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もう説明の必要もない気がするが・・・いつもの店である。
すっかり常連になった彼らであるが、このふたりで顔を会わすのは2回目だった。
そしていつものごとく店員達は気のないふりをしつつも、また喧嘩が始まるではないかとヒヤヒヤしながらチラチラと様子を見ていた。
最初に茶色のスーツの男性が来て窓際に座り・・・少し遅れて白いコートの男性が店に入ってきてその向かいに座った。
そして最初に軽く挨拶をしてから既に10分以上の沈黙が続いていた。



苦目の液体が喉を流れていく・・・・
どうしたものか・・・・と巽はこの場に及んでも発する言葉を迷っていた。
感情の赴くままに発するのは簡単だ。
目の前にいる人間は普段からあまり良くは思っていない、否、嫌いなタイプの人間なのだ、いくらでも言おうと思えば文句は言える。
・・・が、今回はそれでは先に進まない、以前とは少し事情が変わったのだ。
都筑の気持ちが分かった以上、自分も整理をつけておかねばならないと思ってはいる。
そのために此処に来たのだ・・・それはそうなのだが・・・。
巽はふーっと軽く溜息をついた。
それにこの場合、どちらかと言えば邑輝の方から何か言い始めても良いのではないだろうか・・・・。



・・・・どう切り出したら良いか迷っている・・・といった所でしょうか。
邑輝は目の前の巽を時々見ては店内に・・・・巽の後に掛けてある絵をまた見ていた。

『邑輝・・・お願いがあるんだけど・・・』
言いにくそうに上目づかいをしながら都筑が巽と会ってほしいと言ってきた晩のことを思い出した。
いつものように週末に会って、食事をして、その後のホテルの部屋でのことだった。
都筑の保護者(時々行きすぎている感はあるが)である巽との話し合いは避けられないものと思っていたので、そのことに異議はなかった。
前の時は一発触発の自体にまでなってしまった・・・・今度はちゃんと話しあわないといけない。
自分たちの幸せの為にも。
『構いませんよ。私も会いたいと思っていたところです』
そう告げると、都筑はほっと息を吐く。
『嫌だと言われるかと思った』
『・・・別に好んで会うわけではありませんけど』
『邑輝・・・』
『ふふ・・・大丈夫ですよ、前のようなことにはなりませんよ(たぶん・・・・)』
そんなこんな会話があったのだった。
その後はもうめくるめく素敵な時間がふたりを待っていた・・・・
それを思い出すと、自然と頬が緩んだ。
あの時の都筑の可愛かったこと・・・・・これからもあんな時を重ねていきたいものだ。


「・・・何を思い浮かべているんですか」
その声で邑輝は現実に引き戻された。
巽を見ると不機嫌そうにこっちを見ている。
「・・・別に」
「・・・・・」
「そんなことよりも話を始めましょう、いつまでもこんな風に黙り込んでいても仕方ありませんよ」
考えていたことを誤魔化すかのように邑輝は足を組み替えた。
それを見ていた巽が手にしていたカップを置く。
「・・・・あなたの方が先に・・・私に言うことがあるのかと思って待っていたんですよ」
「・・・・は?」
「”都筑さんとお付き合いさせて下さい”とかそんな台詞があるでしょう?」
「・・・・・・」
思いがけない言葉に邑輝は巽を見つめてしまった・・・・
「・・・・・あの・・・・巽さん?」
「はい」
「もう既に私と都筑さんは付き合っている訳で・・・別にあなたの許可がどうこうというのは・・・」
過保護の所は認めるが、いい加減いい歳の大人の男が付き合うのに何を言っているのだろう。
「ええ、そうですね。毎週毎週・・・あなたも医者の割にはお時間を取れるようで・・・けれどこれはけじめでしょう? これから都筑さんと正々堂々とお付き合いしていく為にもですね・・・・」
「ちょっと待ってください!今でも正々堂々と付き合っているでしょう? 逃げも隠れもせずに。誤解があるようですが別に今日はあなたに許して貰おうとかそんな風には思っていないんですよ、私は」
その言葉に巽の表情がきつくなる。
「私と都筑さんの気持ちはもうよくご存知のはずです。もう私達ふたりの答えは出ているんですよ。今日、ここにあなたと会いに来たのは、どちらかと言えばあなたの為ですよ、巽さん」
邑輝は巽を見つめる。
巽が自分の中にある気持ちを整理し、乗り越えていかないとやがて都筑も動けなくなってしまう・・・。
「・・・・あなたがどれだけあの人を大切にしてきたかを、私なりにですが理解はしているつもりです」
そう言うと巽は少し辛そうに目をそらした。
「・・・・あなたには分かりませんよ」
都筑を求めながら、同時に拒絶してきたこの半世紀以上のことはきっと誰も理解出来ない。
「ええ、そうでしょうね・・・・・確かに過去に何があったのかなんて知りません、でも無理に聞き出そうとも思いません。今、目の前にいるのは紛れもなく私を愛してくれている都筑さんですから、その事実だけで私はいいのです」
「・・・・・・」
「巽さん・・・・今でも都筑さんの話の半分以上はあなたのことですよ」
「・・・・私の?」
「ええ・・・・もうそれは妬けるほどにね・・・・でも穏やかにあなたの事を話す彼はとても魅力的です。今日何があったとか、何を言われたとか・・・・くるくる変わる表情で話すんですよ・・・可愛い人です」
静かに邑輝は話す。
「あの人の中のあなたの位置は絶対で・・・それを除くことは私でも出来ません・・・それではダメですか?」
「・・・・・・・」
「悔しいことに彼にとってあなたはあなたのままだし、私が心を100%占めることは出来ないみたいです・・・・ま、またそこも魅力的なのですが」
ふっと笑う邑輝。
それをじっと見つめた巽が、やがて息を吐き出した。
「・・・・変わってますね・・・・あなたも」
少し呆れたような、それでいて何処か嬉しそうな言い方だ。
「あなたほどではないですよ」
邑輝が答え、それを聞いていた巽も少しだけ微笑んだ。
巽の心が少しだけ軽くなったような気がする。

