| 悪いのは・・・・? 「たつみーぃvv」 誰かこれは夢だと言って欲しい・・・・ 「俺、頑張っちゃった!」 頑張ることはいいことだと思う・・・・だが! 「いい?開けるよー」 誰でもいい! この流れを変えてくれるならあの変態医師が、 今ここに現れてもかまわない!とさえ思う。 しゅるっ〜と軽やかな音を立てリボンが解かれる。 綺麗な箱の蓋がとられる。 誰かが、小さく口笛を吹いた・・・・ そこには 本当に本当に美味しそうな・・・・アップルパイ。 焼き加減も、ほんの少し見え隠れする林檎も・・・・美味しそうだ。 夢ではないのか・・・・ 目の前で微笑む都筑も そしてこの都筑特製のアップルパイも。 巽は都筑の顔を見て力無く笑った。 今の彼にそれ以上のことを望んではいけない。 「おー美味そうやないか〜。」 無責任な亘理の言葉が遠くに聞こえる。 全部、あんたのせいでしょう! 怒鳴りつけてやりたい気持ちをグッとこらえる。 そう、あれは昨日の出来事・・・・・巽の心は目の前の光景から逃避をしていた。 昨日・・・・・巽は本当に忙しかった。 朝から留守をする課長の代わりを勤め、庁内を西から東へ・・・ 一度もゆっくりと自分の椅子に座ることもなく動き回っていた。 そんなときに限って都筑が何か言いたそうにひっついてくる。 でも本当に忙しくて都筑の相手が出来ない。 仕事だからと納得させる間もなかった。 結局その日はロクに顔を合わせる間もなく・・・・。 すっかり暗くなった時間、やっと1日の仕事が終わり、 召還課へ戻った巽は机の上に突っ伏した都筑とその横に立つ亘理を見た。 「まあ元気だしい、なあ都筑・・・・」 と、都筑の頭を撫でる様を見て、思わずムッとする。 「まだ残っていたんですか?」 「おや?旦那のお帰りや。」 亘理の言葉を無視して都筑に話しかける。 「早く帰りなさい・・・ここは冷えるでしょう?」 「だって・・・・ぐすっ」 ゆっくり顔を上げた都筑は目を真っ赤にしている。 「あ、あの都筑さん?」 「だって・・・・巽、全然俺と話してくれなかった・・・・」 全然って・・・・今日一日だけでは? しかしそんなことを今言っても仕方ない。 「おーそりゃひどいなあ〜」 面白そうに声を上げる亘理を睨む。そして優しく都筑の頭に手を乗せた。 「・・・・今日は本当に忙しかったんですよ、すみません。でももう片づきましたから。さ、帰りましょう、夕飯ごちそうしますよ。」 「ホント?」 ぱっと目を開いて嬉しそうに顔を上げる。 「ええ。だから・・・・」 鳴いたカラスがもう笑った状態に、ホッと息をつく。 帰り支度をはじめた都筑に亘理が言った。 「そう言えば、林檎の話せんでもいいんか?」 「あ、そうだ!」 林檎・・・・?何のことか分からず巽は首を傾げる。 「あのね、若葉ちゃんからお土産って林檎もらったんだ。少し固い品種で生よりも加工した方が美味しく食べられるって!」 何か・・・・・・いやな予感がするのは気のせいだろうか? 「それでね、アップルパイを作ろうと思ってるんだけど。」 「作る・・・・・?」 「うん!」 そんな綺麗な顔で笑わないで欲しい・・・・・何も言えなくなる。 「明日お茶の時間に持ってきて良い?」 巽に食べて欲しいんだ、最近疲れているし・・・・と。 「えっ!?」 「だめ?」 上目遣いで見つめてくる顔に言葉が続かない。 死んだ身で考えるのも何だが・・・・命は惜しい・・・・・ 「疲れた時は甘いものが一番やもんな!」 「亘理さん!?」 「そうだよね、やっぱり甘いものだよね。」 「・・・・・都筑さん・・・・・」 「作れ、都筑! 巽に日頃お世話になっとるしな!」 何を言ってるんですか!あんたは!! すっかりその気になった都筑の肩を叩きながら亘理が意地悪く笑う。 その顔を見て巽は思い出す。 先日、実験の予算を上げてくれと懇願したのを却下したことを。 こんな形で仕返しですか・・・・・! 「じゃあ、そうと決まれば、今から取りかかるよ!」 「えっ!?」 巽と亘理の見えない火花にまったく気付かない都筑は脳天気に部屋を出ていこうとした。 「ちょっと、都筑さん!食事はどうするんです?」 「あ、ごめん。今日は遠慮しとく。また誘って! 今から試してみたいこともあるし。」 試す・・・・何を? アップルパイを作るのに何故試すなんて・・・・。 じゃあねえ〜と手をひらひらさせて都筑は帰っていった。 「ありゃま、帰ってしもうたなぁ、ま、元気になって良かったやないか!」 「亘理さん、あんた何考えてるんです!あんなこと言って! 私だけの話じゃないでしょう、お茶の時間じゃ、この部屋のみんなが食べることになるんですよ!あんただって!」 「あ、俺は遠慮しとくわ。腹の具合悪いとか何でもあるし。まあ、おまえが倒れてもちゃんと後のケアーはしてやるから、安心しいや。」 飄々と言いのける態度が憎たらしい! 「都筑はおまえに食べて欲しい訳やし・・・・食べてやれや。」 可愛い愛妻の手作りやないか、悲しませたらあかんで・・・とポンと肩に手を置かれる。 パシッとその手を払いのけると巽は亘理を睨んだ。 「帰ります。」 「あ、食事、俺が一緒に食べてやっても良いけど?」 部屋を出て行きかけた巽は立ち止まりもせず 「あんたに食べさせるものなんてありません!」 