嵐のように   〜2〜


「ふーっ」
召還課の扉の前で都筑は深呼吸する。
昨夜は早めに寝たおかげで、今朝は珍しく目覚まし時計と共に起きることが出来た。
でも・・・・と都筑は腕時計を見る。
見事に遅刻・・・定刻より20分過ぎていた。
こうならないために見たいテレビも我慢して早く寝たのに・・・・
これじゃあ、意味ないよなあ〜自分の事ながら情けなくなる。
扉に耳をあてて中の様子を伺うと、まだ朝礼をやっているのか巽の声が聞こえてくる。
・・・もう少ししてから入るか・・・
都筑は壁に背を預け少し待つことにした。
今入っていけば、みんなの前で巽に罵倒されることは必至。
今更取り繕う物もないように思うが、出来ることなら避けたい。
都筑は壁に寄りかかって欠伸をした。

目を瞑ると目覚めきっていないのか眠気に襲われる。
まったく、あいつのせいでとんだ週明けだ!
都筑は一昨日から昨日の夕方まで自分を自宅に帰さなかった男を思い浮かべた。
予定では一昨日、ディナーを食べて邑輝のマンションに泊まり
翌日早々に引き上げることにしていた。
都筑は男の一人暮らしだ、たまの休みぐらい洗濯や掃除だってしたい。
なのに邑輝はそう簡単には帰してくれなかった。
嫌だ、限界だというのに何度も何度も挑まれて・・・・
目が覚めたのは昨日の昼前・・・結局そのままなし崩し的に夕方まで離してもらえなかった。
一時でも「愛されているのならいいや」と思った自分が許せない。
そのうえ今回、邑輝は都筑の精気を少しとったようだった。
最近、仕事が多忙で、流石の邑輝でも少々疲れていたようだ。
たまに許可を得ないまま吸われてしまうことがあった。
『貴方の精気で疲れが癒されるのですよ』とか何とか言って。
この怠さはそのせいかもしれない。
・・・ほんと、いいようにされてるよな、俺・・・・
しばらくは会わない方がいいかもしれない。
旅行がどうのこうの言っていたが知ったことではない。
お互いの欲求のはけ口のような関係に、溜息が出た。


朝礼が終わり、各々が自分の仕事に散っていくのを確認して都筑は部屋に入った。
「おはよー密。」
上着を肩に引っかけたパートナーに声を掛ける。
「なにが、おはよーだ。来てるんなら、さっさと入ってきやがれ、この馬鹿!」
「え?あ、分かってた?」
えへへ、と笑う都筑を一瞥し部屋を出ようとする。
「あれ?何処いくの?」
「今日は1日課長について術の練習だ。」
「あ、そう・・・・いってらっしゃい。」
早く一人前になりたくて毎日のように鍛錬に励む少年をこういう時眩しく感じる。
若さというものを感じる時。
自分なんか毎日、何やってるんだろう・・・という思いの繰り返しなのに。
軽く息を吐いて自分の机を見た都筑は息が止まった。
それは・・・
軽く辞書2冊文程の書類の束、それも全部付箋がびっしり付いている。
その上に載せられている紙を手に取ると達筆な字で提出期限が書かれてあった。
「な、なんだよ〜これ!」
あまりの量に目の前が真っ暗だ。
「たつみーっ!」
都筑は自分が遅刻したことも忘れ課長室に飛び込んでいった。


バーンッと開かれたドアに巽は眉をひそめる。
顔を上げるとそこには口をへの字にした都筑が例の紙をくしゃくしゃにして立っていた。
「ノックしてから入りなさいと何度言えば分かるんです?」
「こ、これはなんだよ!先週、俺が残業して書いた報告書じゃないか!」
期限の書いた紙を机に叩きつける。
「分かりませんか?付箋、つけてたでしょ、やり直しですよ。」
「だって、提出した時、おまえこれでいいって言ったじゃん!」
「あの時はぱらっと見ただけですからね。よく見直したら間違いだらけだったんですよ。」
「そんなあ、あれだけの量・・・・」
「都筑さん、そもそも私に文句を言える立場ですか?やり直すのが嫌ならはじめからちゃんと書いて出せばいいんですよ。新人じゃないんですよ、貴方は。黒崎君でさえ貴方より数段良い書類を提出しています。・・・・・それに」
都筑を見る目が険しくなる。
「月曜日から遅刻してくるとは、いい度胸です。来ているのならさっさと入ってきなさい。なに外でくつろいでるんです。」
げっ、巽まで・・・・都筑はすっかり出鼻をくじかれてしまった。
どう考えたって自分に有利なものなどないのだということに今更ながら気付かされる。
「わかったよ・・・・やればいいんだろう?やれば。」
なんかホントに馬鹿みたいだ・・・・都筑は溜息と共に近くにあったソファに座り込んだ。
握りしめた紙を広げる。
2日後の提出期限・・・・また残業になることは確実だ。
少しの間忘れていた身体の怠さが蘇ってきた。



「都筑さん・・・・」
呼びかけられて顔を上げるといつの間にかソファのすぐ横に巽が立っていた。
手を伸ばし都筑の頬に添える。
「顔色がよくありませんね・・・・具合でも悪いのですか?」
「え?ああ、ちょっと怠いだけ・・・大丈夫だよ。」
本当は大丈夫ではないけど、昨日までの事を詮索されることになると困る。
「本当に?・・・・また寝られないとか・・・・」
「あ、それはないよ。最近はよく眠れる。」
時々オプション付きですけど・・・・と心の中でつけ加える。
都筑の答えに満足しないのか、巽は尚も心配そうな顔をしてくる。
「・・・今夜うちにいらっしゃい・・・食事作りますから。」
「いいの?でもこの書類・・・・」
「体の調子が悪いのに無理をさせてもいけませんから。2,3日期限は延ばしますよ。
職員の体調管理も私の役目ですから・・・・いいですね?」
そしてそっと口づけを落とされる。
それは触れるかどうかの優しいもの。
隣に座り込んだ巽に抱きしめられる。

ここは職場だからこれ以上は巽はしてこないだろうけど・・・。
都筑は怠い身体をソファの背に預け首筋に巽の唇を感じた。
「たつみ・・・?」
「無理をしてはいけませんよ・・・」
そっと耳元で囁かれる言葉。
俺を労る言葉。
やっぱり巽が好きだ・・・・
邑輝とあんな関係を続けながら、こんな事考える自分は勝手だと思うけど。
今の自分にはどちらも必要で
いつまでもこのままで・・・と思ってしまう。
都筑は返事の代わりに自分から巽の唇を求めていった・・・・。


2001・10・9
M・Hinase

★・・・・さて何を書きたいのか・・・・
 この連載での都筑さんは性悪というか、ちょっぴり狡い感じですね。
 いつもは可愛い都筑さんばかりなので、これもいいのでは?
 今回は巽都でしたv。