Sound

昼下がりの召喚課。
程よく人も出払った静かな空間に、「愛の讃歌」が突然鳴り響く。
鳴ると同時に、机に俯せていた黒い固まりがガバッと起きあがった。
「わ、わ、わあ〜。」
大騒ぎをして机の上のファイルをのけて、携帯を探す姿に、密は溜息をついて首を振る。ここ最近見かける光景・・・・。
「あ、あった!」
白い携帯を慌てて開く。
「あ、もしもし? あ、うん。・・・・・・え? あ、そうなんだ・・・・ああ、いいよ。うん・・・・ばっ何言ってんだよ!」
密はふ〜っと息を吐くと、開いていた本をバンっと閉じた。その音に都筑がビクッとする。
他人の聞きたくもない電話の会話を聞かせられる・・・というストレスを受けることがどんなに嫌なものか、こいつには分からないのか!といつも密は思う。
まして、相手はあの邑輝だ。無神経にも程がある。
日に2.3度は少なくてもかけてくる・・・・医者というものは暇なのだろうかと考えてしまう。


「あ、あのさ、今仕事中だから」
(寝てたくせに・・・・)
密は目を細めて睨みつける。
「わかった、わかったよ、近いうちに・・・・うん。じゃあね!」
密の視線に耐えられず、都筑が身体の向きを変える。どうやら会話の相手が話を終わらせたくないようだ。
「・・・・うん、だから・・・・ごめん!ごめんって!じゃあ、またあとで、うん。」
「あ、巽さんだ!」
密が叫ぶ。
「うわああ、じゃ、じゃあね!」
プツッと切った携帯を握りしめ、都筑が周囲を見渡す。まるでしかられた犬のようだ。
「巽どこ?」
怯えた都筑が情けない。
「・・・・・嘘だ。」
ぼそっと答える密を呆然と都筑は振り返った。
「え?」
「巽さんは今日、明日出張だろうが。」
「あ〜〜密!」
酷いじゃないか!と都筑が立ち上がった。
「俺、ドキドキしちゃったよ〜もう!」
そう言うと胸の前に手を置きふうっと息を吐いた。
「・・・・・・それはすみませんでしたね、仕事中に私用電話をしている人に気遣いがなくって!」
睨みつけながら密が言った。
「密・・・これは・・・」
「あのなあ〜仕事の間ぐらいそれ、電源切ってろよ!」
「でも〜」
「でも〜、じゃない! おまえなあ、仕事に関係ないんだからそっちは切ってもいいだろうが!」
「巽のをそのままで邑輝のだけ切ってると、色々と面倒なんだよ。」
「何が?」
「・・・・・食事とか奢って貰う時の連絡とか・・・・」
「アホらし。」
むーっとしている都筑を見ながら、心底馬鹿らしくなってきた。
あれだけこいつにかまっていても、所詮、食事係のようにしか思われていない邑輝が、ちょっと哀れに思える。全然報われていないというのも可哀想な事だ。
「じゃあ、別に・・・・・好きなようにすれば?」

なんか、もうまともに意見することもしたくない密は、席を立つ。
「どこ行くんだよ?」
「道場・・・心身を清めてくる!」
「じゃあ、俺も!」
「ついてくるな」、馬鹿! おまえは此処で電話番でもしてろ!」
「密〜!」
その時別の着メロが鳴り響く。
「あ、巽からかも!」
また都筑はごそごそとまた机の上の物をよけつつ携帯を探し出す。
(巽さんから貰ったものなんだから、かけてくるのはあの人しかいないだろうが・・・)
鳴り続けるメロディーが「愛と悲しみのボレロ」に脱力しそうだ。
都筑は着メロを設定するという細かい作業はしない方だ。
きっとどちらも渡した本人が設定したものだろうが・・・・。

そういう目で見たことはなかったが、巽と邑輝は確かにどこか似ているのかも知れない。
今度邑輝に会うことがあったら、気をつけて観察してみてもいいかもしれない、と密は思っていた。


「もしもし? ああ、ごめんごめん!・・・・・ うんうん、変わりないよ。・・・・・え?ホント?・・・・・・・わーうれしいなあ〜ありがと。うん、わかった! じゃあねえ。」
電話を切ってもへらへらしている都筑はくるっと密を振り向くと
「今出張先からだったんだけどね、巽お土産買ってきてくれるって!」
子供のように満面の笑顔で言った。やはり都筑には餌付けが一番なのかも知れない。
「・・・ああ、はいはい。良かったですね〜。」
なんか・・・・・なんか間違っているような気がする。
どうしてみんなでよってたかって甘やかすんだ、こいつを!
ここは一つ、俺がしっかりしなきゃやっぱだめなのかも知れない。
密は心の中で拳を握る。
「じゃあ、俺は行くからな。書類ちゃんと仕上げておけよ!」
「だから、俺も行くってば!」
「しつこい!」

すがってくる都筑を無視して部屋を出て行こうとした時、都筑が後ろから叫ぶ。
「あ、密! 今度邑輝のうちにいくんだ、一緒に行こうね。」
「あ〜? 何処へだって?」
「邑輝の家! 来い来いって煩いんだよ〜。 ご馳走もしてくれるって言うし。」
「なんで、俺まで!」
よりによって邑輝の家なんかに!
「えーだって邑輝が言うんだもん。」
「・・・・・・・・・」
・・・・・これ以上話をしていても疲れそうなので、叫ぶ声をそのままに密はそのままドアを出ていった。




どんなに回避してもどうしても巻き込まれるのかも知れない。
ただただ平穏に過ごしたいだけなのに。
邑輝が自分もセットで家に招待するっていうのも、一人では都筑を巽が外に出したがらないのを知ってのことだ。
邑輝に会わせる時も自分を都筑についていかせる巽といい、本当に密にとって迷惑な話だ。
ふるふると首を振る。
一汗でもかいて、すっきりしたい、そうしなければ行けない気がした。
「よしっ!」
自分の顔を両手でパンと叩くと、密は道場へ向かって廊下を走り出した。



秋も近い昼下がりの出来事。

2002・8・27
M・Hinase 

★・・・・・殴らないで!(汗;)
邑都の連載と言いながら邑輝が出ていないなんて!
いえ、何か書き始めたらこんな風に。邑都ファンの方ごめんなさい! お詫びはこちらにご用意しました;◆
(大変申し訳ございません;;ファイルをただいま消失しています;;;)
次回はとうとう「祝:お家ご訪問!」編です。
果たして邑輝は都筑さんとの間を進めることは出来るでしょうか。