風鈴
| ちりりん・・・・ かすかな音に雑誌から顔を上げた都筑は窓辺にかかった風鈴を見つけた。 ・・・・あれ? こんなところに風鈴なんてあったけ?・・・・ 此処へはしょっちゅう来ているが気がついたのは今が初めて。 今日は仕事が早めに終わって3日ぶりにやってきた。 でも此処の主は留守をしていて・・・仕方なく持ち込ん菓子を食べながら待つことにしたのだ。 ・・・・でもなんだか不格好な風鈴・・・・ 綺麗な丸でなくて少し形も歪んでいるようだ。そのためか綺麗な音色 が出ない。 ちりりん・・・・ 都筑の気持ちに反論するように風鈴が音を立てる。 見ていると思わず笑ってしまう。 「くすくす・・・・変な風鈴。」 都筑は雑誌を閉じて、窓辺の風に揺れる風鈴を見つめていた。 「悪かったな、変な風鈴で。」 「あ、亘理!」 振り返ると扉を開けて本を何冊か抱え込んだ白衣姿があった。 足で扉を閉めて、入ってきた亘理はドサッと机の上に本の山を置いた。 「図書館行ってたの?」 「ああ、ちょっと調べものあってな。倶生神がなかなか本を貸そうとせんから時間かかったわ。」 「亘理が借りた本返さないからだよ〜。」 可笑しそうに笑う都筑を、ムッと睨みつける。 「もう何回も図書館壊しとるおまえに言われたくはないなあ。」 「あれは不可抗力だもん。」 慌てたように都筑が言う。この話題を振るのは自分の首を絞めることになりそうだ。 「・・・・・へいへい、そうですねえ。」 ムキになる都筑に苦笑しつつ亘理はそう答えながら、窓辺に近寄った。 そして風鈴を指でそっと弾く。 ちりりん・・・・ また小さな音が鳴った。 「ねえ、その風鈴どうしたの? 前なかったよね? 買ったの?」 「・・・・おまえこれ、売ってると思う?」 亘理は風鈴を外して都筑の目の前に持ってきた。 「?」 「ほら、よお〜見てみい。」 ずずっと近づけられた風鈴に都筑はのけぞる。 丸になりきれていないガラスになにやら絵が描いてある。 「え? なにこれ・・・・」 そこに描かれていたのはお銚と徳利。 わたりへ・・・・の文字と○に「つ」・・・・。 「これって・・・・もしかして・・・」 俺?・・・と、都筑は自分を指さす。 そう、とにっこり亘理が微笑む。 「忘れとったやろ?」 そういえば・・・・どれくらい前だろう。目の前で揺れる風鈴が時を遡らせる。 飲みに出掛けた帰り、不良品で処分されそうになっていたこの風鈴を見つけ・・・酔った勢いで落書きをして・・・・・ 「あはは・・・」 その後亘理の家に押しかけて売りつけた事を思い出す、薄い薄い記憶だけど・・・。 「ず、随分昔のだと・・・?」 あはは、と笑いながら都筑が亘理を見上げる。 「そうやなあ〜かれこれ10年? 思い出しましたか、都筑はん?」 「はい・・・・・。」 ただで手に入れたものに値段を付けて売りつけた記憶がある。このことも亘理は気づいているだろうし、覚えてもいるのだろう。 「なんといってもおまえのサイン入りやからなあ〜大切にさせていただいております。」 にやっと笑って、亘理は都筑の目の前から風鈴を持ち上げる。 「そ、それはどうも・・・。」 何とも答えようがない。 でも・・・・そんな昔のものを、都筑さえ忘れていたものを亘理がいまだに持っていたことが、都筑にはちょっぴり不思議な気もした。 元の場所へと風鈴を戻す亘理の背中を見つめる。 「あ、そうや! おまえ、巽が探しとったわ。」 「え? 巽が?」 「なんか・・・・そうそう会議がどうとか・・・」 「あ、しまった! 忘れてた!」 朝、密に言われていた事を思い出す。今度の仕事についての打ち合わせがあったのだ。 「ま、まずい〜。」 「はよ行きや、巽、すごく怒ってたわ!」 「ま、まじで?」 あわわ・・・と、都筑が席を立つ。広げていた菓子や雑誌を抱え上げる。 その様子を亘理は面白そうに眺めていた。 遅刻をしそうになっている小学生のようで・・・・。 「じゃあ、またね!」 「おう。」 タタタッ・・・。 戸口のとこまで駆けていった都筑が不意に立ち止まる。 「?」 「亘理・・・・・サンキュ。」 少しだけ俯きながらそれだけ言うと、バタンと勢いよくドアが閉まった。 ・・・思わぬセリフに目を丸くしていた亘理は、やがてゆっくりと微笑んだ。 そして動きの止まった風鈴を指で再び弾いた。 愛しくて・・・愛しくて手放せなかった物。 形が不格好でも、奏でる音が多少可笑しくても亘理にとっては何よりも美しく思える。 いつも、都筑の姿が見られない時に窓辺に掛けていた。その音色を楽しむために。 「俺だと思って大切にしろよ!」 あの日酔っぱらった都筑が言った言葉。当の本人は忘れているかも知れないけれど・・・・。 「大切なものやからな・・・。」 小さく呟く。 見上げた空は青空だ。 「さて、仕事でもしますか。」 ちりりん・・・・ 風が風鈴を揺らした・・・・・秋ももうすぐ。 |
2002・8・30
M・Hinase
| ★夏企画、亘都です。 そう見えなくても亘都です; 私の書くこのCPは基本的には(過去形だったり、現在進行形だったりと色々ですが、・・・)巽都が根底にあります。その上でのこのふたりの関係、ってことで。 夏も終わろうとするこの時期に駆け込みUPとなりました。お待たせしました(誰も待っとらんって)v |