向日葵の色の中で






「ちょっと・・・・・ねえ巽ったら!」
もう何回呼びかけたのか、都筑はすたすたと自分のペースで先を歩く巽に声をかける。
足元は水はけのためか少し深めに掘り下げた溝や狩ったばかりの茎が残っていて歩きにくい。
時々それらに足を取られながらも、都筑は巽の後ろをついて行かねばならなかった。
なぜならば、巽の手は都筑の手をしっかりと握っていて離さなかったからだ。





久しぶりの休日。
空調の効いた心地よい部屋で布団の中にいた都筑は、突然布団をはぎ取られて起こされてしまった。
うっすらと開けた目には布団を持って、にっこり笑う巽がいて。
あまりにも巽がにっこりしているので、何がなんだか分からないまま都筑もぼんやりと微笑んで・・・・。
寝ぼけたまま壁の時計を見てみると、まだ朝の6時!
「なんだよもう〜まだ早いじゃん!・・・・寝る。」
そう言い放ってまたベッドに倒れ込もうとしたところを邪魔され、服を押しつけられて・・・・。
気づいた時には玄関で靴を履いていた。
「何処に行くの?」
と尋ねても、にっこり微笑んだままほとんど喋らずに、車でここまでやってきたのだった。


車中でも半分寝かかっていた都筑だが、
「着きましたよ!」
と起こされて見たものは・・・・・・黄色、黄色、黄色の向日葵の花畑だった。
車を寄せた所から、黄色の色が判別できなくなりそうなくらいまでの遠くまで向日葵がぎっしりと植えられていたのだった。





「わ、あわわわ・・・」
溝に落ちそうになり、都筑はひっきりなしに声をあげる。
目の高さより高い花々に目を向けてたいのに、その間もなく顔の横を花が過ぎていく。
どうしてこんな歩きにくい道を普通に巽が歩けるのか分からない。
都筑は巽の背中を見つめた。
普段よりも多少無口だが、不機嫌ではないようだ。その証拠にあんな笑顔で起こされたのだから。

でも、一体何なんだ・・・・・




休日、それもお盆休み返上で出勤してきてようやく取れた貴重な日。
それなのに、昨日はさっさと一人で休んでしまった巽。
少しばかり肩すかしをくらった都筑は、ちょっとだけお酒を飲んで巽の横に潜り込んで・・・・で、今日の事態である。
巽が何を考えて此処に自分を連れてきたのか、その行動の意味が皆目見当のつかない都筑だった。




「ここら辺で良いでしょうかね。」
どれぐらい歩いたのか、もう巽の足元を目で追うだけになっていた都筑がその声に顔を上げた。
やっと立ち止まった巽は周りを見渡している。
それを見て都筑も来た道を振り返る。
少しだけ曲がった道は途中から花々の中に埋もれてしまい、まるで突然向日葵畑の真ん中に空から2人で降り立ったようだった。
それぐらい奥まで来ていた。
朝早いせいか人の姿はなかった。


「ねえ、一体な・・・」
再び巽の方を向いた都筑は、近づいてきた巽の顔に目を見開いた。
「えっ、たつ・・・」
後の言葉は巽の唇に吸い取られてしまった。
そっと手が都筑の頭と腰に回される。
急なことに驚いてしまった都筑の口は巽のぬくもりを容易に受け入れることに・・・・。


心の中で溜息をつきながら、観念して目を瞑り、都筑が巽の背中に手を廻すと、ぎゅっと力を込められた。





「・・・・で、なに?」
身体中の力が抜けそうになるのを巽に支えられながら都筑が呟く。
与えられた口づけはいつもよりもずっと深くて・・・・。
「昨日帰り道でこの向日葵畑を見かけてから、この中でこうしたくて仕方なかったんですよ。」
陽のあたる光と花の中で抱きしめたかった・・・。
「此処でキスを?」
「そう。」
「・・・・にしては強引じゃないの? 何も言わないしさ。」
巽は都筑の頬に手を添えた。
「そうですね・・・すみません。でも朝早く来ないと・・・ほら。」
と、遠く車を寄せた所を見る。
「祭りは明日からですが、やはり人出はありますからね。」
「人出ねえ・・・・。」
ちらほらとカップルの姿らしきものも小さく見える。


少しだけ強く吹いた風が黄色の波を揺らした。
目を細めてしばらく向日葵を見ていた都筑だったが、悪戯っ子のように笑って巽の目を見る。
「いいの・・・? 一度だけで?」
「えっ?」
「・・・・・・もう一度しよう。」
足りないでしょ? と首を傾げられれば、もう巽にはお手上げだ。
「・・・・そうですね、じゃあ・・・。」
くすっと笑って都筑を見つめると、巽はまた都筑の体を抱き寄せた。
少しだけ周りよりも背丈の高い向日葵が2人を隠してくれるだろう。



もう少し、もう少しだけ・・・・・



揺れる 揺れる 黄色の波に 
このまま いつまでも 
目を閉じても感じる陽の光に包まれていたい・・・・




そっと耳元に囁かれた言葉に都筑は幸せそうに微笑むながら、ゆっくりと目を瞑った。


2002・8・15
M・Hinase

★夏企画の舞る〜むバージョンですv
なんとまたネタが向日葵! でも密都とは少しだけ視点を変えたつもりですが・・・・・どうでしょうか?(汗;)
せっかくの休日に何をするのかと思えば・・・・巽ったら。

遠くまで続く向日葵畑を見てきた後なので書きたかったのです。2人にはその中でいちゃいちゃして貰いましょうね〜(*^_^*)。