Love Call
梅雨も近い平日昼下がり。 いつもの喫茶店のいつもの席で2人は向かい合っていた。 都筑の目の前にパフェがあるのもいつもどおり、邑輝の目の前に珈琲のカップがあるのも。 そしていつものように店員が仕事の合間に遠巻きに見守っている。 すっかりふたりはこの店で有名人だった。 ただいつものと違うのは邑輝の機嫌がいつもより少しだけ、少しだけ悪いこと。 半分ほど食べたパフェのクリームをスプーンですくいながら都筑は邑輝の顔をちらっと見る。 何を考えているのか、静かにカップを口に運んでいた。 会話は無い・・・・。 店に入ってきた時に少しだけ笑った気がしたので安心していたが、どうやら怒っているようだと気づいた。 ・・・・ま、そうだろうな・・・・ と、都筑は思う。 何しろほぼ2ヶ月ぶりに会ったのだ。 あのホワイトデーの時にお菓子を貰って、家に行くよって言って喜ばせて・・・・。 それなのにこの2ヶ月あまり遊びに行くどころか、会うこともなかった。 別に意識的にしていた訳ではなく、どうしようもない状況だったのだが。 角切りにしたフルーツを口に運びながら、都筑は壁に掛かった時計を見る。 あと、30分か・・・・。 今日も1時間しかとれなかった自由時間。 都筑が仕事以外で一人で地上に出るのを、最近特に煩く咎めるようになった巽の顔を思い浮かべる。 前はそんなこと何も言わなかったのに、最近・・・そうこの目の前の男が何かしら連絡を取るようになった ことから、あれやこれや言うようになった。 子供じゃないのだから・・・とも思うが、借金の話や滞っている書類を持ち出されると立場が弱くなる。 文句を言いながらも巽の言う事を無視できなくて、結局都筑はその通りに動いている。 毎日残業ばかりさせられている、おかげで週末はぐったりだ。 今日だって巽には秘密だ。亘理に何とか話を合わせて貰って何とか出てきた。 このことだって大丈夫だという保証もない。 密が馬鹿馬鹿しい・・・と言っていたなあとか思い出す。 「何考えているんです?」 その声にはっと顔を上げる。 「え?」 いつの間につけたんだろう、邑輝は煙草を手にしていた。 まっすぐに都筑を見つめてくる。 「え?何って、何も・・・」 「せっかくこうやって会えたというのに・・・貴方はまったく・・・。」 「あ、ごめん・・・・って、おまえだろ?それは。」 「私が何です?」 「全然喋らないじゃないか、ずーっと。もう30分もだぞ!」 「誰のせいですか。」 うっ、と都筑がつまる。自分の方に非があるという自覚は充分ある。 「・・・そ、それにしたって・・・・」 「今日は何月何日ですか、都筑さん。」 と、低い声で問われる。 「・・・・5月18日・・・・です。」 うーっと都筑は心の中で唸る。目の前の男は完全に拗ねている。 「ホワイトデーはいつだったでしょうか・・・・もう随分昔のように思えますが。」 「・・・・2ヶ月前です。」 「ああ、まだそんなものですか。もう1年ほど経ったのかと思っていました。」 「あ、あのなあ。」 こんなにネチネチと責められたのではかなわない、なんかこういう点は誰かに似ているな・・・とふと思う。 「その・・・悪かったと思ってる・・・えっと・・・」 「あのお菓子もねえ、全部ダメになってしまいましたよ。」 その言葉に都筑が立ち上がる。その音が店内に響き渡った。 「えー嘘!あれが、全部?!・・・・・そんなあ。」 「当然でしょう、2ヶ月も日持ちするような物をご用意したつもりはありませんから。」 都筑の脳裏にあの時目にした数々の高級菓子の様子が浮かんでは消えた。 ・・・・なんて、もったいない。あれだけの物、今度はいつ出会えるか分らないのに・・・ 立ったままお菓子を思い浮かべては、何とも言えない表情をしている都筑を見て邑輝は溜息をつく。 自分よりもお菓子の方が上に位置づけられている事実を見せつけられては、ますます面白くない。 「ああ、食べたかったなあ〜。」 頭を抱えて座り込む都筑を見ながら邑輝が落ち込む気持ちを入れ替えて言葉をかけた。 「でね、都筑さん。またご用意してもいいのですが・・・」 お菓子に負けているという事実は事実として、今すべき事は前進あるのみ。 元より困難は承知だ。 「本当!?」 ぱあっと顔を輝かせる都筑を邑輝は見つめる。 「ええ。簡単なことですよ。」 たかがあれぐらいいつでも用意は出来る。 