甘い季節
| 「うっ・・・」 小さな声がした。 書類を書く為の資料をめくっていた密は気配を感じて顔を上げる。 そこにはファイルで口元を隠した巽が主のいない机を見下ろしていた。 思いっきり眉を顰めて・・・・。 「なんです、この机は・・・・。」 ・・・またか・・・ 巽と同じように反応したのは、今日でもう何人目だろう・・・・密は溜息をつく。 本人が大人しく席に着いていればそれで話はそこで終わるのに、例のごとく朝少しいたかと思ったらその後は姿を消している。そのためその机を見た者達は皆、密に意見を求めるのだ。 『わ、すごいねえ〜。』 という単純な感想から(女の子に多い・・・)、 『げげっ、なんだこの机!』 というのまで・・・・大体において後の方が多いのだが。 そして散々見た結果、密に言うのだ。 『しっかり教育しろよ。』と。 揃いも揃って皆が同じような事を言って去っていった。 もしくは哀れみの目で密を見ていくのだ。 ・・・教育だと?!・・・ 密は机の下で拳を握る。 どっちが先輩で、どっちがキャリアが長いか・・・みんな忘れているのではないかと思う。 普通指導をして貰うのは自分の方になるのではないのか? なんで何倍も年の離れた自分がそこまで面倒を見なくてはならないのか? パートナーだから・・・というだけではどうしても納得できない。 自分よりもはるかに長い時間一緒にいるおまえらに言われたくねえ! と何度も心で叫ぶ。 そんな面倒くさい役はまっぴらごめんだと考えていた。 「まったく・・・先週からなんだかんだと広告をごそごそ探していると思ったら・・・。」 独り言なのか、密に聞かせているのか分からない巽の呟き。 「これの為だったんですね・・・。困ったもんです。」 ・・・まったくです・・・ 密は黙ったままその問題の机を見つめる。 そこにあるもの・・・・・ それは色とりどりのクリスマスケーキの切り抜き・・・・あらゆる大きさのもの、種類のものが満載だ。下手なチラシよりも多い。 透明なシートに所狭しと並べられたケーキ、オードブル、アイスクリーム・・・・誰もが一度は足を止めて、しげしげと眺めていく・・・・。 「いい年の大人が何しているんだか・・・。」 深い溜息と共に首を振っている巽に密は軽く頷く。 「・・・・ところで都筑さんは?」 目は相変わらず切り抜きを見ながらも、この場所に来た用事を巽は伝えた。 「・・・・亘理さんの所かも知れません。さっき内線入っていたから。」 その言葉に巽が顔を上げた。 「そうですか。本当に落ち着きのない人ですね・・・・早く仕上げて欲しいものがあるのに・・・。それにしても・・・」 再び机に目を落とす。 「年々華やかになりますね・・・クリスマスは。こういったものは手作りが一番なんです。毎年言い聞かせているのに、本当に進歩のない・・・いつもちゃんとしたものを食べさせているのに・・・」 そうですね・・・と言うのも妙な気がしたので密は特に何も答えない。 ふたりがどんなクリスマスを過ごそうと別にかまわないし、生前にもそんなにクリスマスに対して興味がなかった密だ。ここ最近は都筑がこの時期になると騒ぐので、ようやく目をとめるようになってきたぐらいだった。 「毎年色んなものをリクエストしてくるんですけど、結局は苺に落ち着くんですよね。」 「・・・・・」 本に目を戻そうと密が思った時、巽が話し出す。 「あの人は苺が好きなんです。」 「はあ・・・」 「チョコクリームもいいですが、苺が映えるのはやはり白の生クリームですよね?」 「・・・・はあ。」 「結構な量を食べますからね・・・・大きいのを焼かないと。」 「そうですね・・・」 「でも甘さは少し控えているんですよ? 体に悪いですからね。」 「まあ、そうですね・・・」 「でも白地に苺だけだと淋しいでしょうか・・・何か文字を入れた方がいいでしょうかね・・・・」 「・・・・・」 眼下に広がる切り抜きを見て、巽が考え込む。 ・・・この人って・・・ その様子に密は本を閉じた。 「俺、図書館に行ってきます。」 自分の世界に入りかけていた巽はその言葉にはっと我に返る。 「あ、黒崎君? 君はどちらが好きか意見を聞かせて貰えると・・・。」 すたすたと部屋を出て行く密の背中に巽が呼びかける。 「・・・都筑に聞いてください。」 振り向きもせず密は後ろ手にドアを閉めた。 大きく息を吐く。 あまりにも馬鹿馬鹿しくてやっていられない。 あれはあれで不快だったがそれまでの人のように反応してくれる方がどれだけいいかと思える。 このままだと延々とのろけを聞かせられるだけだ。 「あ、密!」 「!」 歩き出すと、向こうから笑顔で駆け寄ってくる都筑の姿が見えた。 「ねえ、ねえ何処行くの?」 「・・・・図書館。」 「えー? もうすぐおやつの時間だよ。密も一緒に・・・」 「やだ!」 都筑と一緒に巽の所でお茶をしようものなら、どうせ小言の後にさっきのケーキの話が出るに決まっている。だれがそんな雰囲気の所にいたいものか。 「そんなこと言わずに、ねえ〜。」 「・・・いいか、都筑。クリスマスが来るまで絶対机を離れんじゃねえ、分かったか。」 「なんのこと?」 「いいな、あの脳天気な机にしている間は、絶対だ!」 「あ、あれ見た? 楽しいでしょう〜? あれ見ると幸せになっちゃうよね。」 「・・・・・都筑・・・・俺の言ったこと聞いてたか。」 「え? だからあの切り抜きの事だろう?」 「いいから! さっさと行け! とっとと行け! 巽さんも探してた!」 びしっと召喚課の部屋を指さす。 ・・・こいつが席を外していてどれだけ俺が迷惑したか・・・挙げ句の果ては巽さんにまで・・・ 「わかったよお〜。」 密の剣幕に口を尖らせながらも都筑は慌てて部屋に戻っていく。 その後ろ姿を見て、密は首を振る。 これから・・・この1ヶ月・・・いやまだ前哨戦だ。 都筑の誕生日が終わる2月末までの間繰り広げられるだろう出来事に目眩がしそうだ。いかに巻き込まれないように過ごすか・・・・大きな課題だ。 無駄な抵抗のような気もするが、それでも抵抗してみたい密だった。 しばらくは部屋に戻らない方がいいだろう。 ・・・・図書館で昼寝でもするか・・・と密は思いっきり背伸びをした。 |
2002・12・2
M・Hinase
| ★・・・・なんなんでしょう? いや、軽く読み流してくだされ〜; 巽は自覚無しにのろける気がします。聞かされる方はたまりません・・・・(^^;)。 さて12月。 都筑さんの頭は美味しい料理とお菓子で毎日一杯かもv おやつの時間はふたりの・・・・の時間です。 他の方は入られない方が身の為ですよね; 都筑さんが誘っても断りましょう、秘書の睨みが怖いです・・・・。 |