いつもと違ういつもの朝
薄く焼き色の付いたトーストを皿に載せ テーブルに付くと 珈琲のいい香りが部屋中に満ちてくる。 いつもと変わらない朝。 密はマグカップに入れた珈琲に口を付けながら テーブルの上に置いてある小さなカレンダーを見た。 今日18日、その数字に思いっきり赤ペンで花丸をつけ その下には『密の誕生日!』と 前後の数字が見えなくなるくらいの大きな字で書き込んである。 もちろん書いたのは都筑。 何ヶ月も前からうるさいぐらいに騒いで 楽しそうにカレンダーに書き込んでいた姿を思い浮かべる。 ・・・まったく、どっちが年上なんだか・・・・ 溜息と同時に、少しだけ口元が緩むのを感じる。 この珈琲だって都筑が置いていったもの。 本当は食が細くて朝ご飯も食べないことが多かった密だが 「食べなきゃだめだよ!」と 押しつけられた。 美味しい珈琲を飲めば胃腸がよく働くようになるからとか何とか・・・ 訳の分かったようなそうでないような理由で密に持たせた。 自分が飲むこともあるから・・・と言われたけど 都筑は珈琲はブラックで飲めない。 ミルクも砂糖も山のように入れる。 その量に目を見開いた密に 「やっぱいい香りの珈琲は違うね!」 とか宣う。 そんなに色んなもの入れたらどの珈琲でもいいんじゃないかと密は思うけれど。 でも・・・・ こうやってその珈琲を飲みながら朝食をとることが多くなったのは事実。 『俺の言ったとおりでしょ』 得意満面な顔が浮かんできそうで 「バカ・・・・」 密はそっと呟いた。 「おはよー密!」 都筑がインターフォンを押すと同時に鍵を開けて入ってきた。 「あ、この香り・・・・よしよし今日もしっかり食べたんだね。」 部屋にこもる残り香に都筑は満足そうに頷く。 「今日は早いな、雨でも降るんじゃないか?」 上着を引っかけながら密はからかう。 いつもはモーニングコールを入れてもすぐに起きないくせに。 「今日は特別だよ!」 自分の書き込んだカレンダーを手にして都筑が振り返る。 「大切な日だもん。」 正面きって言われると、どんな反応をしていいか分からずぷいっと目を逸らす。 きっと顔は真っ赤になっているのは確実だ。 「俺も飲もうっかなあ〜」 テーブルの上に肘をついた都筑が、密の飲んだ後のまだ熱の残るカップを持ち上げて笑う。 「・・・・食べてないのか?」 「え!? あ、うん・・・・。」 「ああ?」 えへへ・・・と笑う顔に密は思わず声を上げる。 人には朝は食べないと・・・とあんなに煩かったのに。 「おまえは・・・・」 「ご、ごめん。早く起きて出てくるので今日は精一杯だったんだよ。朝ご飯食べてたら間に合わないと思ったし・・・・。」 「間に合わない?」 ゴホンっ・・・と咳払いを一つして都筑が密の方に向き直る。 「密、お誕生日おめでとう!」 「あ、・・・・ありがと・・・・」 急に真面目な顔をして向かい合った都筑に口ごもりながら答える。 「今日はどうしても、誰よりも先に密に伝えたかったから・・・・」 にこっと笑うその顔は妙に幼くて、それでいて年上の余裕を見せていて。 その顔を見ていると胸の中に何とも言えない温かさが溢れてきた。 「都筑・・・・」 それは密自身にも予想できなかった行動。 椅子に座った都筑の頭を自分の胸に抱え込む。 「ひそか・・・・?」 戸惑いながらも密がするにまかせる。 いつもはバタバタした騒がしい朝なのに 今、この瞬間だけは時間が止まったように静かで・・・・ 「ありがとう。」 小さく小さく囁かれた言葉も都筑にはしっかり届いて・・・・ 「うん・・・・・・」 二人の心音がとても近くに聞こえる。 一年、一年。 冥府に来てからの歳月の方が生きていた頃よりも 確実に刻み込まれる。 これからも都筑が側にいる限り きっと自分は幸せな気分でこの日を迎えられるだろう。 「都筑・・・」 密の声に顔を上げた都筑の顎に手を添える。 「ん・・・」 ゆっくりと目を閉じる都筑に顔を近づける。 お互いの気持ちを伝え合うように 喜びの日を分かち合うように ぬくもりを与える。 そっと離した唇。 目を開けた都筑が眉をひそめる。 「ひそか・・・苦い・・・」 色気のない言葉に、小さく息を吐く。 「・・・・ブラックにもいい加減慣れろよ・・・バカ・・・・」 見つめ合う顔に笑みがこぼれる。 「ん・・・・密の味だもんね・・・・」 そして、また 二人の顔が近づいていく・・・・。 いつもと違う甘い朝が始まる。 〜Happy Birthday to Hisoka〜 |
2001・10・18
M・Hinase
| ★おめでとう!密vということで・・・・お誕生日SSでございます。こんなに甘い(当サイト基準・・・)密都を書いたのは初めてです。いかがでしょうか? いつも巽や邑輝が占めている席を密に与えてみましたv 密がブラック珈琲を好むかどうかは不明ですが、甘いのが苦手・・・ということで こういう設定にしてみました。密都も楽しいv しっかし、遅刻は確実ですね・・・・この二人(笑)♪ |