お返しは程々に

「何処にしますか?・・・・・って都筑さん?」
少しだけ早めに仕事を終わらせて、出てきた地上。
多くの人が行き交う通り。巽は幾つか並ぶ可愛いディスプレイの前で横にいるはずの都筑に声をかけたのだが・・・。


「わ、可愛い! これ!」
「おお、こんなのもセットに! すごいなあ」
店の中から聞こえる都筑の声に巽は目を伏せて溜息をついた。
いつの間にか店に入り、棚に並べられた色とりどりの菓子類を手に取りながらはしゃぐ姿に思わず店員も微笑んでいるようだ・・・・・・あれでもう1世紀は生きていると誰が信じるだろう。思わずこのまま帰ってしまおうかと思ったが、店の中から思いっきり自分に手を振る都筑の姿にそれは諦める。
何処の店を選ぶまでもない、巽はもう1回大きく息を吐くと、店の中へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」
少しだけ笑いを含んだような(巽にはそう聞こえた)声に迎えられた。



明日はホワイトデー。
バレンタインに貰ったお返しを選びたいからと言う都筑に巽は無理矢理付き合わされた。
かなり仕事が詰まってきているこの時期、本当ならば鼻先であしらうところだが、結局は付き合ってしまった。

・・・・残業続きで少し気分転換をしたかったのかもしれない・・・・

目の前でまだはしゃぎ続ける都筑を見ながら、ぼんやりと巽はそんな事を考えた。
夕食は久しぶりに外で済ませてもいいかも・・・・と。



「ねえ、巽! 巽はどう思う? これなんか可愛いと思うんだけど」
都筑が小さなぬいぐるみを1つ見せる。
うさぎが抱えたかごにキャンデーが入っていた。
「そうですね・・・・」
いいと思いますよ・・・・と言葉を繋ごうとして、ふと巽はあることを思いついた。
「そうだよね〜これにしようかなあ」
「あの・・・・・都筑さん?」
「ん?」
「今頃聞くのも何ですが・・・・・あなた、貰った人全員に返すんですよね?」
「そうだよ」
「同じ物を?」
「うん」
当然のように頷く都筑の顔を見つめる。
「・・・・・・結構な数ですよね」
「あ・・・・うん。えっと・・・・30個は越えてるかな」
「でしょう?」
(本当はそれ以上あるはずだが、それはこの際考えない事にする)
「それはいくらです?」
「えっと・・・・・・あ、高い・・・・」
「ぬいぐるみの値段ですね・・・」
菓子自体は少ないのに・・・と心の中で呟く。
「ちょっと持ってて」
都筑は巽にぬいぐるみを渡すと財布を取り出した。
「・・・・・」
「・・・・足りますか?」
「・・・・無理」
「・・・・でしょうね」
聞くまでもないことだ。
「どうしよう?」
「どうしようたって・・・・・人数が人数だし、あ、そうだ!」
「何?」
「駄菓子屋の10円のとか50円のお菓子を配るのもいいと思いますよ。」
「えー、それってどうかなあ」
「アンタが貧乏だってみんな知っているからいいでしょう?」
「でも、みんなちゃんとくれたし・・・・だから・・・」
「でもねえ」
ふーっと息を吐く巽は都筑の視線を感じて首を振る。
「・・・・・ダメですよ」
「やっぱり」
「安易に人にお金を借りるんじゃないっていつも言っているでしょう?」
「俺と巽の仲なのに・・・・」
「それこそいつも言っているでしょう?」
「「親しき仲にも礼儀あり」」
声を揃えて言う。
がっくりと項垂れる都筑に巽は苦笑した。



「ありがとうございました」
大騒ぎした結果、何も買えないままに出てきた都筑は空を仰ぐ。
既に日の暮れた空には星が出ていた。
「・・・・ごめんね、巽。付き合わせちゃって・・・・」
「いえ、それは良いんですけど」
「俺、もう少し他の所あたってみるよ、なんかあるかも知れないし・・・それこそ駄菓子とか?」
だから巽は先に帰って・・・・と微笑む。
その顔を見て、巽は軽く肩を竦めた。
「・・・・・・仕方ないですね、クッキーでいいですか?」
「え?」
「私も幾つかいただいた分がありますからね」
「じゃあ・・・・手作り?」
「多めには作っていたんですが・・・・・流石に少し足りないでしょうから、今日はうちで残りを作ってしまいましょう」
「いいの?」
「手伝って貰いますよ?」
勿論! と都筑が頷く。手作りのクッキーなら5,6枚でも充分形は整う。
「じゃ、そういうことで・・・・食事にでも行きましょうか」
「巽・・・・・うん!」
ありがとう、都筑が笑った。





・・・・・今日はなんかとっても巽が優しいな・・・・・
横を歩く巽の横顔をそっと見て都筑は思った。
・・・・・いつもならもっと小言が飛んできそうな気がするんだけど・・・・・少し首を傾げる。
・・・・・でもいいや、こんな時は思いっきり甘えちゃおう・・・・・
自然に緩んでくる顔をそのままに都筑は巽へと身体を寄せた。




・・・・・・材料はあるからいいとして、手伝わせるのは焼くところぐらいでしょうかね・・・・・
巽はにこにこと嬉しそうに歩く都筑を見やる。何か毎年似たような結果になっているようにも感じるが・・・。
・・・・・・やれやれ戻っても大忙しですね・・・・・・
当然、お泊まりになるだろう。
・・・・・・でも、その後の報酬はそれなりに払って貰いますからね、都筑さん 一足早いホワイトデーですよ・・・・・
巽がふっと微笑んだことを都筑は気づかなかった。





その夜、都筑がどんな報酬を払ったかは・・・・・・2人だけの秘密。
でも翌日の巽がとてつもなく上機嫌だったこと
都筑が身体を引きずるように遅れて出勤してきたこと・・・・・は事実。
そして巽のホワイトデーは週末に向けてまだまだ続くようだった・・・・・。

2003・3・19
M・Hinase

★遅れに遅れたWDネタ・・・・申しわけありません。で、こんな内容で・・・なんという事もない話です;;

都筑さん、貰うのはいいけど返す事余り考えてない気もして・・・・(^^;)。
でも私は都筑さんがくれる物なら何でもいいわ♪ ええ、ゴミでも!(・・・・・そうかあ?)