「・・・・私はあの人が・・・・都筑さんが笑ってくれていれば・・・・幸せに笑っていてくれるなら・・・・と思っています。もう二度とあの瞳が曇らないようにと」
それだけを願ってきた・・・気が遠くなるほどの前から、今も、そして・・・・・いつまでも。
唯一変わらない願い。
「させませんよ」
そう短く邑輝が答えた。

実際は死神としての仕事は続けなければならないし、これから先も都筑の心が傷ついていくことは変わらないかも知れない・・・・でも、それでもそれを癒すものにはなれるのだと・・・。
実際邑輝とこうなってからは、都筑がかなり精神的に落ち着いてきたのは事実だった。
それは巽も分かってはいた。

・・・・今でも、それがどうしてよりによってこの人なのだろう・・・・と思いは消せないが、都筑が良いと言うのだから認めざるを得ないのだろう。
自分と都筑・・・・今までとは少し違った立ち位置でお互いに歩いていけるのかもしれない・・・・そう巽は思った。傷つけあうのではなく、互いに支え合える存在として・・・・。


「あの人を・・・・」
しばらくの沈黙の後、巽が小さく言葉を発した。
「・・・・お願いします」
頭は下げなかった・・・・でもまっすぐに邑輝を見つめて言った。
自分では出来なかったことを都筑にしてあげて欲しい・・・・その思いを込めて。


「わかりました」
そんな巽の気持ちは邑輝にも伝わってきた。
考えれば都筑を挟んだ妙な関係だが・・・・それも悪くない・・・・そう思えた。
こんな関係もあっても良いのかも知れない。
奇跡のような穏やかな空気にふたりも・・・・そして周囲も包まれた。


「大丈夫です、巽さん。あなたごと都筑さんを抱き留めますから」
カップに残っていた珈琲を飲み干して邑輝は言った。
ああ、なんて美しい言葉の響きなんだ・・・・邑輝は少しだけ自分に酔う。
しかし・・・・それを聞いた巽の身体がぴくっと揺れた。
「・・・・・何を気持ちの悪いことを」
「え?」
「あなたに抱きしめられ・・・ああ、言葉にするのもおぞましい!」
「巽さん、そんな言い方はないでしょう!?」
「それならあなたもあんな言い方はやめてください!」
「別に実際にあなたを抱きしめるわけじゃないんですから、気持ちの問題で・・・」
「気持ちの問題でもあんな風に表現しないでください。あなたは都筑さんだけ抱きしめておけば良いんですよ!」
「まったく可愛くない人ですね、あなたは!」
「あなたに可愛いなんて思われたくないです!」

・・・さっきまでの大人な雰囲気はどこへ・・・
今回こそは綺麗にまとまりかけていたはずなのに、結局は・・・・・。

「わ、ちょっとダメだよ、ふたりとも!」
物陰から様子を見ていた都筑が飛び出してくる。
「都筑さん!」
嬉しそうに手を広げる邑輝と
「都筑さん!どうしてここに!? 仕事はどうしたんですか、仕事は!!」
と途端に鬼の上司モードに入った巽とで大混乱。
それから小一時間見た目人間、実はそうでない男が3人しばらく言い争っていたとか、そのうち1人が泣き出したとか・・・。

そんな喧噪の中、
「あ、コーヒーおかわり下さい」
1人冷静にカップを手に本を読んでいた密がいた。
そして一言・・・「バカばっか・・・・・」


結局話し合いの結果が上手くいったのか、いかなかったのか、よく分からない結果に・・・。

1つだけ確かなこと、それはやっぱりお店は今回も大迷惑だったこと。
それから付け加えるなら・・・・
誰もが彼の幸せを願ったこと・・・・それだけだった。

2006・3・13
Mai・Hinase




え・・・・・前回が2年以上前なんですよね;;;
あははは・・・・・遠い目
今回書く為に・・・読み直しました私;;;
で、その出来具合に倒れそうになりました(+_+)
大した破壊力です
・・・なんちゅう恥ずかしいものを書いているんだ・・・
でも此処まで来たら仕上げておかないと・・・・と思い
恥を忍んで書いてみました(もう今更だし・・・)

楽しんで頂ければ・・・何よりです(笑)
次回は最終回です・・・・・邑輝さんには最後まで走って貰いましょうv