月夜
| 「・・・・・なんか、久しぶりだね・・・・・」 感慨深げに呟く声に、巽は目を開けた。 秋の夜 高い空に輝く満月 横になった角度から見上げるそれには、ちょうど良い具合にススキが重なっていて、美しかった。 「今日が晴れてて良かったよ」 「そうですね・・・・」 上から降りてくる声はとても穏やかで・・・それが何よりも嬉しい。 そして頭に優しく置かれた手が温かい。 「でもさすが巽だね」 「何がです?」 「お団子。あんなに忙しかったのに、ちゃんと作っていてさ。俺びっくりちゃった」 「だって、これがないとあなたがむくれるでしょう?」 くすくす・・・・と笑う声に、都筑が少しムッとする。 「そんな、人を食い気だけみたいに・・・」 「じゃあ無くても良かったんですか?」 「え?・・・そ、そりゃああった方が・・・・・・・って、巽・・・・意地が悪い」 「そうですか?」 「そうだ」 ちょっとだけ睨み付けるように都筑が見下ろすと、巽が微笑んだ。 そして・・・・その顔を見て都筑も少し微笑んだ。 「多めに作ってあるから後でいただきましょうね」 「うん、ありがと」 そう言ってまた都筑は月へと目を戻す。 そして・・・・巽もまた月を見上げた。 「都筑さん・・・・?」 「ん?」 しばらくの沈黙の後、上を向いたまま表情の見えない都筑に巽が呼びかけた。 「何?」 「・・・・・いえ・・・・・大丈夫ですか?」 都筑がゆっくりと巽を見下ろす。 「・・・・・大丈夫だよ、1人じゃないから」 「都筑さん」 「以前は色々考えちゃって、ちょっと元気じゃなかったんだけどね」 と、笑う。 少しだけ淋しそうに・・・・。 ・・・・・知っています・・・・・ と、巽は心で呟いて手を伸ばした。 その手に都筑は頬を寄せてくる。 ひんやりとした感触が心地よかった。 あの傷つけあうことしか出来なかった頃 互いのことが愛しいのは今と変わらなかったのに、とても不器用だったあの頃 よく電気もつけない暗い部屋で都筑が1人、窓辺から空を見上げていた風景を思い出す。 部屋に訪れた客にも気づかずに、ただひたすらに見つめいていた・・・ あの時の横顔を、忘れることが出来なかった・・・・いつまでも・・・・。 「巽の手・・・・・冷たいね」 「そうですか」 「・・・・・うん」 「心が温かい人は手が冷たいんですよ」 「自分で言う?」 そしてまた・・・・・・・笑いあった。 「月が綺麗で・・・・星も見えて・・・風が心地よくって・・・・1人じゃなくて・・・・」 「お団子もあるしって?」 「巽!」 「都筑さんが・・・・っていうんじゃないですよ。お月見には大切でしょう?」 「・・・・・・・うん」 「来年も再来年もずっとずっと・・・・こうやって虫の音を聞きながら、過ごしたいですね」 「・・・・・・・うん」 「その時もまた、膝を貸してくれますか?」 「・・・・・・・うん」 「・・・・・さっきから『うん』ばっかりですね」 「だって・・・・・」 都筑が言葉に詰まる。 でも・・・・ ・・・・・他の言葉を言えば、嬉しくて泣きそうになるから・・・・ そんな言葉が聞こえた気がして、巽は微笑んだ。 夢でありませんように・・・・・ 巽はそう思い、一度目を閉じてそしてゆっくりと開いた。 そこには愛しい人の笑顔があった。 それは今夜の月にも負けない綺麗な綺麗な笑顔だった・・・・・。 この世で一番素敵な笑顔だった。 月月に 月見る月は 多けれど 月見る月は この月の月 詠み人知らず |