嵐のように・・・1


ドサッ、と置かれたパンフレットの数々に
口に運んだスプーンを銜えたまま都筑は顔を上げた。
そこにはにっこり微笑んだ男の顔。
そしてもう一度テーブルの前に置かれた紙の山を眺める。
「・・・・何?これ・・・」
スプーンに残る甘さを舐めながら都筑は、再び顔を上げた。
「旅行のパンフレットです。」
そう言いながら邑輝は都筑の隣に座りその中の一部を手に取る。
パラパラッとめくる動作を眺めながらもアイスを食べる手は止めない。
「いや、それは分かるんだけど・・・・」
「ほら、ここはどうです? 貴方温泉好きでしょう? お部屋に露天風呂がついているそうですよ」
旅館の写真が載った所を指さす。
「へえ〜豪華だねえ、お風呂も広そうだし・・・・って、ちがーう!」
つい相手のペースにのって一緒に覗き込んでいた都筑は慌てて座り直す。
「どうしたんです?大きな声を出して。」
「あのなあ〜」
はああ・・・と ため息をつきながらもグラスに盛られたアイスは減っていく。
「一人で、どんどん話を進めるな。なんで旅行の話が急に出てくるんだ。」
「急じゃありませんよ。」
何を言ってるんですか?といわんばかりの顔で言い返される。
「先日、『何処か行きたいですね』って私が言ったら、『それもいいね〜』って言っていたじゃありませんか。」
都筑はアイスをつっつく手を止め記憶を辿る・・・・え?いつしたんだ、そんな会話・・・。
動作の止まった都筑を見ながら、邑輝はまた別のパンフレットを手にした。
「思い出しませんか?・・・ひどいですね。あんなに楽しい思いをした後だというのに・・・」
・・・楽しい思い?・・・
尚も考え続ける都筑に邑輝は芝居がかった悲しそうな顔をする。
「1週間前に貴方がここに泊まった時にベッドの中でお話ししたでしょう?私も最近、忙しくて旅行には行ってないから、そろそろ何処かへ行こうかと・・・・」
そう言われれば・・・・なんかそんな話をしたようなしなかったような・・・・曖昧な記憶が蘇る。何せ眠りに入る前のまどろみの中での会話だ、記憶がはっきりしない。
「ああ、貴方あの夜は激しかったですからねえ。かなりお疲れだったとは思いますが。」
「激しかったって・・・な、な、何言ってんだ、お前は!」
空になったグラスをテーブルに叩きつける。
「何って、貴方があの日どんなに燃えたかを・・・」
「あーだから、言うな!しゃべるな、もう!」
はあはあ、と肩で息をしながら真っ赤な顔で邑輝を睨みつける。
その顔が面白くて微笑んでしまう。
「まったく、お前は何でいつもそうなんだ・・・・」
思い出すのも恥ずかしいと思っているのに、そればかりか言葉にしようだなんて・・・
都筑は火照る顔を俯かせて、ぼそぼそと口の中で文句を言った。
「お嫌いですか、こういう話は。」
「好きとか、嫌いとかの問題じゃないだろう!こんな明るい電気の下で話す事じゃないって言ってるんだ!」
「そうですか・・・・」
邑輝は手にしていたパンフレットをテーブルの上に置くと都筑に向き直った。
「じゃあ、何処ならいいんです?」
ぐいっ、と顔を寄せてきた邑輝につい体を後にずらす。
「えっ?何処って・・・・あ、ほらここなんか俺好きかも〜」
と、他に目を向けさせようとテーブルの上に伸ばす。
しかし逆にその手を掴まれて引き寄せられる。
「あ、あの〜行き先の話・・・・」
「今はいいです。」
おまえが話し始めたんじゃないか〜とは都筑の心の叫び。
近づいてくる顔に思わず目を瞑ると、ゆっくりと口づけが与えられる。
唇を軽く噛まれ、思わず開いた僅かな隙間から邑輝の舌が入ってきた。
ひとしきり都筑を味わって、邑輝は口を離す。
「甘い味がしますね・・・・」
そう呟くと指で都筑の唇を辿る。
「貴方に甘いものを食べさせると、私はその何倍もの甘さを享受出来るんですね。」
くすくす・・・と笑いながら都筑の腰へと手を廻してきた。
「だから、そんな恥ずかしいことを言うのはやめろって、んっ・・・」
再び与えられた口づけに言葉が継げなくなる。
いつもそうなんだよな〜とぼんやりしてきた意識の中で都筑は思った。
こいつの思うとおりにいつも事を進められて・・・・。

「都筑さん・・・・寝室へ。」
そう耳元で囁かれて、都筑は邑輝の首に腕を廻す。
ま、流される俺も俺なんだけど・・・都筑は口元を少し緩めて笑った。
愛されるのは嫌じゃない
自分が必要とされている証だから・・・・
ベッドの上で邑輝の重みを受け止めながら
都筑は快楽だけを追う。
肌を撫でる指が自分を繋ぎ止める鎖になるのなら
それでもかまわない・・・・。

2001・9・26
M・Hinase

★始めてしまいました・・・連載第2弾。今のところそんなにダークにする予定はないです、でもちょっと小狡い都筑さんというのもたまにはいいかも・・・と思いまして。ここでは邑輝→都筑←巽の構図でいきます。割と短い連載になると思っておりますが・・・たぶん。連載なのでこの部屋に置きましたが、軽いギャグも入りますので。