「ねえ」
もう何度目になるのか、自分より2時間も遅く帰ってきた恋人は呼びかけに答えない。
「ねえ、ねえったら!」
しばらく時間をおいても変わらなくて・・・。
都筑はエプロンをつけ夕飯の支度をするその背中を見ながら首を傾げる。

・・・・何かしたっけ?・・・・

これも何度と繰り返した問い。
でも何にも思いつかなくって・・・都筑は溜息をついた。




珍しく差し迫った提出物のなかった日。
一緒に帰れるかな・・・と覗いた課長室には忙しく電話応対する巽がいて・・・・そのあまりの多忙な様子に、何も声をかけずに帰ってしまった。
でもちゃんと先に帰るってメモ書きをそっと巽の机の上に載せてきた。

それなのに・・・・
帰って来るなり、
「都筑さん!」
と大声で呼ばれて・・・慌てて部屋を出たら、一瞬ほっとする表情をして・・・・そして怒った。
怒鳴られたわけでもない。
文句も言われない。
でもあの時、確かに巽は怒った。
その証拠にあの名前を呼ばれて以来、一度も口をきかないのだ。
何度も呼びかけているのに・・・・。



スーツの上着をとって、ネクタイを外しただけの格好にエプロンをして・・・・ずっとシンクの方を向いたまま夕食の準備をする巽を都筑は見つめる。
何が彼をこんなに怒らせているのかが分からない・・・・。
せっかくふたりでいるのに、こんな時間はつまらない・・・・。
言葉を交わさないと心まで伝わらなくなりそうで・・・・・。


「巽・・・・何で怒ってんの?」
「・・・・・」
「先に帰ったこと?」
「・・・・・」
振り返りもせず、出来上がった料理を並べた皿に盛っていく。
「でも別に今日は残ってやる仕事もなかったし・・・」
巽は淡々と反応もせず作業を続ける。
「何か言ってよ! こんなのやだよ!」
「・・・・・・」
「巽!・・・・・メモだって・・・・・メモだって残したじゃないか!」
その瞬間巽の動きが止まる。
「・・・メモ?」
「そうだよ、ちゃんと先に帰るから!って書いたやつ、巽の机の上に置いただろう!」
「・・・・・」
巽はゆっくりと振り返る、帰ってきてようやく都筑の顔を見た。
「・・・・・知りませんよ」
「え? だって・・・・置いたよ! 巽は電話していたし・・・」
「いえ何も・・・・」
「そんな・・・・」
「本当に置いたんですか?」
「置いたってば!」
じっと都筑を見て・・・・そして巽は息を吐いた。どうやら信じる気になったらしい。
「風で・・・・飛んだのかもしれませんね・・・・私は見ていませんから」
今巽の机の上は書類の山になっている、何かに紛れたのかもしれない。
「そうかも・・・・・じゃ、もう誤解は解けたよね」
「誤解?」
「うん、だって巽ずっと怒ってたじゃん! 黙って帰ったからだろう?」
「・・・・・・違いますよ」
「え? じゃあ、なんで・・・・・」
「都筑さん・・・・・あなたが早く帰ったとしてもそんな事じゃ怒りませんよ、いつものことじゃないですか。」
もう諦めたと言わんばかりの言い方だ。
「でも・・・・巽、怒って・・・」
「ええ、怒っています、今もね。」
「だから・・・・何?」
訳が分からないよ、と都筑が呟いた。
「・・・・・・本当に分からないんですか?」
巽は料理をのせた皿をテーブルに並べる。
「何かした? 今日は・・・・別に・・・・」
一日を思いだすが・・・・・何も思い当たらない。
巽は首を傾げつつける都筑をしばらく見ていたが、もういい、と言うように話し出した。
「・・・・・今日どうやって帰りました?」
「帰り?・・・・あ、送って貰った!」
「・・・車で、でしょう?」
「うん、ってあれ? 何で知っているの?・・・」
「みんな知っています」
「え? みんなって・・・・」
「何であんなのの車に乗って帰るんですか!」
「あんなの・・・て・・・・太刀川君? だって玄関出たらさ、ちょうど帰るところだったから・・・・それに方向一緒だって言うし」
巽はこめかみを押さえた・・・・何が偶然なものか。
「・・・・・それで何処にも寄らなかったんですか?」
「うん、ああでも、なんか花を見て欲しいって言われたんだけど、今日は早く帰って部屋を掃除しておこうって思ってから、真っ直ぐ送って貰ったんだ」
「・・・・・」
「なんだよ〜ホントだって!それよりも何でそんなことみんな知ってるの?」
「・・・・・お持ち帰りされたって大騒ぎだったんですよ」
巽が再び溜息をつく。
「お、お持ち帰り? 誰が? 俺が?」
都筑が目を丸くする。
「この流れでアンタ以外に誰がいるんですか!」
「でも・・・」
「でもじゃないです! あんた無防備すぎですよ! 前にあったこと忘れたんですか」
「前にって・・・・・あれは別に・・・・花のこと聞かれただけじゃん」
「あれがあいつの手だと何度言ったら分かるんですか? 少しは気をつけなさい」
「でも・・・・」
「また、でも・・・ですか」
「・・・・・ごめん・・・・俺、そんなこと思いもしなかった」
「まあ、それがあなたらしいと言えばそうなんですけどね・・・・・あなたが帰った後、親切な輩がわざと聞こえるように噂話をするし・・・・」


巽が聞いた時は、喜んで都筑が乗っていたとか
2人で何処かに出掛けたとか
それはもう枝葉がついている状態で・・・・・
噂は話半分とは思っていたけれど、都筑の姿はなく・・・・・メモの存在も知らない巽は気が気でなくて・・・・。


「ま、先にあなたの話を聞かなかった私も良くないですね」
俯いた都筑に近づく。
「・・・・ごめんね、心配かけたんだね」
「相手が相手だったもので・・・・すみません、信じていない訳では」
「うん・・・・俺も迂闊だった、これからは気をつけるよ」
巽はふっと微笑んで、都筑の額にキスをする。
「これからはなるべくメモじゃなくて、言葉で伝えてくださいね」
「うん・・・」
そうする・・・・と言いながらぎゅっと巽を抱きしめた。
巽も同じように抱きしめ返す。

「良かった・・・・もう話してくれないのかと思った・・・」
「私だって・・・・家に戻ってくるまでの時間、色々考えすぎて・・・・疲れちゃいました」
そう言うと顔を見合わせて笑う。


「巽、お腹空いた」
「はい、食事にしましょうね」
「うん!」
そして2人はもう一度キスを・・・・。
今度は互いの唇でそのぬくもりを味わった。




喧嘩はもうおしまい・・・・たくさん話して笑おうね・・・・。

2003・4・23
M・Hinase

さ、みんなして砂を吐きましょう!(笑)
終わってみればバカップルじゃないか・・・・・。

さて・・・・・このオリジナルキャラどなたかお分かりでしょうか?(お分かりの方は「桜紅葉」通です!←は?)
もうかれこれどれくらい経つのでしょうか・・・・帰ってきたようです、彼。
まだ諦めていないのか・・・・;; で、名前も決めましたわv
続編は未定です。
ご希望があれば管理人まで(笑)。