしや、ばっちり」

「そうですか、なら早めに報告書、お願いしますね」

そして巽は密の手にしている物に気付いた。・・・・・しばらくそれを見つめる。

何とも言えない表情をして・・・・・それから密を見た。

・・・・言ってください! 巽さん!・・・・

でも、巽はそのまま目を手元の書類に戻す。密は少しばかりショックを受けた。

・・・・・巽さん!?・・・・・




「ねえ、何? 何?」

相変わらず脳天気な都筑がひょっこり顔を出す。

「あー! 亘理の奴、また密だけお土産だ!」

「耳の横で叫ばないでください、都筑さん」

ぱしっと手にしていた書類で顔を叩く。

「だってー! ひどいぞ、亘理! 俺とおまえの仲じゃん!」

「なんや、これ欲しかったんか?」

そういう意味じゃない、と都筑が言いかけた時巽が口を挟んだ。

「いりませんよ、そんなもの」

「お、おまえ、俺の土産を!」

「あってもゴミになるだけですよ、買ってくるならもう少し気の利いた物にしなさい!」

・・・・巽さん、そうなんです、言ってやってください!・・・・

「ああ? これ良いと思うけどなあ・・・・坊もそう思うんか?」

「あの・・・」

・・・・言わなきゃ! 今言わないと伝わらない!・・・・・密は口を開けた。

「黒崎君は喜んでいるかも知れませんよ? ねえ?」

にっこり笑った巽がこっちを向く。

「え?」

「黒崎君の家は飾りが少ないですからね、こういうのもいいのでは? 若い時はこういうものに触れておくものですよ」

穏やかに話す巽に密は言葉を失う。

「えーそうかなあ? 密こういうの好き?」

流石に密とコンビを組んでいるだけ彼の嗜好を知った都筑が首を傾げる。

「お、俺は・・・・」

「嫌いじゃないでしょう? 先日お邪魔した時も並べてあったじゃないですか?」

「は?」

ど、何処に!? 何処に並べているというのか!

密は開けた口が閉まらないままに巽を見つめた。

「なんや坊! 反応が薄いから気にいらんのかも・・・・とか思ったわ」

けらけらと笑う亘理の声が遠くに聞こえる。

・・・・・分かった・・・・・

密はそうか、良かったわ〜と自分の肩を叩く亘理に合わせながらも、心の中である結論に達した!

・・・・・・ そう・・・・・彼は仕返しをしているのだ・・・・ついて回る都筑を相手にせず、そのまま放置したことを・・・・自分が困っている時に何も手を出さなかった密に、自分も手を出さないということを・示しているのだ・・・・

何という根性・・・・・

密はまた1つ学んだ・・・・・この秘書という人間を。





さて忘れそうだが、都筑は一通り目の前のことが片づくと、また巽にねだり始めた。

「なあ、いいだろう?」

「・・・・・何回言わせるんですか、駄目です」

「巽ったら!」

「駄目な物は駄目なんです」

突然目の前で、いちゃつき・・・いや、始まった会話に、亘理が興味を示す。何か面白いことがあったみたいだ。

今部屋にいる全員は聞き耳を立てた・・・・少しだけ静かになる。

今まで我慢してくだらない会話をきいていたのもこのためだ。

「なん? なにかあったん?」

「あなたには関係ないですから・・・」

首を突っ込むなと、巽が言う。亘理が関わるとろくな事にならない。

「そんなこと言わずに・・・・なあ、都筑!」

今度は都筑に矛先を向ける。こういう事には都筑の方が突っつきやすい。

「あ、聞いてよ、亘理!」

早速食い付いてきた都筑に、にへらと亘理が笑う。

「都筑さん!」

やめなさい!と巽が制するが、構わずに都筑が言い放った。


みんなの動作が完全に止まった。


皆が注目する中・・・・・都筑が一言・・・・・

「俺、運転したいんだ!」

「は?」

たずねた亘理が聞き返す。

「運転?」

その言葉に密も都筑を見た。

ふーっと、やれやれな雰囲気を纏っている巽を尻目に、1人だけにこにこと都筑は笑っていた。








★バカップルの日常・・・・・をちょっと他の角度から・・・・・
続きにしちゃっていいのかねえ;;
オチがあるのか!
大丈夫か?

2003・9・1
M・Hinase