昼下がり・・・
ぼんやりとすることが多くなった都筑の様子を遠くから巽は見つめていた。
誰もいない部屋、窓辺に椅子を寄せ外を眺めている姿は前とは変わらない。
でもその横顔は何処か嬉しそうで。
そう・・・普段自分たちに接している時には何処か居心地の悪そうな表情をすることが多くなったのに時折ああやって、1人の時にしか見せない表情・・・それは巽には少しだけ眩しかった。

あの日・・・そうあのクリスマスの日何かがあったのだと・・・

・・・何か・・・?・・・・

ふっと巽は苦笑する。
何があったのかなんて一目瞭然だった。
きっと都筑は・・・いや、あの2人は・・・越えたのだと。
そしてそれが2人の思いの結果だと言うことも分かっていた。
都筑は何も言わないし、巽も何も聞かないけれど・・・。




年末から年明けのイベントや業務の慌ただしさも一息ついた1月中旬。
勘の良い密や亘理も都筑の様子に気付いていた。
でもそれが良い選択なのか悪い選択なのかは分からないまま日々は過ぎていた。
変わったことは特にない。
そう表だっては・・・。
でも普段から都筑を見ているものならその微妙な変化を見て取ることが出来た。

前にもましてぼんやりとすることが多くなった。
声をかけると、はっと戻るけど・・・何かを言いたそうな顔をする。
その様子に密がイラだって怒鳴りつけても暖簾に腕推し状態で・・・。

そして週末、必ず地上に向かう。
それはもう周囲の者なら何処に・・・と聞くまでもないこと。
それに伴い週明けの遅刻が無くなった・・・これは多くの職員は驚きを隠せなかったこと。
地上から直接出勤しているらしいのだ。
生活が安定しているということなのか・・・。



・・・・良い方向に向かっているのかもしれない・・・・
そうは思う。
巽にもそれは分かっていた。
でも頭では分かっていても、感情がついていかない。
今まで何だかんだといいながら守ってきたもの・・・それが今、手を離れようとしている痛みは説明のしようがなかった。

一度・・・亘理に詰め寄られたことがあった。
お前はどう考えているのかと・・・お前の希望は何だ、と・・・
そんなことは彼に問われるまでもなく散々自問自答して来たことだった。
都筑が邑輝と出会い、そして頻繁に連絡を取り合うようになってからずっと・・・。
でも未だに掴めない・・・・そんなやっかいな感情に支配されてしまう。
都筑が迷っている事は知っている、周囲への・・・特に自分への思いが彼をそうさせていることも・・・。
でもそれを解決してあげることが出来ないまま時間は経っていた。






「何、ぼお〜っとしてるんですか」
少し迷って、声をかけた。
その声に都筑が降り向く。
「あ、ごめん・・・」
「先週渡した書類、今日が期限ですけど?」
「あ、そうだった・・・」
うっかりしていた、という表情で自分の机の方を見ている。
その都筑を巽は上から見ていた。
「あのさ・・・・」
「・・・はい?」
「・・・・うん・・・・ううん、いいや」
へらっと笑って都筑が立ち上がる。
巽も何もそれ以上は聞き出さない・・・・彼が何を言いたいのか、そして何を伝えたいのかが分かるだけに・・・・聞けなかった。
「今からするね」
「そうですね、お願いします」
溜息混じりにそう言うと、やはり何か言いたそうに目を泳がせる・・・。
こっちから話を振ってやればいいのだが、そんなことはしたくもないし、ましてや職場で・・・というのは避けたかった。
でも・・・・このままではいつまで経っても・・・という思いもあるにはある。



「今晩、食事へ来ませんか?」
机の方へ行きかけた都筑の背中に巽はそう言った。それだけで今は精一杯だ。
「え?」
驚いたように都筑が振り向く。
「もし・・・良ければですけど」
「・・・・いいの?」

週半ば、給料日前の都筑にとっては何よりも嬉しい言葉だ。それに年末からずっと巽の食事にはありつけなかった。多忙なのもあったが何よりも・・・そういう雰囲気ではなかったから・・・。
都筑にしてもなかなか話す機会がないままに今に至っていることが辛かった。
何とかしなくては・・・その思いだけが空回りする。
話さなければ・・・言葉にしなければ何も変わらない事は十分わかっているつもりだった。
でもいざ顔を見てしまうと何も言えなくなって・・・・このままでは何もならないのに・・・・。

