花火




「ねえ〜やろうよーひそかぁ〜せっかく買ってきたんだから!」
「誰も頼んでないだろ。」
「ね、ね、ほら綺麗だよ、きっと。」
「うるさいっ。」
夜、明かりのついた召還課の部屋でもう30分以上も繰り返される会話。
密は読んでいた本から顔を上げ目の前で花火の袋を振り回す都筑を睨んだ。
・・・・もう時計は9時を回っている。
「おまえ・・・・俺が何のために、誰のためにこんな時間までここにいるのか分かってんだろうなあ。」
「えっと、俺の明日提出期限の書類作成の為♪」ちっとも悪びれず答える都筑。
「それならさっさと仕上げろ!一体何時間かかっているんだ!2時間以上もかけてまだ半分も書いてないじゃないか。」
ばーんと机の上の書類を叩く。
「えー?! もう半分も書いたんだよお。今日はこれで終わり!」と言うと、
トントンと書類を片付けはじめる。
「おい、こら何が終わりだ、勝手に決めんな! 明日が期限なんだぞ、
おまえに出させるって巽さんに言った俺の立場も考えろ!」
「大丈夫だって、俺から巽に言っておくからさ。」と他人事にように言う。

朝、いつものように小言を言われて涙ぐんでいる都筑に何となく出した仏心。
『俺が責任もって明日出させます!』・・・・何であんな事言ったんだか・・・・・。
それを聞いた時の巽の憐れむような何とも言えない表情を思い出す。
「ああ、俺がバカだった・・・・」1枚仕上げるのにこんなにかかるとは。
「え?何々?何か言った密?」
抱え込んでいた頭をゆっくり上げると、大きな目をくるくるさせてのぞき込んでいる瞳と出会う。
「・・・・・おまえはバカだと言ったんだ。」
ひどいよーと声を上げる都筑の頭をこづく。目にいっぱい涙をためて見てくる。
(幾つだ?おまえは!)自分を含めてこの部屋の多くの者がこの表情に翻弄されている。
本人に自覚がないので尚更始末が悪い。
「・・・・・・・じゃあ、少しだけ花火したらまた仕事やるか?」今出来るギリギリの譲歩。
「花火の後で? えーそれはちょっとイヤかなぁ。」
「それが嫌なら俺は帰る!」スッと席を立つ。
「ああ、待ってよ!・・・・うーん分かったよ、やる、やります。」妥協策が決まった。



いい場所があるんだ・・・と都筑に連れてこられた所は屋上。
「いいのか?ここでやっても。」
「かまわないよ。俺ここで良くよくやったもん。」
はいっと火のつけた花火を都筑から渡され大人しく持つ。次々と変わっていく火を眺める。
黄色・・・・緑・・・・青・・・・。
「綺麗だね、密。」声をかけられ都筑を見るとにっこり笑う。
「ああ」急に照れくさくなり、あわてて花火へと目を戻す。
最後に花火をしたのは何時の事だろう・・・ふとそんなことを思う。思い出せないくらい幼い頃なのか、一度もなかったのか・・・・何処の家でも見られるような、こんな光景さえも自分は思い出として持っていないことに、悲しくなる。
「・・・つづき・・・・」
「ん? 何?」
「・・・・いや、何でもない。」何を彼に言おうとしたのか・・・・。
そんな密を見つめていた都筑は、次の花火に火をつけた。
「ねえ、密。今度みんなで花火大会しようよ!もっと広いところでどーんと大きなの上げてさ。
あ、ビールもいいねえ〜花火を見ながらかぁーっと飲みたいな!」
「・・・・・それはいいけど、費用はどうするんだ? 言い出しっぺが出せって言われるぞ!」
「うっ、それはやめて欲しいなあ・・・・そうだ、会費制だよ、会費制!うんそれがいい!」
明日にでもみんなに相談してみようねっと、笑った。
・・・・何、一人で決めてるんだか・・・・でも、それも、いいかもな・・・・密は空を見上げた。
満天の星が降ってくるようだ。
「・・・・サンキュ・・・・」小さく呟く。・・・・ここに居場所があることが嬉しい。

「ほら、もういいだろう! 片付けて戻るぞ!」
「そんなあ、もう少しやっていこうよ!」
次はどれにしようかと袋をゴソゴソしていた都筑は密を見上げた。
「だ〜めだ!仕事に戻るんだ!」ほらっと都筑の襟首を持って引きずる。花火大会をするためにも今は都筑に書類を片付けてもらわなくては!


こうやって此処で季節を紡いでいくのだろう。これから先も・・・・・例えそれが仮初めでも自分が存在できる場所ならば、・・・・それは大切なところだから。

2001・8・2
M・Hinase

★夏祭り企画もの第1作。密&都です。恋愛感情ではなく・・・友人以上恋人未満のような、家族のような・・・そんな関係。
 (結局何のこっちゃ?)