「ありがとう!邑輝!」 「いえ、でもこ今度こそ私の家の方に来てくださると約束してください。」 「うん、するする。・・・あ、でも俺・・・」 都筑は何かを思い出した。 「電話・・・ですか?」 「あ、うん。・・・って、よく分ったね。」 「電話が全く繋がらなかったですからね、貴方の所に。」 「あ、そうか。うん、そうなんだ、止められちゃって・・・料金が滞っていたんだ。うっかりしていたのも あったから、すぐ払おうかなと思ったらさ巽からこれ渡されちゃって・・・」 と、上着の内ポケットから携帯を取り出す。 「で、今はこればっかり。まあ大概は業務連絡だからね。」 だから家のはそのままになっちゃって・・・と、えへへと笑う都筑にムッとする。 何だかんだ理由をつけて、巽が都筑を監視しているのが見え見えだ。 本当に何処まで邪魔するのか・・・。 当の本人は何も分っていないので、余計に始末が悪い。 「だから、この番号、教えとくね・・えっと・・」 「その必要はありません。」 「なんで?」 即座に断られ都筑は首をかしげる。 その他には何の連絡の取りようがあるというのか都筑には分らない。 今日も亘理から聞かされてここに来ることが出来たのだ。 どうやら邑輝と亘理は何処かで話が合うらしい。 「これを・・・」 邑輝がすっと都筑の目の前に携帯電話を置いた。 都筑はその電話を見つめる。 「あ、あの・・・」 「それを持っていてください。私の番号は入れてあります。」 「あ、あの・・・邑輝?電話ならこれが・・・」 「私はこれにかけますので。」 質問は受け付けません!という感じで話す邑輝と電話を交互に眺める。 「邑輝・・・・いいじゃん、この携帯にかければ。俺2つも持つの嫌だよ・・・面倒くさいし・・・」 「都筑さん!」 「はいっ。」 咄嗟に返事をしてしまう。 「・・・・私はこの携帯に連絡をしますので。いいですね。面倒くさいだろうが何だろうが、持っていてくださいね。」 「・・・・・・」 何を言っても無駄だ・・・という雰囲気に包まれる。 「都筑さん?」 「・・・・・・はい、分りました・・・・。」 都筑はその携帯を手に取る。 その様子に邑輝が微笑んだ。 「電源はなるべく切らないようにしてくださいね。」 「うん・・・」 「あ、それから巽さんに見つからないように!」 「うん・・・そうだね・・・」 それはもっと面倒くさいことになりそうだ。 大きく肩で息をつく都筑は椅子の背にもたれかかる。 残りの珈琲を飲み干して邑輝が腕時計を見る。 「それでは私はこれで。今日は今から勤務に入るので。」 「あ?ああ、そう。」 そう答えながら都筑は2つの携帯を見比べている。 「大事にしてくださいね。」 邑輝は席を立ち伝票を取ると片方の手で都筑の頬に手を添える。 「・・・・分ったよ、ありがと。」 諦めたように笑う都筑の頬をそっと撫でた。 「では、また。」 「うん。」 ひらひらと手を振る都筑を残して邑輝は店を出て行った。 「なんか・・・・似てるよな・・・・邑輝と巽って。」 一人テーブルに残った都筑は呟く。 どちらに言っても、ろくな事はないようだから言わないけど。 都筑は渡された2つの携帯に再び目を向ける。 色が白とシルバーという違いはあるが、後は全く同じ。 付いているストラップまで。 カチン・・・ 都筑はストラップの先に付いている小さな紫の石を、水の入ったグラスに軽く当てた。 コップに付いた水滴がすーっと落ちていく。 それを見ながら都筑も席を立った。 そろそろ戻る時間だ。 2つの携帯を一つずつ大切に左右の内ポケットに入れる。 面倒くさいけれど・・・・・ ・・・・・でも悪い気もしない・・・それも確かなこと。 都筑はもう顔なじみになった店員にぺこっと頭を下げて店を出た。 「ありがとうございました〜。」 店員の声を背で聞きながら都筑は空を仰ぐ。 気持ちの良い5月の風が吹き抜けていった。 |
2002・5・18
M・Hinase
| ★邑都の第3話ですv お待たせしました〜♪(・・・・・って誰が待っているのでしょう;) 今回は静かな展開です(笑)。邑輝拗ねています; 巽の妨害にめげず頑張って欲しいものです。 要は都筑の気持ちの問題なんですがね・・・・。 暗躍しているW氏・・・・・・何だかな(^_^;)。 さて携帯話、次も引きずることでしょう。 それでは次回をお楽しみにvv |