「え? 亘理だったの!」
驚いて都筑は手にしていた自分の携帯を思わず見る。
「・・・知らなかったなあ」
暢気な返事に、巽が眉をひそめた。
「・・・・・そもそもアドレスを教えた覚えのない人からメールが来たら、もっと警戒するもんでしょう? それもあんな奴からの・・・」
「だって、あいつならそんなことやりそうかな・・・て・・・今までのこと考えるとさ。巽だってそう思うだろう?」
「・・・・・」
「でもよく分かったね、亘理って」
「ちょっと思いついたんですよ。先日なんか見慣れない実験器具がありましたからね。いつも実験資金がないって騒いでいるのに妙だとは思ったんですよ」
「ふ〜ん・・・・・でもそんなにもらったのかな、あいつから」
「さあ? 金額は結局最後まで言いませんでしたからね、まったく油断も隙もありゃしない!」
吐き捨ているように言うと巽は椅子に腰を下ろす。
「これからはもっと慎重に管理しなさい。誰にでも教えるもんじゃありませんよ」
「うん・・・・気をつける」
開いていた携帯を閉じながら都筑が頷く。

詳しい操作はよく分からないため、巽に全部設定し直された携帯はもう邑輝からのメールは受けなくなった。
初めは、何で来るんだ!と慌てて消していたのだが、段々実害がないと分かるとそのままにして気にもとめなくなった。
その間3ヶ月。
受けたメールの内容には目を通していたが返事を返すこともなかったし、電話が鳴ることもなかった。
ただ
『愛している』
とか
『紫の花が目の前にあるんですよ』
とか
『あなたに触れたい』
とか・・・・・・
時々「大丈夫か、お前・・・」と返したくなるくらいの内容ではあったが、やっかいなことになるのでそんなことはしなかった。
そんなどうでもいいメールばかりの中、バレンタインの直前に来たメール、それがどうしても気になっていた。

【こんにちは、都筑さん。
あなたに最高級のチョコレートをお送りしました。それでもこの私の愛の深さを示すことにはなりませんが・・・】

都筑はあいつの送ったモノだと思いながらも、最高級というところに興味が行ってしまい、つい振り回されてしまった。あの後結局巽が高価な材料で作ってくれたトリフを食べられたから、まあ良かった。
(でもチョコを食べた後、思う存分自分がいただかれてしまったのは何とも言えないけれど・・・)


「さ、もう仕事に戻りなさい。今日残業になっても知りませんよ?」
「わ、分かった!」
慌ててドアの方向へ駆け出す都筑に、巽は苦笑する。
もう例のモノで振り回されることもないだろう。ここ数日の騒ぎを思い出しながら巽は安堵する。

今日は何のメニューにしようか・・・・
ファイルをめくりながら、少しだけ開けた窓から入る風を心地よいと感じていた。






さてその例のモノだが・・・・・・・
「おや閂さん、お菓子ですか?」
図書館の前で倶生神が若葉を見かけた。
「ええ、さっき用事で伯爵の館に行ったら貰ったのv 食べる?」
「いいんですか? 美味しそうですね、チョコですね」
「そうなの、すごい高価なんですって! さっき少し食べたけど、とろける感じが堪らないの〜」
「へえ〜どれどれ・・・・・わっ、本当に美味しい!」
「でしょ? でしょ?」
お裾分けね・・・・と手にしたチョコの3分の1程を図書館にと置いていった。



「おっ、今日はおやつがあるやないか!」
「あ、亘理さん!何してるんですか! あなたにはあげませんよ!」
「なんで?」
「あんた、いつまで本持ったままなんですか、早く返してくださいよ。そしたら一つくらい分けてあげます・・・・・・って、あれ? どうしたんですその絆創膏・・・」
倶生神は亘理の額に貼ってある大きなペケ印を指さす。
「あーこれな、これはちょっとな・・・・ぶつけてしもうて瘤がな」
「瘤?」
首をかしげる倶生神にへらへらと笑ってみせる。

