It is many...



「さて、どうしたものでしょうか・・・・?」
目の前に並んだ数々のお菓子を前に邑輝は一人悩んでいた。
クッキー、マシュマロ、キャンデー、パウンドケーキから始まる各種ケーキ類・・・そのどれもが一流店と言われる店に注文し届けさせた物。
甘い物が好きな都筑に・・・とバレンタインの御礼にと用意した。
カタログを見て、これもいい、いやこちらも・・・と思っている間にすごい数になってしまった。テーブルのほぼ全面を埋め尽くしている。
邑輝としてはこの全部を都筑に渡すつもりだったが、今日出掛けに見たテレビの番組が気に掛かりどうにも考え込んでしまった。




朝のインタビューの会話・・・
『貴女はどんな物を彼氏から貰いたいですか?』
『そうですね・・・高くなくてもいいから心のこもった物がいいです』
本に目を落としていた邑輝は顔を上げる。
画面にはマイクを持ったレポーターと女性。
『例えば?』
『高価なアクセサリーよりも安くてもいいから普段使えるような小物とか・・・』
ハンカチ1枚でもいいと言う彼女に邑輝は冷ややかな目を送る。
そもそもこういう行事に物を贈るのだから、多かれ少なかれ心がこもっている物しか相手には贈らないだろう。
人間、安い物と高い物があれば高い物の方が欲しいに決まっているのだ。
高価な物には高価なだけの価値がある。事実自分が使っているものは質が伴っている良品ばかり。勿論今まで都筑にプレゼントした物もそうだ。まして彼に贈った物には自分の心が誰にも負けないほど込めてある。高価で心がこもっている・・・これに勝る物はないと邑輝は考えていた。
『貴女はどうですか?』
別の女性へとマイクが向けられる。
『私の彼は数多く色んなものをくれるんですけど・・・・一つでいいんですよね。』
その言葉に邑輝は反応する。
『でもいっぱいくれるっていうのは嬉しいじゃないですか?』
『えーでも、なんか嫌です。思いが薄いっていうか分散されているようで・・・』
思いが薄い?・・・・数が多いと?・・・・
ふと自分がホワイトデーのために用意したお菓子のリストを思い浮かべる。
いやいや、そんなことは・・・・でも・・・・。
くだらないことだと思いつつも、何となく朝の女性の言葉がひっかかる邑輝だった。






でも今更、どれか一つに選ぶとしても・・・・と邑輝は改めてお菓子の山を見る。
どれも最高級品だ、それぞれに良さもある。
それにもう都筑もやってくるだろう。
・・・あの人が同じようなことを思わなければいいのですが・・・・
ふうっと溜息をついて邑輝は窓の外を見る。
通りを歩く人達が、こちらを見るとギョッとして慌てて目を逸らす様をぼんやり見ながらもうすぐ現れるであろう美しい瞳の持ち主のことを思い浮かべていた。





「げっ!」
「わー!!」
と、相反する感情のこもった声が店内に響いた。
その声に邑輝は振り向く。
「都筑さん。」
手を挙げて笑いかけた邑輝は、愛しい人の隣に立つ少年の姿に目を見開いた。
「お待たせ、邑輝!待ったー?」
既に目がテーブルの上の物に釘付けの都筑はろくに邑輝の顔も見ないで椅子に座り込んだ。その後からポケットに手を突っ込んだままの少年も都筑の隣に腰を下ろす。
「いえ、今来た所ですから・・・それよりも」
邑輝は喜々としてお菓子を手に取る都筑に微笑みかけ、ゆっくりと視線を動かした。
「あなたが何故一緒に来るんですか。」
嫌そうにお菓子の山を見ていた密がそのままの顔で邑輝の方を向く。
「パートナーだからだ。」
「は?」
「平日の昼間、こんな時間に呼び出したら俺も一緒に動くことになるんだ!少しは人の迷惑も考えやがれ!」
「迷惑って・・・嫌なら帰ればいいじゃないですか、私だってあなたがいるのは迷惑なんですが。」
「あのなあ、仕事中なんだ!朝からこいつは書類書きに追われてすげえ忙しいんだよ。そんな中、呑気に呼び出しやがって・・・・巽さんの許可が出ただけでもありがたく思えっていうんだ。」
「あなたがついてくるということが条件・・・ですか。」
「ああ、そのとおりだ。」
まったく迷惑だ・・・と密は舌打ちをする。
それを見てそうしたいのは自分の方だと邑輝は思った。
先日の都筑の誕生日の時も散々本人よりも先に来た巽に文句を言われた。
そして今度こそせっかくのデートだと思っていたら、今度はコブつきだ。
どうしてこうも上手くいかないんだろう・・・と頭を振る。
「それにしても・・・・どうしてあなた方はこう上から人を見下ろすような横柄なしゃべり方しか出来ないのでしょうねえ・・・・」
人として良くないですよ、と付け足しながら邑輝はカップに口を付ける。
「ああ?お前がそれを言うのか!何考えてんだ!」
そして隣の都筑を見る密。
「この馬鹿!何喰ってんだよ、おまえは!全部おまえのせいだろうが!」
「あー痛い!密酷いよ。」
「なんだとー!」
口いっぱいケーキを頬張りながら頭を叩かれた都筑は涙目で、元々機嫌の悪かった密は益々ヒートアップしていく。
その様子に首を振りながら、おどおどと注文を聞きに来たウェイトレスににこやかに邑輝は対応していた。
「フルーツパフェと珈琲を。」
「あ、はい・・・・あのお客様?」
「何か?」
「食べ物の持ち込みは・・・その・・・」
「ああ、そうですね。失礼しました。」
にっこり笑うとぎゃーぎゃー言っている二人の方に声をかける。
「都筑さん、これは全部差し上げますから後でゆっくり食べて下さい。」
「え?ホント?ありがとう、邑輝!」
幸せいっぱいという感じで笑う都筑に邑輝は頷く。
この笑顔を見られただけでも良しとしなくてはいけない・・・そう思う邑輝だった。




