「ほい、これ頼むわ。」
期限を過ぎた書類を悪びれることなく机の上に置く亘理を、受話器を置きながら巽は軽く睨みつけた。
いつの間に入ってきたのか、電話の終わる頃になって気づいた。
「・・・・こういう時、何か他に言葉があるでしょう?」
「は?・・・・・あ、おめでとさん。」
その言葉に巽が目を見開く。
「・・・・なんです? それは。」
「あ、ちがった? すっかりこのことかと思って!」
へらへらと亘理が笑う。
(・・・・・聞いてたのか!)
都筑への電話の途中で部屋に入って来て、会話を盗み聞きしていたに違いない。扉の方に背を向けて話していたことは、まずかった。
この男特有の、何でもお見通しや〜という表情が無性に腹が立つ。
しかし、ここでまんまとペースにのせられる訳にはいかない。
「・・・なんのことか分かりませんが・・・・提出が遅れたら付ける言葉があるはずですが。」
眼鏡に手をあてて話す巽を、面白そうに亘理は笑っている。
「ああ、そうやな。じゃあ、遅れてすまんなあ。でも良いこともあったんやし、ここは一つ大目に見ると言うことで。」
「研究のしすぎで、何かあったとしか思えませんね、あなたの頭は。ま、いいです、いつものことです。」
会話をさっさと切り上げて、出て行けと言外に言われているようで、益々亘理には面白い。
「・・・・・で、今のお気持ちは? やっぱり幸せか?」
かっと、顔に血が上る。
「出ていってもらえますか、やることが山積みなんですが!」
つい怒鳴りそうになるのを、必死で押さえ、低い声で巽は怒りを表す。
「まあまあ、そんなに照れんでも。はいはい、出ていきますから、まったく素直やないんやから〜。ほな!」
足取りも軽く、扉を開ける。
「都筑、お大事にな!」
不意に振り向いて言った言葉に、つい巽は手近にあったファイルを投げつけてしまった。
一瞬早くしまった扉にバサッと当たる。
「まったく、なんですか、あの人は!」
誰もいない部屋で文句を言う。
遅かれ早かれこういうことにもすぐ気づくのは、あの男だと思ってはいたが、まさか翌日に知られるとは・・・、幸せな気分でつい油断してしまった。
これからも気を付けないと・・・・あの人にもそれとなく言っておかないといけませんね・・・・。

自分が投げつけて散ったファイルを拾いながら、溜息をつく巽であった。





「やっぱ、そうか。」
思いっきり物が扉に当たる音を、背中で聞きながら亘理は呟いた。
朝礼でまだ来ていない都筑を
『都筑さんは今日休みますから。』
と言った瞬間から、亘理はピンと来た。
いつもはいらだちや諦めなどを含むそのセリフが、どことなく丸く聞こえた・・・ただそれだけ。でも表情も微妙に柔らかくて・・・・何かある! そう思ったのだ。

ふたりの屈折した想いは、ずっと見てきた・・・・だからそれが一歩前進できたのならそれはそれで良いとは思う。
ただ、あわよくば・・・!と思っていたことは実現が遠くなった。
それも確か。

「まあ、仕方ないなあ。・・・・こうなったら別の面で楽しんで、それから稼がせてもらいましょうか!」
切り替えが早いのが長所だ!
これからはこれをネタに都筑を突っつけるし、巽に揺さぶりをかけることも可能だ!
「さあ、忙しくなるで〜!」
まずは盗聴か、それとも盗撮・・・・?
亘理は実行に移すべく、部屋を駆けだしていった。






その頃巽の家では・・・・。
「・・・・? どうしたんだろう、急いで切ったような・・・・ま、いいか。」
子機をベッドの脇に戻しながら、都筑は体の向きを変えた。
「あたっ・・・・痛いなあ、まだ。」
寝たまま腰をさする。
昨夜から今朝にかけての行為を思えば無理もないような気がするが、こんなに身体に負担になるとは思わなかった。
あまりのことに巽も心配して、残り少ない有給を使うように、と一人で出勤していった。
今の電話でも都筑を気にしてかけてきたもの。どうやら夕飯も作ってもらえそうだから、それはいいのだけど・・・。
ふと色んなことを思い出して、顔が熱くなった。
「ダメだ、ダメ、寝よう。今日は数少ない貴重な日だ!」
巽公認で休める日なんてこれからもそうないだろう。
都筑は大あくびをして、布団に潜り込む。
「何作ってくれるかな・・・・。」
あれやこれや・・・夕飯のことを考えながら都筑は夢の世界へと旅立っていき・・・・。


これから数々の小さな攻防が始まることなど思いつくはずもなく・・・・。
でもそれはそれで、幸せな日々の始まり。

2002・9・18
M・Hinase

★一応「ふたりのぬくもり」の後日談として・・・;
亘理は見逃しません、このふたりの変化を!(笑)
そしてこれから数々の騒動が起こるわけで・・・・v
頑張れ、わたりん!
激写だ! そしてそれを私におくれv

・・・・・・ということで蛇足のようなSSを書いて、申し訳ないですぅ(>_<)。