巽が小さく頷くと、都筑は微笑んだ。
「じゃあ、行く」
微笑みながら、今夜しかないと心に決めた都筑は机に向かった
そして巽もまた心の準備をしたのだった。






「ごちそうさま」
都筑はパンっと手を合わせた。目の前の皿は見事に空になっていた。
「もういいですか?」
それでもいつもに比べれば少ない気がした巽はお茶を出しながら確認をとる。
「うん・・・ありがとう」
そう言って湯飲みを口に運んだ。

食事の間は料理のこと、味のこと・・・何とか話題を繋げることが出来るが、終わってしまうと変な沈黙がやってきた。
喧嘩をしている訳ではない・・・けれどいつものように・・・そうあの夜の前までのようには会話は弾まなかった。


それでも自分の方から・・・と都筑は顔を上げた。
目の前には少し顔を伏せ気味にしている巽がいて・・・・それを見るとやっぱり言葉が出て来ない。
何がどうであろうと彼は今の状況をけして良しとは思っていない。それは今までの経緯から見て確かだった。でも・・・だからといってもう前のような状態には戻れないのだけども。
都筑は深呼吸をした。
「あの・・・・巽?」
都筑の声で顔を上げた巽が都筑を見た。
「あのね・・・」
いつものように誤魔化してしまいそうな自分に負けそうになる。
でもそれはしてはいけない。
今日この場を作ってくれたのは巽なのだ。その気持ちに答えなければいけない。
「・・・・もっと早くに言うべきだったんだけど・・・・」
一言一言確かめるように言葉を発する。
「俺・・・邑輝と・・・その」
核心部分が・・・・言えない。どう伝えればいいのか?
「・・・知ってますよ」
「え?」
目を見開いた・・・・
「・・・・・・・・・・・あなたの態度を見れば・・・ね」
「そう・・・そうなんだ・・・・・」
驚いたまま返事をしてしまう。
それじゃあ密も亘理も知っているのだろう。
そうか・・・・都筑は少し俯いた。

言おうとした都筑を止めるように言葉を繋げた。いざその場になると、やはり本人の口から出てくるのを聞きたくなかった。それが自分の弱さのようにも感じる。
「・・・・あなたはいいんですか、それで」
巽は都筑を見つめる。もう一度確認する。
あくまでも決めるのは、選択するのは都筑自身だと、いつも巽は言い聞かせていた。
それでも納得出来ないものがあるから苦しんではいるのだが・・・。
「巽・・・」
言葉を選んでいるのか、少しだけ考え込んでいるようだった。
でも・・・・・都筑は顔を上げる。
そして巽を見つめ返す・・・・。

「後悔はしてないよ」
そう言った。
してない・・・そう重ねて言うのを、遠くで聞くような感覚で目を細めた。
・・・・ああそうか・・・・
もう自分がどうこう言う状態ではないのだろう・・・言う気もほとんどなかったけれど。
「そうですか・・・・」
静かに答える。それしか言えなかった。
それが言えただけでもいいと思った。

そして
再び沈黙が訪れた・・・。




「都筑さん・・・お願いがあるのですが・・・」
どれくらい時間が経ったのだろう。
言葉を発した巽に都筑はゆっくりと目を向ける。
やがて・・・・ぽつりぽつり・・・と巽が言うことに都筑が目を見開いていく。
その内容は思いがけないことで・・・。
初めはどうだろう・・・・と思ったが、それでも巽の言うことが理解出来ると・・・・・少し笑った。
「うん、分かった」
巽がそうしたいのなら・・・・と。
そう答えると立ち上がって、巽の後ろに回る。
・・・・そして腕を肩から前にまわして抱きしめた。

「ありがとう・・・巽」

耳元で囁かれるその声を聞きながら巽は目を閉じた。



『ありがとう』

今、自分の中で渦巻く感情・・・それはその言葉をかけられるような綺麗な感情ではない。
まだ自分でも整理のつかないもの、複雑なもの・・・醜いものでもあるのだけど・・・・・。
でもそれは都筑が知らなくていいものだ・・・知られるのもいやだった。

そっと都筑の腕に触れる・・・このぬくもりはこれからもきっと側にある
それは変わらないのだと、言い聞かせる。
今はそれを信じるしかなかった。




2003・11・30
M・Hinase



★お待たせしたのに・・・・これかい?という内容で;
どうも・・・・(^^ゞです・・・・
ドクター出てないし・・・いやあ、こんな場面もいるよね!とか?
邑都です・・・これだけ見れば巽都ですが;;
あ、誤解を招くかも知れませんが・・・
別に巽がお願いしたのは最後に都筑にどうかしてくれ・・・じゃないですから(笑)
しつこいようですが、これは邑都ですからv

どういう展開になるかまだ未定・・・でも基本はらぶらぶ(*^_^*)