お菓子が山のように積み上げられたテーブルを遠巻きに眺める他の客達、そして店員。
通りから寄せられる奇異な視線・・・しかし、このテーブルだけは別世界のようだった。
一人だけ大はしゃぎでフルーツパフェを食べながら喋り続ける都筑。
それをニッコリと微笑んで聞いている邑輝。
そして不機嫌なのはそのままだが一通り文句を言って少しだけすっきりしている密。
一見和やかな雰囲気の時間は瞬く間に過ぎていった。

「時間だ、都筑!」
「えー?もう?まだ1時間じゃん!」
「もう1時間だ!約束だろう?俺は今から巽さんに連絡入れてくるからな、帰れるようにしておけよ。」
それだけ言うと携帯を持って密は店の外へと出ていく。

後に残された都筑はスプーンを加えて邑輝を見た。
「ごめん・・・・もう帰らないと・・・。」
「仕方ありませんね・・・残念ですが。」
「こんなに貰うだけ貰って・・・本当にごめん。」
「いいですよ、平日に会えただけでも嬉しいですよ。」
「でも・・・・・あ、そうだ!」
いいことを思いついた!と都筑は身を乗り出す。
「このお菓子、預かっといてくれない?」
「え?これをですか?」
「うん。このまま持って帰ってもきっと取り上げられちゃうと思うんだよね。だから邑輝が持ってて欲しいんだ。そしたらそれを貰いにまた来るから!」
あ、これとこれは貰って帰るね、と都筑は一つ二つお菓子をポケットに入れる。
「はあ。」
「ダメ?」
「いえ・・・でも今度家に来てくださるとお約束してくださると、もっといいのですが?」
「家?邑輝の?」
「そうです。」
「いいよ、勿論。」
「・・・・いいんですか?」
「うん。」
あまりにもあっさりとOKされたことで少々驚く。
・・・・まあ、こういうところも可愛くていいのですが・・・
そう思いながら邑輝はそっと都筑の頬に手を触れた。
頬を撫でられるのが気持ちいいのか、都筑が目を細める。
その時密の大声が・・・・
「都筑!帰るぞ!」
その声にはっと都筑が立ち上がる。
「じゃあ、本当にごめんね。」
そう言って行きかけた都筑を邑輝が呼び止めた。
「都筑さん!」
「ん?」
「あの・・・ひとつ言い忘れたことが。」
「何?」
「こんなに数多く贈り物をしましたが・・・・一つの方が良かったですか?」
「邑輝?」
「その・・・一つの方が思いがこもってるというか、そういうのが・・・」
「ううん、俺は嬉しいよ。そんなこと気にしてないし・・・・数の違いなんて、思いの深さに関係ないと思うけど。」
「都筑さん。」
「都筑ー!」
呼ぶ声が一段と大きくなる。
「あ、じゃあ行くね。」
バイバイと手を振って走っていく都筑を邑輝は見送った。



少しでも悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。
都筑に軽くまとめられてしまった様に苦笑する。

とりあえず次の約束も出来ましたし・・・・邑輝はそっと右手を眺めた。
都筑のぬくもりが残っているその手のひらに口づけを落とす。
柔らかな頬に触れることを思い浮かべながら・・・・。
「今度会える日を楽しみにしています。」
目を瞑ったまま邑輝は呟いた・・・・。


ホワイト・デーの喫茶店での出来事。

2002・3・14
M・Hinase

★White day編です。
これがあるということはバレンタインもあったのでしょうが、それはまた後ほど(*^_^*)。
ほらね、この邑輝はだれじゃあ〜?状態でしょう?(笑)
ちゃんと前書きで断っていますからね、苦情はなしですよv
此処の邑輝はあくまでもこのスタイルで・・・・。
幸せなんですよ、これでも邑輝は・・・vvv
さて二人っきりのデートはいつ実現するのでしょうか・・・・。

頑張れ先生!
ちなみにお店は前回と同じところの設定です(笑)。迷惑やね・・・・。