Present



「どういうつもりです?」
憮然とした態度で邑輝が言う。
目の前に置かれた綺麗に包装された小さな箱とカード。
それは先日、自分があの愛しい人へと贈ったものだった。



2月24日日曜日。
久しぶりにとれた休日。
本来ならばあの綺麗な紫の瞳を見ながら、そして美味しいお茶でも飲みながら過ごしているはずの昼下がりになるはずだった。
お昼を過ぎた時間に待ち合わせの時間を決めたのは、朝が弱いあの人のため。
この店を選んだのは此処のケーキがとても美味しいという理由。
・・・それなのに、どうして自分の前にいるのはこの男なんだ!
邑輝は睨みつけてくる男の目を見て大きな溜息をついた。



「どういうつもりとは・・・それは私の方が聞きたいですね。」
邑輝の溜息が聞こえたのか、不機嫌きわまりない声で巽が答える。
「・・・では、どうぞ。」
邑輝は店内に掛けられている絵を見ながら言った。
どうせ出てくるセリフは想像できる。
・・・ああ、あの人は今どうしているのでしょうか・・・
花畑の中に立つ後ろ姿の少女の絵を見ながら想いは彼方へと飛んでいく。
遠くで
『あれほど言ったのになぜまだ贈り物をしてくるのか』とか
『もうこれ以上、ちょっかいを出さないでください』とかが雑音のように聞こえる。

こうして目を瞑れば浮かんでくる愛しい人の顔。
いつまでも子供のように小さな事で拗ねたり、笑ったりするのが嬉しくて、ついわざと怒らせたりすることがある。
目を一杯涙で濡らして見上げてくる顔なんて、もう究極の愛らしさだ。
今まで何度その場で押し倒して自分のものにしてしまおうかと思った。
会えるのは嬉しいが、いつも理性との葛藤を伴うのが何とも辛い。
それでも精一杯我慢しいているのは、全部彼のためだ。
彼の笑顔を損なわないために、自分の欲望を抑え込んでいるのに・・・。


「ちょっと、聞いてるんですか!」
バンッとすごい音を立てて巽がテーブルを叩いた。
その音に邑輝が面倒くさそうに目を開く。
「ふう・・・・大人気ないですよ、巽さん。」
邑輝は脚を組み直しながら首を傾ける。
「何がそんなに気に入らないのです?」
「何もかもですよ!まったくコレだって私が先に見つけたからいいものの、あの人が受け取っていたかと思うと・・・・」
そこまで言うと巽は頭を手で押さえる。
「巽さん。コレは私が都筑さんにお贈りしたものですよ、個人的に。それを他人のあなたが本人よりも先に没収して私に返してくるなんて、プライベートの侵害ではないのですか?」
「職員の身の安全を考えることも私の職務ですから。それに封は開けていませんからね!」
「おや?本当に?・・・でもあなたはこの中身をご存知なんですよね?」
「私には開けなくても分かるんですよ。」
ふふんと巽が笑う。
「ほお?それはそれは。そうですね、あなたは影師でしたね。」
便利な技をお持ちで、と邑輝が笑った。
「ご自分でお使いになろうとは思わなかったんですか?」
邑輝の言葉にキッと目をつり上げる。
「馬鹿馬鹿しい!そんな薬で人の心をどうこうしようということ自体邪道です。」
「でもきっかけにはなるかも知れないでしょう?これで都筑さんが私のことを愛している事に気付くという・・・」
「ドクター・・・あなた馬鹿ですね。」
眉間に皺を寄せとても嫌なものを見るように呟く巽に邑輝はムッとする。
「馬鹿とは聞き捨てならないですね、巽さん。私は真実を言ったまでです。」
「真実ですか・・・笑わせますね!都筑さんがあなたを愛しているなんてことあるわけないでしょう。妄想もいい加減にしてくださいよ。あなたに持っているのは単なる好奇心ですよ、好奇心!変わった物を見たいという。」
分かりませんか?と、呆れたという風に両手を挙げる巽。
「変わった物・・・・・・巽さん、馬鹿の次は妄想家呼ばわりですか。いい度胸です。」
「おかげさまで。」
「今日はあの方の大切な日だからと思って我慢していたのですが・・・仕方ありません。いい機会です、あなたとは一度はっきりさせなければ・・・。」
邑輝の言葉に巽が頷く。
「いいでしょう。」
すくっと2人は立ち上がり睨み合う。
先程から2人の様子を眺めていた店員も客も彼らが出すオーラーに怯え、店の隅に固まってしまっていた。彼らに声を掛ける勇気のある者は誰もいなかった。


「いきますよ、巽さん。」
「遠慮はいりません。」
ニヤリと笑った巽に邑輝が手を挙げ式を召還しようとした、その時。
「ちょーと待った!!」
大きな声が響いた。
巽も邑輝もそして怯えきった一般の人達も声のした方向を見る。
そこには、はあはあと肩で息をして入り口に立っている都筑の姿があった。


