伝えたい言葉



もそっと膝の上で頭が動いた

その動きに活字を追っていた巽の目は自分の膝の上にある頭にと動く

ソファーの上で思うように身体が動かせないのか

なかなか落ちつかない様子のその身体を優しく引き寄せる

ぬくもりを求める子供のように自分のセーターを握りしめる様に笑みがこぼれる

休日の昼下がり・・・・また静けさが訪れる


聞こえてくるのは遠くで鳴く鳥の声と風が揺らす葉の音

自分のめくる書類の音と

そして彼の寝息・・・・

掛けられた毛布にくるまりながら巽の膝の上に頭を乗せて眠るやすらかな音



巽は時々気付いたように手を止め彼の寝顔を覗き込む

穏やかに微笑むような顔に

優しくその口元から漏れる息に

そっと安堵の溜息をつく


その裏側にあるのは拭っても拭いきれない焦燥感

悪夢を見ているのではないか

また何処かに行くのではないか

それは・・・いつもいつも怖れていること

もう二度と離さないと決めた時から始まった想い


笑って悲しい嘘をつく人

心を傷付け生きていく人

この人を守りともに歩んでいくと心に決めた想い

こんなにも自分が怯えていることを貴方は知っているのだろうか・・・・


「ん・・・・」
漏れた声に俯けばゆっくりと開かれる紫の瞳。
「あ、たつみ・・・・今何時?」
「4時ですよ。」
優しく髪を梳きながら持っていた書類はテーブル上に置く。
「ちょっとだけのつもりが・・・・ごめん、重かっただろう?」
そう言って起きあがろうとする都筑の肩をそっと押さえる。
「かまいませんよ、心地よい重さでしたよ。」
「そう?」
「ええ」
髪を撫でる感触が気持ちよくて都筑は目を細めた。
「夢・・・・見てた。」
「何の?」
髪を梳く手は止めない。
「真っ暗なんだけど・・・・遠くに小さな光が見えて・・・・そこに向かって歩いていくんだ。」
巽は黙って都筑を見つめる。
都筑は目を瞑りゆっくりと話す。
「本当に何もないんだけど・・・・光だけはどんどん大きくなって・・・・そして暖かくなって来るんだ。」
「暖かく、ですか?」
「うん・・・・・小さく見えた光がね・・・・近づくと大きな光になって・・・・俺を飲み込んでいくんだ。」
巽はいつの間にか手を止めていた。
「今までだったら・・・そこへ行こうとすると足に色んなものが絡まって動けなくて・・・・もがいているうちにまた暗くなるんだけど・・・・・でも今日は違ってたよ。」
目を開けた都筑は巽の手を取って自分の口元に持っていき優しくキスをする。
「・・・・この手が光の中から俺を引っ張ってくれた・・・・」
頬をすり寄せながら話す都筑に巽は愛おしさがこみ上げてくる。
「嬉しかった・・・・ありがとう、巽・・・・」
ふんわりと微笑む顔。

「こんな手で良ければ・・・・」
都筑の顔をそっと包み込む。
「何度でも・・・・何度でも・・・・・貴方を引き寄せます。」
「うん・・・・」

少し開いた唇に落とされたのは深い想い。
夢の中での光が自分を再び包み込んでいくのを都筑は全身で感じていた。
・・・・いつまでも貴方と共に・・・・
耳元で囁かれた言葉に都筑はもう一度繰り返す。
「ありがとう・・・・」
それは何よりも伝えたい大切な言葉。
世界中で一番綺麗な5つの音・・・・・。



2001・11・7
M・Hinase

★10000HITのアンケートに参加してくださった方へのお礼として書いた巽都です。
「ありがとう」のテーマで書きたかったので・・・・。
私にとって一番安らぐ彼らの姿はこういうのかもしれません。