と言い放ち、ものすごい勢いで扉を閉めていった。 「ひゃー怖!でも明日が見ものや〜♪ 楽しいなあ〜。」 亘理は鼻歌交じりで荷物を片付けはじめた。 そして今、巽の前に都筑とアップルパイがある・・・・・。 今日は本当に休もうかと思った。都筑と違って巽は有給が有り余っている。 しかしそれではきっと都筑を悲しませる。 一度は誰かが『貴方の料理は不味い』と言ってやることが本人のためなのかもしれない。 しかしそれは巽には出来ない相談だった。 「どうしたの?巽。」 都筑が用意したお皿に切り分けながら、なかなかパイに手を付けようとしない巽に声をかける。 「え・・・・?いえ、何でもないですよ。」 この現実から逃避したいあまりに昨日の一連の出来事を辿っていた巽はその声に引き戻される。 「都筑の手作りに感動してるんやろ?」 また追い打ちをかけるような声に 「え?そう?」 えへへ・・・と照れている都筑を遠くを見る目で眺める。 その後にいた密と目があった。 巽さん・・・・ご愁傷様です・・・・ そう密の声が聞こえた気がした。 いいんですよ・・・・もう。これも仕事だと思えば・・・・。 そう思いひっそりと笑う。密も力無く笑い返す。 ええい、もうどうにでもなれ! 覚悟を決めた巽はパイにフォークを刺す。 息をのむ音が部屋中に響いた。 年に1回は仕方なく口にしている代物だ、それが2回になったと思えば! そして巽はパイを口に入れた・・・・。 おや・・・・・? 口の中に広がる味に「?」が広がる。 食べた瞬間の反応を待っていたギャラリーにも「?」が広がった。 「ど、どう?」 巽は目をくるくるさせながら聞いてくる都筑の顔を見返す。 「もしかして・・・・美味しくない?」 「え?いえ・・・・」 決めた覚悟が覚悟だけに、拍子抜けしてしまった。 確かに美味しいかと言われれば・・・・答えはNOだった。 でも食べられないものではない、そう甘ったるいだけ・・・・。 「少し・・・・・甘いでしょうか。」 頭の中を整理して巽は感想を述べる。今まで何回かしてきたことの中で一番正直な感想だった。 「えー?甘い?」 巽の言葉に都筑は自分も一口食べる。 「そうかなあ〜?」 「甘いですよ。」 期待していたドタバタが肩すかしになった亘理が前へ出てくる。 「巽、無理せんでも・・・・不味いなら不味いと・・・・」 そっと小声で巽に囁いた。 「いえ、本当に・・・・貴方も食べてみてください。」 はい、と切り分けられていた皿を亘理に持たせる。 「・・・・本当に?」 「ええ。」 遠回しな仕返しをされているのかも・・・・と思わずにはいられなかったが、巽が二口目を口に入れるのを見て、食べてみる。 「あ、ほんまや!」 甘い、確かに甘いが・・・・食べられないほどではない。甘党なら我慢できる甘さだった。 えーっ?! と他の職員もパイに群がる。 都筑は分けるのに大わらわだった。 てんてこ舞いになりながらも、楽しそうにパイを振る舞う都筑を巽は見つめた。 待ちに待った日だった。 何度死にかけて苦しんだことだろう・・・・ 過去の自分に乾杯してやりたいほどだ! とうとう出来ましたね・・・・都筑さん・・・・ 許されるものならば抱きしめてあげたいと巽は思った。 「もう少し砂糖を少なめにすると良いですよ。」 皆がワイワイ食べている時、巽は都筑にアドバイスをしてやる。 「うん、そうする!でもみんなに喜んでもらえて嬉しいなあ〜また作ってきても良い?」 「ええ、かまいませんよ。本当に良かったですね。」 長年の苦労が報われた様な気がして巽はそっと都筑の手を握る。 一瞬、はっと巽を見た都筑だがギュッとその手を握り返してきた。 あんなに憎たらしく思えた亘理の言動も今となれば感謝したいぐらいだ。 巽は久しぶりに安らかな気持ちで召還課を眺めた・・・・。 「亘理さん」 都筑のパイで盛り上がっている中、密が亘理の白衣を引っぱる。 「ん?なんや坊。」 「俺・・・・嫌な予感するんですけど・・・・・」 「へ?予感?何が?」 「いえ、何か分からないんですけど・・・・・なんかこう千載一遇のチャンスを逃した様な、 最後の所で間違った方を選んだような・・・・・」 「んー?」 フォークを銜えたまま密を見る亘理は、なおも考え込む密に首を傾げた。 翌々日、保険管理室に次々と召還課の職員が運ばれてきた。 「な、何やこの騒ぎは!」 「都筑さんがケーキを作ってきたんですよ!」 職員を肩に抱えて巽が息を切らす。 「え?じゃあ・・・・・」 亘理は呻き声と共に次々と埋まっていくベッド見ながら、巽を見た。 何も言葉を交わさなくてもお互いの声が聞こえたようだった。 何事にも例外はある・・・・・ 「あんたのせいですからね!」 そう巽に言葉を投げつけられた亘理は思わず呟く。 「おまえも同罪やろ?」 おい、待て、巽!と叫ぶ亘理の声を背中で聞きながら巽は保険管理室を後にした。 まだ多くの職員が助けを待っているのだ・・・・・・。 さて、悪いのは誰・・・・・・・? |
2001・11・15
M・Hinase
| ★都筑の料理ネタ・・・・・なんて長い、無駄に長い・・・・・(^_^;)。 皆さんは誰が悪いと思います?(笑)。 シリアス月間をかかげた私は一方でこんな事も考えている訳で・・・・・ さて何人の人がついてきてくれるでしょうか? |