ひまわりの笑顔
| 「あ、密・・・その・・・」 朝、珍しく早く出勤してきた都筑が部屋に入ってきた密を見た途端立ち上がった。 その声に顔を上げた密は無表情のまま都筑を見て、そして向きを変える。 「ま、待ってよ、密!」 バンっ! 慌てて密を追った都筑の鼻先で勢いよくドアが閉められた。 あまりのことに思わず目を瞑った都筑はドアを見つめて溜息をつく。 「な、なんや? 今の?」 巽と仕事の打ち合わせをしていた亘理が呟く。 「・・・・さあ。ま、どうせ都筑さんがまた黒崎君を怒らせるようなことしたんでしょう。」 「よくもまあ、同じ事ばかり繰り返すなあ〜あいつも。」 「学習能力が欠けていますからね。」 ・・・という会話が繰り広げられていることなど知らずに、都筑はしばらくその場に佇んでいた。 しかし何を思ったのか、部屋を出て行ってしまった。 「・・・またさぼりですかね。」 巽が首を振る。 「お前、慰めたら?」 「やですよ、そんな役回りは。・・・・・二人のことは二人で解決していただかないと。」 「よ、大人の意見やん!」 亘理がにやりと笑う。 「大人でしょうが!・・・・ほら、さっきの続きですよ。」 「へいへい。」 ・・・・あ、いた・・・・ 屋上の一角、いつもの場所に密が寝ころぶ姿を見つけた都筑は息をつく。 少し考えて後を追ったため姿を見失って、探してようやく此処を思いついた。 時々密が昼寝をするこの場所は、屋上でも端っこにあるためにあまり人も来ない。 日陰になっていて夏の間でも1日中ひんやりする。 『この場所が好きだ』 と以前、密が言っていたことを思い出したのだ。 「密。」 都筑が呼びかけながら近づいていくと、密は仰向けになっていた身体を反対方向に向けた。 「密・・・・・あの・・・」 そう言いながら横に腰を下ろす。 横を向いたまま目を瞑った密は何も話さない。 その横顔をちらっと見ながらぽつりぽつりと都筑が話しだした。 「ねえ、密・・・・その・・・怒っているんだよね?」 「・・・・・」 「昨日、わざわざ来てくれてありがとう、スイカ・・・美味しかったよ。」 「・・・・・」 遠くで蝉の声が聞こえる。 朝から気温がぐんぐん上がった日曜日の昨日。 食べたい、食べたいと言い続けていた都筑のために、密はスイカを手土産に都筑の家へと向かった。 甘やかすのではない、自分も食べたいのだから・・・と自分を納得させながら少し大きめの玉を選んだ。 アパートに着くと、密は庭の中で麦わら帽子が揺れているのに気づく。 どうやら都筑が植えた花々の手入れをしているようだ。 休みの度に手を入れてきた庭は連日の暑さにも関わらず見事なまでに綺麗な花を咲かしていた。 。 庭仕事をしていた都筑は密の姿を見ると、嬉しそうに笑い、手招きをする。 「おはよう、密。来てくれたんだ!」 「ああ。」 「今日も暑くなりそうだね。あ、そうだ! 密に見せたいものがあるんだけど・・・来て!」 そう言うと、都筑は早足でアパートの裏に回り込んでいく。 誘われるままに密も裏に回ると、そこには黄色いひまわりが一斉にこちらを向いていて・・・。 「すごい・・・」 思わず呟いた言葉に都筑がまた微笑む。 「2,3日前から咲き出したんだよ。綺麗でしょう?」 「ああ・・・。」 「密に見せたくて、電話しようと思ったんだよ。」 それは本当に見事で・・・。密は目の前に広がる黄色の絨毯に目を細めた。 ぼんやりひまわりを眺めていると、突然都筑に手を掴まれた。 「何だよ!」 来て、と都筑は密の手を引っ張って、群の中でもひときわ背の高いひまわりの所へと連れて行く。 「おい、都筑!」 「いいから、いいから。そこに並んで・・・・あ、ほら、やっぱりそうだ。」 「何が?」 「ん? ほら、ひまわりの方が大きいでしょう。これ亘理からもらった種だったんだけど、 あいつがさあこれはミニひまわりだ、とか言い張っちゃってさ。で、半信半疑で育ててみたらこのとおりだろ? こんなにでかくなって。だから証拠写真でも撮っておこうかなとか・・・」 都筑の言葉で密はひまわりを見上げる。 自分よりは20cm以上も高いひまわりは心なしか密を見下ろしているような感じで・・・。 都筑の方に目を向けるといつの間に持ってきたのか、カメラを手にしていた。 ・・・・あいつ!・・・・ それを見た途端、密は急に腹が立ってきた。 カメラを手にまだ亘理がどうとか・・・とか話している。 「このぉ、馬鹿野郎!」 そう怒鳴ると密は持っていたスイカを都筑の方へと投げつけた。 「わっ!」 咄嗟に受け止めた都筑だが、何がなんだか分からない。 「危ないじゃないか密!・・・・・・ってどうしたの?」 密は怒ったような顔で都筑を睨みつけ、そして走り出した。 「ちょっと、密、密ったら!」 投げつけられたスイカを手に都筑は大声で叫んだが、密は振り向くこともなく帰っていたのだった。 「ねえ、密ったら!」 「うるさい・・・・あっち行ってろ。」 「何で怒ってるの? ひまわり・・・気に入らなかった?」 「・・・・・・」 「俺なんか悪いこと・・・」 「・・・・・・」 「密・・・言ってくれないと分からないよ?」 泣きそうになっている声が鬱陶しい。密は大きく溜息をつく。 「密・・・」 不機嫌の理由を聞くまでは立ち去らない様子に密は目を開けた。 風に乗って流れていく雲が見えた。 どのくらいの時間が経ったのか密は体を起こす。 「密!」 リアクションがあったことが嬉しいのか都筑の声が少し元気になる。 振り向くと目をうるうるさせながらも少し笑っている顔があった。 あれば絶対尻尾でも振ってそうな都筑の様子にもう一度大きな溜息をついた。 「・・・・・・やなんだよ。」 「え?!」 「背・・・・・おまえ、ひまわりと比べただろう。」 「え? あ、うん・・・・・。でもあれは・・・」 「ああいうのやなんだよ。」 「えっと・・・・その・・・・うん、ごめん。」 目を合わそうとしない密の顔を見ながら、都筑は普段から密が体の事を気にしていることを思い出した。 昨日ひまわりの横に立たせたことは、都筑としてはそんなつもりはまったくなかったのだけど、 でもそのことを気にしている密には無神経だったのかもしれない・・・・。 「ごめんね、密。」 「・・・・・もう、いい。いつものとこだし。」 諦めたように空を仰ぎ見る横顔を都筑は見つめた。 上手く伝えられないかもしれない・・・・でもどうしても伝えなくてはいけない、そう思った。 「密。」 「何だよ。」 「あのね・・・・いつもいつも密が俺を支えてくれるから・・・そんな風に思ったことはないよ。」 真っ直ぐに見つめてくる目を密は見返す。 「俺を包み込んでくれてるもん、密は。大きく・・・・広く・・・・だから・・・」 「・・・・・」 「昨日のことは本当にごめんね。そんなつもりはなくて、ただ単に写真を撮りたいとかも思っていて・・・・でも本当にごめん・・・・。」 ほら、俺密の写真とか持ってないから・・・・と言葉を繋げる。 密の目を見つめて話してくる都筑は一生懸命で。 まだまだ言葉が足らないような気がするけど、都筑の言いたいことが何となく・・・分かったような気がした。 「・・・・分かった。」 仕方ない・・・・そんな気分だ。いつもと同じパターンの様な気もする。 「本当? 密。」 「ああ。」 泣きそうになっていた都筑の顔がパッと綻ぶ。 密の大好きな笑顔。 結局この笑顔に負けているのかも知れない。 仲直りのキスを交わして立ち上がる。 そろそろ仕事に戻らないと今日も残業になるかもしれない。たぶん戻れば2人揃って小言の嵐だろう。 「都筑。」 照れくさそうに先を歩く背中に密が声をかける。 「ん?」 都筑が振り向く。 「今日・・・・また見に行って良いか?・・・・ひまわり。」 「・・・うん!勿論!」 一瞬驚いてまた花のように笑う都筑を見つめる。 「あ・・・・」 「何?」 立ち止まった密に都筑が近寄ってくる。 密は手招きをして少し頭を下げさせた。 「今度は2人で一緒に写ろうか?」 ひまわりと一緒に・・・・。 ・・・・・そっと耳元で囁かれた密の言葉に都筑は小さく頷いた。 |
2002・8・2
M・Hinase
| ★夏企画第一弾としての密都です。 本当は別に部屋を作っていたのですが、個別にUPすることにしました。 まず最初の題材は「ひまわり」。さりげなくスイカもありますが; 相変わらず都密でも良さそうですが、あくまでも密都ですよ(笑)。 ・・・・でもスイカ、一人で食べちゃったんでしょうか、都筑さん。 |