「都筑さん・・・」
同時に呟く2人の元にすたすたと歩いてきた都筑は巽と邑輝を交互に睨みつける。
「何してんの、こんなとこで!」
「何って・・・」
都筑は言葉を失った邑輝を見て、そして巽を見る。
「亘理が教えてくれたよ。巽、俺宛の郵便物、俺より先にとったでしょう。」
チッと小さく舌打ちをしながらまったく、亘理さんは・・・と巽が言った。
「巽!?」
「あ、いえ、今回は特別ですよ。差し出したのがドクターだったから、その・・・」
「巽!いくら邑輝からのだって、俺宛だろう?そんなことするなよ。」
「・・・・」
「心配してくれるのは嬉しいけど・・・」
「・・・すみません・・・でもこれは」
「分かってる。」
都筑は小さく頷くと今度は邑輝の方に向く。
「邑輝・・・これ薬だって?」
「え?・・・・ええ、そうです。」
邑輝は素直に白状した。
「コロンに媚薬を混ぜてるって・・・本当?」
真っ直ぐに見つめてくる都筑に邑輝は目を伏せる。
「その通りです・・・」
その答えに都筑は大きく息を吐いた。
「そうか・・・・巽」
巽を振り返る都筑。
「夜までには戻るから、先に帰っててくれないか。」
「都筑さん!」
「少し邑輝と話がしたい・・・ダメ?」
「でも・・・」
尚も渋る巽にふっと都筑が笑った。
「夕食、用意しておいてよ。今日作ってくれるって約束したじゃん。」
巽はニッコリと笑う都筑の顔をしばらく見つめる。
「・・・・分かりました。」
でも必ず夜には戻ってきてくださいよ、と邑輝をチラッと見て巽が言った。
「うん。」

後を振り返りつつ巽が店を出たのを見送って都筑は振り返り店の隅に固まっている人達に頭を下げた。
「お騒がせして、ごめんなさい。」
その言葉に皆、引きつった笑いを返すしかなかった。


少しして共に店を出た都筑と邑輝は通りを歩いていた。
「休みなのに朝から召還課に呼び出されて書類書きをさせられるし、何故か用もないのに亘理が側にいるからさ、なんか変だと思ったんだよね。亘理から聞き出して正解だったよ。こんな事になってるなんて・・・。急いできてみて良かった・・・。もう少し遅かったら大変なことになってた。」
反省してる?という目で見つめてくる都筑に邑輝はちょっと困った顔で笑う。
「そうですね、あのままだと確実に大損害をあの店に与えるところでした。・・・・でもしばらくは顔を出せませんが・・・。」
「店だけじゃ済まないよ、おまえ達がぶつかったら。怪我人だって出るし・・・・もうこんなことしないって言ったのに。」
過去何度か起こった騒ぎを思い出して都筑は怒ったように言う。
「すみません・・・ついカッとしてしまって。」
「郵便物を先にとる巽も巽だけど、おまえも悪いんだからね。」
「そうですね・・・・」
そう答えながらも隣でぷっと頬を膨らませている都筑も可愛いと思っている邑輝だった。



「あと、4時間くらいですか・・・」
腕時計を見ながら邑輝が呟く。
夜には帰ると言っていたいた都筑は暗くなる6時頃には冥府に戻るだろう。
そう考えると何とも時間が惜しい邑輝だった。
その様子に都筑がすっと腕を絡ませてくる。
「都筑さん。」
「何か食べに行こうか?」
「え?」
「奢ってくれるんだろう?」
嬉しそうな目を受け止めながら邑輝は戸惑う。
「それはそうですが・・・・夕食を作ってもらうのでしょう?」
「そうだよ、でもそれはそれ。・・・さすがにさっきのコロンはもらえないけど・・・でも食事ならOKだよ。」
「でも此処で食べて、そして巽さんの所でも食べるなんて、大丈夫ですか?」
「俺の胃だよ?大丈夫!」
ね?と見上げてくる顔に邑輝は苦笑した。
「いいでしょう。じゃあ、いいお店があるのでそこにご案内しましょう。」
予約していたランチの時間にも間に合わないが知り合いのオーナーに言えばどうにでもなるだろう。
何よりも大切な都筑との時間だ、ギリギリの時間まで顔を見ていたい。
「ん?どうした、邑輝?」
じっと自分を見つめてくる瞳に都筑が気付く。
「いえ・・・・ただ綺麗だな・・・と。」
思っていることをそのまま口に出す。
「ま、またおまえはそんなことを!そういこと言うの止せって、あれだけ言ってるのに!」
「でも感じたままを口に出しているだけですよ?変ですか?」
真顔で聞いてくる邑輝に都筑は呆れたように首を振る。
「邑輝・・・・おまえって・・・。ああ、もういいいや!そんなことより早く食事だ、食事!」
さ、早く!と都筑は邑輝の腕を引っ張る。



都筑に引きずられながら邑輝はスーツの上からそっとポケットの中の箱に触る。
ここには贈ったものとは違う本物のコロン。
もしかしたら疑って貰ってくれないかもしれないけれど、それでも・・・・・。


日曜日の昼下がり。
2人の姿は雑踏の中へ消えていった。
Happy Happy Birthday☆

2002・2・24
M・Hinase

★都筑さんお誕生日企画:「102」用に書いたものです。
都筑を挟んでの巽と邑輝を書いてみたかったのです。
あくまでも都筑さんは「幸せ」ということでvv
これはこれから始まる一連のシリーズの誕生日編にあたります。