・・・・くそう、巽の奴、いっつもいっつも俺に影の攻撃なんかくらわせよってからに! あいつ新技出来るたんびに俺の所へ来るやないか! いくら都筑のことをあいつに教えたからって言ったって、やり過ぎや・・・・
なかなか傷の治りが悪い額の傷をそっと押さえる。
巽の思いが込められているのか、いつものケガよりも治りが遅かった。


「どうかしたんですか?」
「あ? いやなんでもない」
「まったく亘理さんといい都筑さんといい少しは密さんを見習ってですね・・・あっ、取りすぎですよ、亘理さん!」
片手でとれるだけチョコを取った亘理が駆け出す。
「ええないか、まだまだあるんやし〜」
「よくないですよ! ちょっと、待ちなさい!」




口笛を吹きながらガラッと扉を開けると、そこには今はあまり会いたくないかもしれない人間がいた。
「あ、おかえり、亘理!」
「・・・・・なんやお前、またサボりか」
「ち、違うよ、巽のお使い」
そう言いながら都筑は机の上の書類をとんとんと叩いた。
「・・・・・そうか、ならもう分かったから帰れ」
「な、何だよ〜、その言い方!」
「・・・・・もうお前には関わらんって決めたんやから」
「へ?」
「いや・・・・・それよかはよ、用事が済んだら」
「あー何それ!」
「は?」
「これこれ!」
都筑は亘理の片手に握られたスティック状の包みに釘付けだ。
「ああ、これは今倶生神に貰った菓子や、チョコやて」
「ええええ! なんで亘理ばっかり!」
「・・・・俺ばっかりって・・・・ほら、1本やるから帰ってくれ」
「ええ〜1本?」
「・・・・じゃあ、坊の分、ほれ」
もう1本渡す。
「後5本もあるじゃん」
「あのな、俺朝ご飯も食べてないの・・・・」
「なんで?」
「身体が痛くて・・・・ってそんなことはどうでもいいんや! はよ帰ってくれ、ホントに」

しばらくは都筑に関わりたくない。彼のことに関わるとその保護者の目の色が変わる。ちょっとメールのことをばらしただけなのに、えらい剣幕でやってきて、ひどい目に遭わされた。
明日も午後は鍛錬ですよとか言って、技の相手をさせられる・・・・・赴任先を遠くに変えられるよりかはましでしょう? と笑って言われて引き受けたのだが、どっこい毎回命がけだった。

「ケチだなあ、亘理」
「何とでも言え!」
「もうっ」
都筑がぷうっと頬をふくらませて出て行くのを見送り・・・・亘理は机に突っ伏した。
・・・・何で毎回毎回俺ばっかりが酷い目にあうねん!・・・・
騒動の中心にいながらもあんなに暢気な都筑を見ていると、何だかとっても自分が哀れに思えてくる亘理だった。



「密! ほら、これ貰ったよ!」
目の前に差し出されたチョコレートに密は顔をひいた。
「これ、密の分だって」
「ああ? いいよ、お前食べても」
「え? いらないの?」
すごく高そうだよ、と言いつつも目がキラキラしている都筑に密は首を振る。
「あとで返せって言ってもないからね」
「・・・・誰が言うか、誰が」
へへっと、幸せそうに包装をとって口の中に放り込む。
「わあああ、美味しい〜!」
「そりゃ、良かったな」
恍惚としている都筑を見て溜息をついた。

「都筑さん!」
課長室の扉が開いて巽が叫ぶ。
「さっき出して貰った報告書で聞きたいことがあります」
「えー!」
「えー!じゃないですよ、全く・・・・早く来てください!」
「はーい」
もう1本を大切に机の中にしまいながら、そそくさと立ち上がる。
「密、取っちゃ駄目だよ」
「おまえ・・・・殴られたいか?」
苦笑いをした都筑が課長室へとかけだしていく。
密はまた目の前の本に意識を戻した。





こうやってようやくこのチョコは愛しい人の元へとたどり着きましたとさ。
でもそれに託された心が伝わったかどうかは・・・・・・さて?


★お疲れ様でした・・・・・・
夏を前にして終わるという・・・・・あははは;;
なんだかんだと言っても幸せそうだ・・・・この人達;;

2003・5・16
M・Hinase